月収60万円・53歳のサラリーマン、順調にキャリアを重ね「部長に昇進」!定年後も安泰のはずが、一転、「老後破産」がチラつく理由

多くのサラリーマンはキャリアを重ねながら給与も上昇。50代にそのピークに達します。まさにサラリーマン人生の頂点。しかし、そのようなタイミングでフェードアウトし、さらには老後破産を心配しなければならないケースも。みていきましょう。

ひとり暮らしの母が認知症に…母と同居して在宅介護、そして介護離職へ

5月8日、認知症の患者数が2030年に推計523万人にのぼると大きく報道されました。これは、二宮利治九州大教授が代表を務める厚生労働省研究班の調査によるもので、2022年時点の443万人から、およそ80万人増える推計です。

また認知症予備軍とされる軽度認知障害の患者数も2030年に593万人、2060年に632万人に増えると推計。これも含めると、2030年には認知症患者は1,000万人を超える勢いです。

ただ2014年に行った同様の推計から3割程度下回りました。また2012年度調査と比べると、ほぼ同様の数値ながら、認知症患者は減少し、その分、認知症予備軍が増加。その要因として健康志向の高まり、喫煙率の減少をあげています。

とはいえ、高齢化の進展とともに認知症患者の増加はある意味、既定路線。そして認知症患者の家族の負担は、依然として重いものがあります。

認知症の80代母の介護について投稿する58歳の男性もそのひとり。いまからさかのぼること10年ほど前に、軽度の認知症と診断されたといいます。当時、母親はひとり暮らし。ただ症状の進行は非常にゆっくりで「これであれば、しばらくは大丈夫かな」と考えていたといいます。しかし5年ほど前から症状は進行し、とても母をひとりにしておけないと同居を決め、在宅介護をスタート。しかし仕事との両立は難しく、離職を決意したといいます。

内閣府『令和3年版高齢社白書』によると、要介護者が介護を必要になったきっかけとして最も多いのが「認知症」で18.1%。男女別にみていくと、「男性」は14.4%で、理由としては「脳卒中」24.5%に続き2番目。「女性」は19.9%で理由としてトップ。年齢とともに発症リスクが高まる認知症。女性のほうが平均寿命が高いことが要因と考えられます。

また令和5年版の同白書によると、介護・看護を理由に離職した人は女性7.5万人、男性2.4万人と合計9.9万人。毎年9万~10万人程度で推移しています。

「介護休業」などの制度利用、わずか「10人に1人」という現実

男性が会社を辞めたのは53歳。大学卒業以来働いてきた会社で、部長に昇進したときだったといいます。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、50代前半・部長職の平均給与は月収で60.7万円、年収で984.0万円。給与はほぼ大台にのり、またサラリーマン人生の中でもピークに達しようとしているとき。男性は介護離職をしてしまいました。

2016年、介護離職数の増加を受け、法改正。支援内容は大幅に拡充されました。介護休暇は、正社員をはじめ、アルバイトやパート、派遣社員や契約社員も取得でき、要介護状態にある対象家族1人につき、最大5日取得できます。また、半日単位の取得も可能です。

また負傷や疾病、身体もしくは精神の障害などの理由から2週間以上「常時介護」が必要な家族を介護する場合に取得できる介護休業は、日雇い労働者を除くすべての従業員が利用可能。要介護状態にある家族1人につき3回まで、通算93日まで取得できます。

総務省『令和4年就業構造基本調査』によると、「介護者」は全国に628万人。そのうち仕事をしている人は364万人で、正社員など仕事を主としている人は274万人でした。一方で、介護休業等制度を利用している人は、仕事を主としている人でも32万人。323万人が制度を利用せずに介護をしています。単純計算、制度利用は11.6%。10人に1人という水準です。制度はあるものの、利用されているとは言い難い状況です。

離職して5年。最近では、在宅での介護に限界を感じ始めていると男性。施設への入居も進められたといいますが、どうしても踏ん切りがつかないといいます。「やはり、親を施設に入れるなんて……」という話ではなく、最も心配しているのはお金。

いつまで続くか分からない親の介護、一方で自分も確実に年を重ねている。老後を見据えて資産形成をしなければいけないと考えていた矢先に介護離職。現在、男性は十分に貯蓄があるとはいえない状況なのです。そのため親の介護費用は親の年金や貯蓄だけで賄いたいところ。しかし施設への入居となると、毎月、男性自身も負担しなければなりません。自身の将来を考えたとき、身銭を切るのは避けたいと、親を施設に入れることを拒んでいるわけです。

順調にキャリアを重ね、部長職にまで上り詰めた男性。そのキャリアの先には、悠々自適な老後が待っていたはずでした。しかし親の介護により離職。早く仕事を辞めた分、将来的に手にする年金は減額必至です。

――親の介護の先に、老後破産という言葉がチラつきます

介護離職の先に待つ、介護者自身の破産。高齢化の進展により、ますます増えていくでしょう。仕事と介護の両立を支援する制度の、さらなる強化が求めらえています。

[参考資料]

内閣府『令和3年版高齢社白書』『令和5年版高齢社白書』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

総務省『令和4年就業構造基本調査』

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