「数時間で17万円が…」“スマホ乗っ取り”被害の市議会議員が指摘…携帯ショップ・信販会社「本人確認」の穴

松田市議はまさかの手口で犯罪に巻き込まれた(Skylight / PIXTA)

「被害に遭った4月30日当日は市政報告のためのビラ巻きを行っていました。午後3時ごろになってふと携帯に目を向けると、電波が立っていなかったので〝電波障害なのかな〟くらいの気持ちでしたが、まさかあんな被害に遭っているとは……」

そう語るのは大阪・八尾市で市議会議員を務める松田のりゆき氏だ。冒頭のように被害当日、市政報告のために街頭に出ていた松田市議が自身の被害に気付いたのは活動を終えて自宅に戻った午後6時ごろだったという。

「私のキャリアはソフトバンクなのですが、自宅に戻って調べてみると電波障害は起きていないことが分かりました。それで慌てて八尾市の商業施設のショップに向かうと店員さんから〝名古屋の柴田店で本日機種変更されています〟と告げられたんです」

驚いた松田市議は店員を介して当該ショップに連絡を取ってもらい、直接話をすると柴田店の店員から「マイナンバーを提示されたので機種変更を行いました」と説明されたという。

「にわかには状況がつかめませんでした。どうやらショップ側はマイナンバーカードの確認をカードリーダーのような機器ではなく、視認で行ったようでした。マイナンバーカードには生年月日などの個人情報が記載され、写真も貼られていたそうですが、おそらく偽造されたもので、写真は私ではなく、犯人のものだったと思います」

この時すでに、松田市議の携帯番号は何者かに乗っ取られていた。「SIMスワップ」といわれる手口で、日本では2018年ごろからその発生が確認されている。犯人が本人になりかわり、携帯電話の持ち主としてキャッシュレスで各種決済を行い、金品等を入手する。

4月には東京都議会議員の風間ゆたか氏も同様の被害に遭ったことを報告し、注意喚起している。

どうやってスマホを乗っ取るのか

それにしてもなぜこんなことが可能だったのか…。電話番号を乗っ取るにも携帯端末の機種変更等が必要で、そのためにはショップ等での本人確認もある。

実は松田市議はその職業柄、市民からの要望などを受けるために自身のホームページ(HP)に携帯電話番号も記載していた。おそらく犯人は、公開されている松田市議の生年月日などの個人情報と携帯番号をもとにマイナンバーカードを偽造し、機種変更に及んだものとみられる。

「それで慌てて携帯が悪用されていないかを確認すると、携帯電話からPayPayを使用して5万円がチャージされたのに加え、使用したことのないソフトバンクカードもチャージ後に12万円ほど使用されていることがわかったんです」

わずか数時間で17万円の被害

知らぬ間に携帯電話を機種変更された挙げ句、わずか数時間の間に計17万円ほどの被害を受けた松田市議。だが被害はそれだけに止まらないことが翌5月1日に判明する……。

「私が携帯電話を停止している最中に犯人がyahoo!ショッピングで225万円ものロレックスをローンで購入していたことに気付いたんです。ロレックスを購入していたのも機種変更をされたのと同じく名古屋市内でした」

17万円の被害のほかに225万円もの被害を受けていたことが分かり、松田市議はすぐさま信販会社に連絡。すると、会社側の当初の対応は〝もう契約が成立していますので〟とにべもなかったという。

「納得できないので、『そんな契約はありえない、裁判になっても勝てる』などと抗議すると、信販会社側が速達で支払い停止の抗弁書を送ってくれたので、なんとか被害は免れました。ソフトバンクカードの被害も〝不正行為とみなしています〟と会社側から連絡があり、支払わずに済みました。PayPay(ペイペイ)に関してもすでに先方には申告しているので対応はしてくれると思います」

いまになれば、被害を受ける約1週間前から非通知の携帯から何度も電話があったと松田市議は振り返る。

マイナンバーカードの確認は視認のみのゆるさ

「犯人は恐らく、ソフトバンク特有の着信の際の音でキャリアを確認していたのだと思います。名古屋でローンで購入された時計は東京の店舗で受け取られていることからも犯人は単独ではないと思います。今回はなんとか被害は免れましたが、自分の預かり知らぬところで偽造したカードを悪用され被害を受ける可能性は誰にでも起こり、自分では防ぎようがありません。携帯キャリア、信販会社には本人確認を二重三重に厳格に行っていただきたいと思います」

松田市議が指摘するように今回、犯人が本人確認に使用した偽造マイナンバーカードはショップ店員による「視認のみ」の確認で、容易に突破されている。

この点についてソフトバンクも9日の決算会見で、宮川潤一社長兼CEO最高経営責任者(CEO)が「現状はマイナンバーカードの原本確認と本人確認を行うのが店舗でのオペレーション」と説明したうえで、「一部店舗でそのプロセスが不十分だった」と不備を認めている。

マイナンバーカードの場合、機器を使ったICチップ読み取りによる確認も可能なだけに、それがされないとなれば、店舗等での本人確認はザルに近いといっていい。

近年では中国版〝闇バイト〟の掲示板などに応募し、指示役から送られてきたプリンターと個人情報をもとに、マイナンバーや在留許可証などを偽造する犯罪が相次いでいる。松田市議が訴えるように、携帯会社や信販会社にはさらなる厳格な身元確認が求められているのではないだろうか。

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