「木を切るのは悪いこと」家業は後ろめたかった 地元に戻った男性、林業継承への試みとは

生木に斧を入れる作業の手本を見せる芦田さん(南丹市日吉町・グリーンウッドヒル)

 樹木に囲まれた作業場に、木を割る心地よい音がこだまする。

 生木を利用した木工細工「グリーンウッドワーク」と呼ばれる体験の参加者が、スプーンやヘラを作っていく。今年完成した京都府南丹市日吉町にある作業場「グリーンウッドヒル」での光景だ。

 芦田拓弘(あしだ・たくひろ)さん(32)。本業は林業会社「あしだ」(同町)の取締役。林業への危機感から4月から同体験を始めた。

 祖父の代から林業を営む。幼い頃は家業に嫌悪感を抱いていた。小学4年の時、授業で「環境のため森を守らないといけない」と学んだ。「木を切る林業は悪いこと」と後ろめたさを感じた。

 太陽光発電などエネルギーへの興味から、就職は石油プラントを作る会社へ。仕事は順調だったが、コロナ禍で人の仕事が機械に置き換えられていくさまを見て、「AIなどができない1次産業」に関心が移っていった。

 父親たちが汗水を流してやっていた木を育て、伐採する仕事は、容易に機械化できる仕事ではない。回り道をしながら、2022年、日吉に帰ってきた。今は林業が自然に役立つこともわかる。

 ただ林業を取り巻く厳しさは痛感している。木材価格の長期的な低迷、林業関係者の高齢化や担い手不足など課題は山積。だからこそ「グリーンウッドワーク」などの試みで、林業への関心を高めようとしている。

 「木工を通じて木について知ってもらい、森について気軽に話せるサロンに育てたい」

 民間企業で培ったノウハウで新事業にも着手する。消費が森林保全につながる仕組みを目指し、加盟店での買い物で価格の1%がエコポイントとして寄付されるアプリの開発を進める。寄付金は間伐や植林に生かされ、二酸化炭素(CO2)削減にも貢献できれば、林業の新たな収益にもつながると考える。

 「木は植林から伐採まで60年以上かかる。林業や森の未来を長い目で考えないといけない」。祖父の代から変わらない作業着で、林業の可能性を追求し続ける。

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