伊藤万理華は“感情を届ける俳優”だ NHK土曜ドラマ『パーセント』主演で新たな一歩へ

伊藤万理華が主演を務めるNHK土曜ドラマ『パーセント』が5月11日にスタートする。これまでも、草彅剛主演『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』、岸井ゆきの主演『お別れホスピタル』など、多くの名作を放送してきた同枠で、またも心震える作品が誕生しそうだ。

ローカルテレビ局「Pテレ」のバラエティ班で働く吉澤未来(伊藤万理華)は、念願のドラマ班へ異動に。自分が書いたドラマの企画書が通ったという。しかし、部長から「主人公を障害者に変更できないか」との相談があった。局内で行っている「多様性月間」の一環らしい。障害のある俳優を起用することを条件に企画が進む中、俳優を目指している車椅子に乗った高校生・宮島ハル(和合由依)と出会った。彼女に魅力を感じてオファーしたものの、ハルから「障害を利用されるんは嫌や」と言われてしまい……というあらすじ。

一足先に試写で本編第1話を拝見したが、さまざまなことが頭を駆け巡り、考え、最後までこのドラマを観たいと思った。そして何より、壁にぶつかって、それでも前を向いて、でも立ち止まって……という未来から目が離せなかった。憧れの先輩と恋に落ちるヒロインでも、人の命を救う天才医師役でもない。泥臭くてもがいているのに“キラキラ”している。そんな伊藤演じる未来が大好きになってしまった。

伊藤は乃木坂46の1期生としてデビュー。その高いダンスパフォーマンス力で、楽曲によってはセンターを務めることもあった。ただ、どこのポジションにいても彼女は煌めいていたように思う。普通のアイドルじゃない「表現者・伊藤万理華」から放たれる光はどこか異質で、見る人の心の闇をも切り裂くような力を持っていた。

伊藤はグループを卒業後、俳優としてさまざまな作品に名を連ねている。ドラマでは、主演作『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)、上田誠(ヨーロッパ企画)が脚本、吉岡里帆が主演を務めた『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)、舞台では東野圭吾原作『仮面山荘殺人事件』、高畑充希主演の『宝飾時計』などに出演。また、時代劇オタクの高校生を演じた(ショートカットも最高!)SF青春映画『サマーフィルムにのって』(2021年)や、シンガーソングライター・Karin.の楽曲にインスパイアを受けた映画『息をするように』(2021年)などの演技が評価され、第13回TAMA映画賞の最優秀新進女優賞、第31回 日本映画批評家大賞の新人女優賞(小森和子賞)を受賞している。

ファッションやアートなど、クリエイター面でも注目を浴びている伊藤だが、そのバックボーンがあるからか、演技でも“何か”が違う。有象無象の表現者というよりも、彼女でしか得られない感情がある。感情移入よりもその先の感覚に陥るーー。

『パーセント』でもそうだ。目の前にあるものに立ち向かう未来を見ていると“一生懸命生きるっていいもんだな”と思うし、彼女が悩んでいると一緒に落ち込んでしまう。きっとそれは、伊藤の演技から放たれる“人間の感情”が見ている私たちの元に届いているからだ。これは乃木坂46時代のパフォーマンスと通ずるものがある。彼女の表現を見ていると、あっという間に心を持っていかれてしまうし、胸がドキドキするのだ。

なぜ、あんなにも魅力的なのか。なぜ、台詞まわしと表情だけで、彼女が“背負っているもの”が見えるのか。ただひとつ分かるのは、情感たっぷりに演じる伊藤に我々視聴者は酔いしれるしかない、ということだ。

最後にこれだけは言える。『パーセント』は、伊藤の名をさらに世に知らしめるドラマになるに違いない。

(文=浜瀬将樹)

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