「日本版オートルート!」北アルプスの名峰をスキーの機動力で登り、滑る“スキーと登山の総合ルート”!

夜明け前から登り始めるスキーツーリングの人々(撮影:藤川健)

パウダーシーズンやゲレンデスキーシーズンが一段落した春の残雪期は、スキーツーリングのシーズン。山から山へとスキーを使って移動ができる。そんなスキーツーリングで日本屈指のロングルートと言えるのが「日本オートルート」と呼ばれる、立山〜槍ヶ岳までの北アルプスの山々をつなぐルート!

■オートルートとは元々ヨーロッパアルプスのロングルート

オートルートとは元々ヨーロッパアルプスのモンブラン、マッターホルンをつなぐ、フランスのシャモニーからスイスのツェルマットまでの約150kmのロングルート。スキーを使い、途中の山小屋を利用しながら何日もかけて走破する憧れのルートだ。そんなオートルートの日本版とも言えるのが、立山の雄山から槍ヶ岳までをつなぎ、上高地もしくは新穂高温泉へと抜ける約70kmのルートで、日本オートルートと呼んでいる。

昔はヨーロッパのオートルート同様、日本オートルートも春になると山小屋が営業を開始し、それらの小屋を利用することでテントや食料をもたず、身軽な装備で走破することができた。しかし近年は途中にある山小屋の春営業が行われていないため、槍ヶ岳山荘以外はテント泊。当然食料や燃料も持たなければならないので、昔とは異なり重装備でのスキーツーリングとなってしまう上級者向けのルートになっている。

■スキーを使った雪山登山「スキーツーリング」

スキー技術だけでなく、雪山登山の技術も必要

スキーツーリングとは、スキーを使って行われる雪山登山スタイル。登るときはスキーの滑走面にシールと呼ばれる滑り止めを装着し、専用のビンディングを使うことで踵を解放し歩くように登る。下りは踵を固定して滑る事ができるのが山スキー用のビンディングだ。

もともとスキーとは雪上の移動用具であり、アルペンスキーとは山を登って滑る山スキーであった。その後スキー場が開発され、人々は登らずして滑ることだけに専念するようになってしまったが、山を登って滑る「スキーツーリング」こそ、アルペンスキーの原点ともいえる。

スキーツーリングはなにもロングルートだけを指すわけではなく、日帰りの短いルートで多く楽しまれている。それでも、高い滑走技術や山の経験、知識、体力、装備などが必要となり、気軽に始められるわけではない。しかし、それらを長い時間と労力をかけて身につけることでやっとできる、ある意味で「究極のスキーと登山のスタイル」とも言える。

■スタートは立山、室堂から

日本オートルートは通常4日~5日かけて走破する、日本屈指のロングルートだ。山小屋が利用できない今となっては、行程や宿泊地に決まりがある訳ではなく、それぞれのペースや目的で決めることができる。今回は筆者が2024年の4月に実際に行った行程を紹介する。

まず初日は富山県の立山、室堂までの移動。富山県側からは立山町からバスで、長野県側からは電気バスやロープウェイを乗り継いで、標高2,450mの立山室堂まで移動することができる。乗り物移動だけでも半日近くかかるので初日は室堂山荘に宿泊。午前中に移動して宿に入った後、足慣らしを兼ねて軽装備で立山の主峰である雄山(3,003m)へ登ってひと滑り。2日目は日の出前の朝4時に出発。長い行程となるので余裕をもって目的地に着くために早出を心がける。この日の移動は4回ほど登りや滑りを繰り返し、16時にスゴ乗越到着。12時間の長丁場だった。

■雷鳥たちが闊歩する薬師岳を越えて

3日目は朝6時30分出発。朝の準備には時間がかかるのと昨日の長時間行動の疲れもあったので、この日の行程は短めに設定した。スゴ乗越から薬師岳までの稜線は人気の少ない静かな山域だが、そのせいもあってか雷鳥の姿が目立った。この日は百名山でもある薬師岳(2,926m)まで登り、太郎平までのロングスキー滑走で早めの終了。天気がやや不安定な日だったので短い行動が丁度良かった。

4日目は再び早出の朝4時出発。1日の好天が確実な日だったので、一気に双六まで移動する。月明かりのスタートから徐々にいろづいていく空の色。幻想的な景色を楽しみながら、黒部五郎岳(2,839m)を通過する。雄大な黒部五郎カールのスキー滑走はこの日一番の大斜面。日本オートルートではスキー滑走後にある黒部五郎冬期避難小屋を使うことが多いが、今回はさらに足を伸ばし双六岳(2,860m)まで移動。途中、大休憩をはさみながらも17時過ぎに到着。

■最終日の予定変更! 悪天候を避けて下山

当初の予定は室堂からスタートし、最後の槍ヶ岳山荘から下山まで5泊6日の行程だったが、最終日の天気が悪天候の予報だった。山の中にいても天気が確認できる便利な世の中なので、随時天気をチェックしながら進んでいたが、予報が良い方向に変わる気配はなかった。そのため予定を変更し、西鎌尾根から登る槍ヶ岳をキャンセルし、双六岳から大ノマ乗越経由で新穂高温泉へ1日早く下山することにした。

5日目は距離は長いが基本的に下りなので、朝はゆっくり7時に出発。ちょうど雪が緩んだ大ノマ乗越の大斜面を滑り、アプローチシューズに履き替え長い林道を歩く。スキー装備を加えた重いザックが肩に食い込んでいくが、12時過ぎに新穂高温泉に到着。目標の槍ヶ岳には登れなかったものの、悪天候に捕まることもなく充実のスキーツーリングを楽しむことができた。

高い能力や技術に加え、天候やその判断も重要になる日本オートルート。予定のルートや行程に縛られることなく、状況に合わせて予定を変えていくことでより安全な山行を行うことができる。山は逃げないので、槍ヶ岳へはまたの機会にチャレンジしたい。

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