「光る君へ」第十八回「岐路」女にすがる男たちの姿と、その中で際立つまひろと道長の絆【大河ドラマコラム】

NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日に放送された第十八回「岐路」では、藤原道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)の死と、それによって空席となった関白の座を巡る道長と藤原伊周(三浦翔平)の争いが描かれた。

妻・定子(高畑充希)の兄・伊周を関白に、と決めていた一条天皇(塩野瑛久)だったが、母・詮子(吉田羊)の必死の説得に折れ、関白は空席のまま、内覧の職を伊周から道長に移し、さらに道長を伊周より上位の右大臣に任命する。これによって道長が朝廷のトップに立つ一方で、敗れた伊周は定子を激しく責め、「皇子を生め!」と迫る。自分の実力不足を棚に上げ、妹にすがるしかない伊周の姿は、滑稽を通り越して哀れですらあった。

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伊周だけでなく、この回は他にも、女にすがる男たちの姿が描かれていたのが印象に残った。

道長を右大臣に任命し、一見、聡明な判断を下したように思える一条天皇も、元々は定子の頼みもあって伊周を関白にしようとしていたわけで、それを翻意したのも、詮子の懇願とも言える説得を受けたもの。その後、「嫌いにならないでくれ」と定子に詫びる姿には、公の場では見せられない人としての弱さがにじんでいた。

また、源俊賢(本田大輔)も、それまで仕えていた亡き藤原道隆(井浦新)の子・伊周が敗れたことを知ると、たちまち「これからは、右大臣様一本で行く」と道長に乗り換え、道長の妻である妹・明子(瀧内公美)に「俺のこと、道長さまに褒めておけよ」と念押しする。だが明子は「情けない兄上」「褒めるところがございませんけれど」とけんもほろろな答え。

すがって来る男たちとは対照的に、毅然としてたくましかったのが、定子や明子ら女たちの姿だ。道長の出世後、嫡妻・倫子(黒木華)が母・穆子(石野真子)と「女院様(詮子のこと)をこの屋敷で引き受けたのが、大当たりだったわね」「私も一度は、えー、と思いましたけれど、何が幸いするか、わかりませんわね」と笑い合う姿にも、出世に必死な男たちにはない余裕が感じられた。しかも倫子は一度、詮子に「私は関白になりたいとは思いませぬ」と告げた道長と共に「私たちは今のままで十分なのでございます」と語っていたことを考えると、そのしたたかさを感じずにはいられない。

結局、権力を手にしたのが出世を望まぬ道長というのは皮肉だが、この回のラストで道長は、「道長さまは、偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、より良き政をする使命があるのよ」「誰よりも愛しい道長さまが、政によってこの国を変えていくさまを、死ぬまで見つめ続けます」というまひろの言葉を思い出し、かつて逢瀬を重ねた場所を訪れる。そこで2人は偶然の再会を果たすが、視線を交わしただけで、まひろは「今語る言葉は何もない」と無言で去り、道長もその場に立ち尽くす。この回繰り返されてきた女にすがる男たちの姿とは対照的で、まひろと道長の関係が他とは違う特別なものであることを、強く印象付けた。

立場は大きく隔たり、今は容易に会うこともできなくなったまひろと道長。だがそれが逆に、途切れることのない2人の絆を際立たせたようにも感じる。番組の放送開始前から言われていた「ソウルメイト」という2人の関係が、ようやく実感を伴って見えてきた気がする。次回予告では、まひろが朝廷に上がるような場面も見られたが、道長との関係がこれからどう動いていくのか。さらなる興味をかき立てられた第十八回だった。

(井上健一)

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