【5月11日付編集日記】動機

 シャーロック・ホームズを生んだ英作家コナン・ドイルが名探偵の抹殺を計画したことがある。最後にふさわしい場所を探していたら、たまたまスイス旅行中に大きな滝を見つけた。作品ではこの滝つぼに落ち消息不明になったことにした

 ▼ドイルが一番書きたかったのは歴史小説。副業的なホームズ物語の締め切りに追われて、筋立てを考えるのも苦痛だったようだ。存在が疎ましくなったとしても不思議ではない。ホームズは消え、戻ってくることはありませんと母親にしたためてもいる(河村幹夫「評伝 コナンドイルの真実」かまくら春秋社)

 ▼まさかの結末に読者からは抗議が殺到し、喪章を着ける市民もいたという。結局ホームズを再登場させることになり、その後の作品で周到に復活劇を書き込んだ

 ▼栃木県那須町の河川敷で夫婦の遺体が見つかった事件は、これまで6人が逮捕された。首謀者とみられる男は知人だったが、4人は被害者と面識がなく報酬が目的とみられる

 ▼もちろん、ドイルほどの鮮やかな急展開と比べるつもりは毛頭ない。ただ、動機がなんであったにせよ、どこかで歯止めはかけられなかったのか。愚かな行為が招いた結末に、改めて命の重さを思う。

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