「神降臨」ブロック、主将との名物ルーティン…「出し切れました」久光スプリングス退団、濵松明日香の旅立ち【Vリーグ女子】

黒鷲旗全日本男女選抜大会の下北沢成徳高戦の試合前に、ジャンプして体をぶつけ合う久光スプリングスの濵松明日香(4)と大竹里歩キャプテン(10)(撮影・永田浩)

バレーボールVリーグ女子1部(V1)の久光スプリングスを今季限りで退団する濵松明日香(25)にとって5月上旬に行われた黒鷲旗全日本男女選抜大会(Asueアリーナ大阪)は「恩返しのコート」になった。パワフルなプレーと明るいキャラクターでチームを支えてきた背番号「4」のミドルブロッカー。誰からも愛された「元気印」は仲間から託されたトスを全力で打ち抜き、鉄壁のブロックで会場を沸かせるハイパフォーマンスで久光での7年間を締めくくった。

大好きな青のユニホームに袖を通してのラストマッチは、決勝の一歩手前の準決勝で幕を閉じた。「優勝して恩返しを」と誓っていた濵松が歓喜のフィナーレを迎えることはできなかった。「でも…」と口にして言い切った。「やってきたことは出し切れました」。全力を尽くした「勝者」の顔が、そこにはあった。

「こっちのサンティアゴは私だからね!」

味方に勇気、相手にはダメージを与えてきた。今季3戦3敗だったJTマーヴェラスを「4度目の正直」で撃破した黒鷲旗大会準々決勝では、アタックで29打数19得点の決定率65・5%を記録。第4セットの23―16から、195センチの長身ミドルブロッカーで今季Vリーグでスパイク賞とブロック賞の2冠に輝いたサンティアゴを1枚ブロックで封じた。「あのプレーはうれしかったです。試合前は、みんなの前で『こっちのサンティアゴは私だからね! ブロックもスパイクも頑張るから』と言っていたんです」。有言実行の「スーパーシャット」で、吉武美佳(21)と北窓絢音(19)のサイドアタッカーコンビや高卒1年目リベロの高橋葵(18)ら若手を鼓舞した。

2022年4月9日、東レとのプレーオフ準決勝、気迫を前面に出して戦う(左から)井上愛里沙、戸江真奈、濵松明日香、石井優希、栄絵里香

久光で過ごした7年間で記憶に残る試合の一つに挙げたのが、優勝した2021~22年シーズン、東レアローズとのプレーオフ準決勝だった。最大5点差をつけられながら、チーム一丸でひっくり返した伝説のゴールデンセット。濵松自身、2本のブロックポイントを決めた。大逆転劇への呼び水になった12―16からに続き、21―19の場面でもさく裂した。「本当に『神降臨』でした。井上奈々朱さん(今季限りで現役引退)の時間差のクイックを1枚で止めたんです」。まさに東レの戦意を打ち砕く「神」と化した。

「ハマが最初に声をかけてくれました」

代名詞の「パワー」が際立つコートを離れれば、違う一面ものぞかせる。誰もが口をそろえる濵松の人懐っこさ。キャプテンの大竹里歩(30)は親しみを込めて「コミュニケーションお化け」と呼ぶ。21年にデンソーから久光に移籍した大竹は、合流初日のことを忘れない。「ハマ(濵松の愛称)が最初に声をかけてくれました。練習の流れや、やり方など右も左も分からず、不安でいっぱいだったので、本当にありがたくて、心強かったのを覚えています」と感謝する。この「ファインプレー」から心を通わせ始めた2人の関係は、いつしか試合開始直前にベンチ前でジャンプして体をぶつけ合う、スプリングスの名物ルーティンにまで発展した。

【次ページに続く】「自分を見つめる時間が多く」

23年夏に右足を手術した濵松は、入院生活やリハビリを続ける日々の中で「これからの自分を見つめる時間が多くて、いろいろと考えるようになった」と明かす。自問自答を繰り返した末、今季のリーグ終盤に退団を決断した。「きつかったことの方が多かったですが、久光が嫌いになったわけではありません」。心の整理をつける意味でも、一度真っさらな状態にしたかった。「常に100%、真心で応えてくださるので、何でも相談できるんです」と信頼する大竹にも伝えた。「ハマの人生なんだから、どんな選択をしても、私は応援するよ」。いつもと変わらず、うなずきながら耳を傾ける大竹の心遣いが身に染みた。

「最後」の試合でチーム最多得点

黒鷲旗大会ではジャンプして体をぶつけ合った後、お互いの気持ちを確かめるように抱き合ってから試合に臨んだ。結果的に最後の「儀式」となったデンソーエアリービーズとの準決勝。濵松は力を振り絞って戦った。トータル19得点(アタック16、ブロック2、サーブ1)は中川美柚(24)に並ぶチーム最多だった。「トスは自分から呼んでいましたが、ここまで求められたり、託されたりしたのは初めてでした。みんなのおかげです」。悔いなき花道。そんな「相棒」をいたわるように、そして新たな旅立ちへエールを送るように…。心優しきキャプテンの腕がコートを後にする背番号「4」の左肩へ、そっと伸びた。
(西口憲一)

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彼女と過ごした時間は貴重でした
酒井新悟監督(今季限りで退団する濵松明日香について)「濵松とは久光(当時久光製薬)で同期(入団)なんです。ずっと練習から一緒に歩んできたので。途中、精神的にもしんどい時がたくさんあったんですが、それを乗り越えてきた素晴らしい選手です。これで終わりではありません。次の舞台、次のステージで頑張ってほしい。彼女と過ごした時間は貴重でした」

【次ページ】濵松明日香はこんな選手

島根県出身、誠英高から久光入り
濵松明日香(はままつ・あすか)1998年12月22日生まれ。島根県浜田市出身。ポジションはミドルブロッカー。同市の国府小2年から「国府スポーツ少年団」でバレーボールを始める。浜田東中から誠英高(山口)に進学し、2017年に久光製薬スプリングス(現久光スプリングス)に入団。20~21年シーズンから頭角を現し、優勝した21~22年シーズン以降は主力として活躍。女子日本代表の登録メンバーに選出された22年は国際大会「AVCカップ」に出場し、優勝の原動力に。身長182センチ。背番号4。

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黒鷲旗の筑波大戦の試合前に、ジャンプして体をぶつけ合う久光の濵松(4)と大竹(10)(撮影・永田浩)

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