近年さまざまな話題となっている「モペット(ペダル付き原動機付自転車)」とはどのような乗り物なのか解説

近年、問題となっているのがペダル付き原動機付自転車「モペット」を、登録なしや無免許運転する事例でしょう。モペッドは、原動機付自転車と同等の乗り物でナンバー登録や免許が必要な乗り物ですが、日本ではあまり知られていない乗り物です。そもそもモペットとはどのような乗り物でしょうか。

モペットとはどのような乗り物か

モペット (moped) とは、日本ではペダル付きのオートバイを指す総称です。Motor(モーター、原動機)とPedal(ペダル)を組み合わせた造語であるモペットは、エンジンや電動機の動力だけでなく、人力でペダルを漕ぐことでも走行できる、ユニークな乗り物として知られています。年配の方の中には、「バタバタ」や「ペケペケ」といった愛称で呼ぶ人もいるでしょう。

出典:Wikipedia

モペットの歴史は古く、1900年代初頭にヨーロッパで登場しました。当初は、自転車に小型のエンジンを取り付けた形態が主流でしたが、次第に専用設計のフレームを採用するようになりました。日本では、第二次世界大戦後の復興期に、安価で実用的な交通手段として普及し始めました。

日本でのモペットの歴史

日本におけるオートバイの歴史は、1898年に柴義彦がアメリカから輸入し、組み立てて製作した車両の写真が最古の記録として残されています。しかし、日本の純国産オートバイ第一号として広く認識されているのは、1909年に島津楢蔵によって製作された「NS号」です。このNS号は、400ccの4ストローク単気筒エンジンを自転車をベースに製作したフレームに搭載した車両で、ペダルが付いていました。

その後、オートバイエンジンの高出力化と重量増加に伴い、本格的なオートバイ用のフレームが開発され、小型の後付けエンジンとは別のカテゴリーで発展していきました。日本では、太平洋戦争前には自転車取付エンジン式のオートバイ開発は広まりませんでしたが、戦後になると状況が一変します。

太平洋戦争後、旧日本軍から放出された発電用エンジンを自転車に取り付けた車両が登場し、やがて小さなメーカーから専用の自転車用取付エンジンが発売されるようになりました。1948年には年間販売数が2,000台、1949年には10,000台ほどに達するほど、自転車用取付エンジンの人気が高まっていきました。

現在まで続くメーカーの中では、本田技術研究所(現・ホンダ)が1948年に50ccのホンダA型を発売し、1952年には「カブ 取付エンジン F型」を発売するなど、早くから自転車用エンジンに注力していました。また、鈴木式織機(後のスズキ)は、1952年にパワフリー(36cc)を発売し、後継機種のダイヤモンドフリーやミニフリーシリーズ(50cc他)を1959年まで販売しました。当時オートバイも販売していたブリヂストンタイヤ(現・ブリヂストン)も、1954年に50ccの富士精機製エンジンを用いた取付エンジンを発売するなど、各社が自転車用エンジンの開発に力を入れていました。

しかし、日本の自転車用取付エンジンは、重積載用の実用型自転車に取り付けられて過負荷で酷使される事例が多く、振動や高速走行によってフレームや車輪に過大な負荷がかかり、破損事故を引き起こすことがありました。また、性能向上の許容度が低いという欠点もあったため、1960年頃までには完成車型モペットの普及によって徐々に廃れていきました。

1957年、日本初の完成品ペダル付きオートバイであるタス・モーペッド7HFが発売されました。翌1958年には、スズキがペダル付きのスズモペットSM-1(50cc)を発売し、同年に発売されたホンダ・スーパーカブの大ヒットにより、原動機付自転車の主流はペダル付きからペダルなしへと急速に移行していきました。

「モペット」という造語は、スーパーカブに代表されるビジネスバイクにも流用され、山口自転車の山口・オートペット、ヤマハ発動機のヤマハ・モペット、川崎重工業(現・カワサキモータース)のカワサキ・ペット、スズキ・セルペットなどの車名に用いられました。1961年をピークとする「モペットブーム」は、これらアンダーボーンフレームのビジネスバイクの流行を指しています。

その後も50ccのスクーターやビジネスバイクを含めた原動機付自転車のブームはたびたび訪れましたが、足漕ぎペダルが付いていることを特徴とするモペッドは、日本の法規において利点を活かすことができず、広く普及することはありませんでした。

モペッドと電動アシスト自転車は何が違うのか

電動アシスト自転車が人気を集める一方で、従来からあるモペットとの違いについて疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。ここでは、モペットと電動アシスト自転車の主な違いについて解説します。

まず、法的な定義に目を向けると、モペットは道路交通法上、原動機付自転車(第一種・第二種)に分類されるのに対し、電動アシスト自転車は自転車に分類されます。動力源に関しては、モペットは原動機(内燃機関またはモーター)を主な動力源とし、ペダルは補助的な役割を果たします。一方、電動アシスト自転車は人力(ペダル)を主な動力源とし、電動モーターはアシスト機能として働きます。

最高速度については、モペットは第一種で30km/h未満、第二種で60km/h未満に制限されているのに対し、電動アシスト自転車はアシスト動力の上限が24km/h未満に設定されています。排気ガスに関しては、モペットは内燃機関を使用する場合は排出しますが、モーターを使用する場合は排出しません。電動アシスト自転車は電動モーターを使用するため、排気ガスは出ません。

運転にあたっては、モペットは原付免許(第一種)または普通自動二輪免許(第二種)が必要ですが、電動アシスト自転車は免許不要です。ヘルメットの着用については、モペットは義務付けられているのに対し、電動アシスト自転車は努力義務となっています。また、モペットはナンバープレートの取得と掲示が義務付けられ、自賠責保険への加入も必須ですが、電動アシスト自転車はナンバープレートも自賠責保険も不要です。

道路の通行ルールに関しては、モペットは車道の左側を通行し、歩道の通行は原則禁止されています。電動アシスト自転車も車道の左側を通行しますが、一定の条件下で歩道の通行が可能です。二人乗りについては、モペットは一定の要件を満たせば可能ですが、電動アシスト自転車は原則禁止されています。

モペッドを運転する際に必要な物は?

日本では、モペットの登場初期は軽車両扱いで運転免許が不要でしたが、1960年(昭和35年)の道路交通法施行以降は、16歳以上を対象とする原動機付自転車免許が必要となりました。一方、ヨーロッパでは長らく許可証取得や車両登録のみで運転できる国が多かったものの、2013年1月からは欧州連合 (EU) 加盟国全てで、設計上の最高速度が25km/h超45km/h以下のモペッドの運転にAM運転免許が義務づけられるようになりました。

日本の公道でモペットを運用するには、国土交通省が定める道路運送車両の保安基準に基づいて、ヘッドランプ、ホーン、リアリフレクター、ナンバープレート、ナンバープレートランプ、リアビューミラー、スピードメーター、テールランプ、ブレーキランプ、ターンシグナルランプなどの装備を取り付けることが義務付けられています。ただし、最高速度が20km/h未満の車両については、スピードメーター、テールランプ、ブレーキランプ、ターンシグナルランプの装備は免除されます。

電動モペットの登場で問題となった違法走行

エンジン仕様のモペットはオートバイや電動アシスト自転車の登場により、ほぼ絶滅している状況に近いほど衰退しています。その一方で、躍進しているのがモーターとバッテリーを使用した電動モペットですが、日本では、この電動モペットが違法走行している事例が多いことで問題となっています。

モペットはエンジンやモーターを始動せずにペダルのみで走行する場合でも、原動機付自転車の扱いとなるため、ヘルメットの着用が義務づけられ、車道を走行しなければなりません。しかし、モペットの認知度が低いことや、電動タイプのモデルが電動アシスト自転車と見分けがつきにくいことなどから、無免許運転や歩道走行などの交通違反が後を絶ちません。警察は、こうした違反行為に対して厳しく取り締まっています。

モペットは、原動機付自転車という位置づけであるため、運転には原付免許が必要で、ナンバープレートの装着やヘルメットの着用も義務付けられています。しかし、一部のユーザーの中には、こうした基本的なルールを軽視する傾向が見受けられます。

ニュースでよく聞く「まさか切符を切られるほどとは」という違反者の言葉からは、モペットに乗ることの責任の重大さに対する認識の甘さが透けて見えます。彼らは、モペットが気軽な移動手段だと考えているのかもしれません。しかし、公道を走る以上、他の車両や歩行者の安全に配慮し、交通ルールを遵守することは運転者の義務です。

また、モペットを自転車だと思い込んでいるユーザーが多いという指摘もあり、これは、交通ルールに対する理解の浅さを物語っています。電動モペットは自転車に似た外観が多いですが、法律上、モペッドは紛れもなく原動機付自転車であり、自転車とは全く別の乗り物です。

そして、違法モペットに乗ることのリスクは計り知れません。ナンバープレートを付けずに運転するということは、保険にも加入していないということを意味します。万が一、歩行者との事故を起こせば、道交法違反と重大な過失行為を問われ、高額な賠償金の支払いを命じられる可能性があります。しかも、その賠償責任は自己破産をしても免れることはできないのです。

同時に、行政や警察、メーカー、販売店も、モペッドの適正利用を促すための取り組みを強化する必要があります。例えば、ネット通販の際に、ナンバープレート申請の重要性を強調したり、購入者に申請を義務付けたりするなどの措置が考えられます。また、モペッドの正しい乗り方や交通ルールについての教育を徹底することが求められます。

警察による取り締まりは、こうした違法行為を抑止し、事故を未然に防ぐための重要な活動です。モペッドをめぐる問題は、単なる交通ルール違反の問題にとどまらず、より深刻な社会問題であることが分かります。

© シクロライダー編集部