「悩みを話せる場がない」産後うつになる男性は女性よりも多い!? 現役パパによる、パパのための集いの輪「ちくわ」

地域のコミュニティセンターで歌を歌ったり体を動かしたりして遊んでいるのは、3歳以下の子供とパパたち。パパだけが集まる子育て交流の場には父親だからこそ抱える悩みがあった。

現役の男性保育士が開く遊び場

休日のコミュニティセンターに元気な子供たちの声が響く。

集まったのは、3歳以下の子供たちとその父親。ここに母親の姿はない。父親が子供と遊びながら自分や子育てのことを話せるようにと企画された「ランチスナック」だ。長崎県内を中心に活動を行う、こそだてパパのわ「ちくわ」が開いた。「ちくわ」は「地区(ちく)」でつながる「輪(わ)」という意味から来ている。2024年3月から始まり、今回が2回目だ。

「ちくわ」代表の坪田祥平さんは現役の保育士であり、現在は4歳の娘を持つパパでもある。坪田さんが初めての育児と向き合う中で、父親だからこそ感じた”あるジレンマ”があった。

「ちくわ」代表 坪田祥平さん:
母親をサポートしたいけど何をしたらいいのかわからない、教えてくれる人もいなかった。そういう機会もなく、パパママ学級にもそもそも仕事で行けない、そんな男性も多いと思う

2021年に育児・介護休業法が改正され、22年から「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度がスタートした。かつての「ママのワンオペ」が当たり前の時代から、少しずつではあるが「パパが主体的に育児をする」時代へと歩みを進めている。とはいえ、子育て相談などができる支援センターや子育てサークルなどに訪れる父親の姿はいまなお、決して多いとは言えない現状もある。

「子育てにおいては父親は弱者」だと話す坪田さん。そんな父親サイドでのサポートが受けられる場所を作りたいと、坪田さんは友人でバンド仲間だった野口勇輝さんとともに、「ちくわ」を立ち上げ、活動を続けている。野口さんも現役パパで、2人はお互いに悩みを話せる数少ない同士でもある。

「あるべき」思考に苦しむ男性も

代表の坪田さんの娘が産まれたのは新型コロナウイルスの感染拡大で外出が制限されていた頃だった。坪田さんは外で遊ぶことも趣味のバンド活動も休止を余儀なくされ、ストレス発散ができず苦しい時期に、悩みを打ち明ける場所がなかったことや、長年囚われてきた、ある「固定観念」がさらに自分を追い詰めることになったと話す。

「ちくわ」代表 坪田祥平さん:
苦しさを吐き出す場所がなかった。僕たちの世代の中には自分の親から引き継いだ「男は強くあるべき、弱みを見せたらだめだ、大黒柱として弱音を吐いてはいけない」という考え方がいまの時代にも残っていると思う

「あるべき」という考えが残る世代の父親は、職場でも家庭でも悩みを吐き出せないまま抱え込み、心の病になる人も少なからずいる。

父親の方が高い!?「産後うつ」割合

「うつ」の大きな要因は、環境の変化や過労と言われている。特に「産後うつ」は一般的に産後約1カ月以降にあらわれるうつ状態を指す。赤ちゃんのお世話をする気力がなくなったり、子育ての自信をなくし、食事や睡眠がとれない状態が続く。

こうした「産後うつ」の症状は母親だけでなく、父親にもあらわれることがある。国立成育医療研究センター研究所によると、メンタルヘルスの不調や、リスクありと判断された父・母世帯の割合は、母親10.8%に対し、父親は11.0%と、若干ではあるが父親の方が高くなっている。(2020国立成育医療研究センター研究所)

事態が深刻になる前に対処が必要だと、坪田さんは話す。

「ちくわ」代表 坪田祥平さん:
自分も昔、精神疾患になったことがあり、つらい時は何も考えられなくなってしまう、その状態で子育てを続けていくと離婚にもなるし、仕事さえ続けられないという人もいると思う。男性も弱さを出してもいい。まずはこういう場に来てもらって、遊びながら先輩パパにアドバイスをもらって自分のことが話せる場になればいい

相互扶助できる「ちくわ」へ

この日の「ランチスナック」では、体を使った遊びや紙皿で作った魚の釣り対決、野口さんのギター演奏に合わせて歌を歌ったりと、普段なかなか一緒に過ごすことができない父親も、子供との楽しい時間を過ごした。

娘(取材当時1歳4カ月)と2人のお出かけが初めての父親:
家でこんなにべったりすることはないです、ないです。家にいたらママにべったりなのでうれしい。こういう機会がないと子供と2人で出かけたりしないので、娘との距離が縮まって、良い時間になった

横浜から転勤してきた父親:
SNSでこのイベントのことを知った。長崎のことはあまりまだ知らないので、遊び場などの情報交換や交流ができたらいい。父親・母親ではない大人と遊ぶことで、普段見られない子供の様子が見られて楽しかった

参加者全員がこの日、初対面。どんな話をすればいいのかわからず、会話が続かない…という場面もあったが、坪田さんは今後、父親同士が助け合う輪が広がることを期待している。

「ちくわ」代表 坪田祥平さん:
お父さんたちも初めての場所だから、まずは来てもらい楽しく遊ぶ場所だと知ってもらい、慣れてきたらちょっとずつ自分のことを話したり、子育ての悩みを話したり。父親同士でつながって、理想は自分がいなくても父親がなんでも話せる場、「ちくわ2号店」みたいな感じで広まっていけばいい

坪田さんは、保育士や父親としての知識や経験から「子育てのヒント」や遊び場スポットの情報などを発信している。イベントでは、男性保育士を目指す学生や保育士経験などを持つ人にも参加してもらい、将来的には男性保育士の離職率を減らし、資格を持ちながら保育施設で働いていない潜在保育士の活躍の場も作りたいという。

父親が始めた、父親のための助け合いの場は、今後、地域を巻き込みながら大きな輪へと広がりを見せそうだ。

(テレビ長崎)

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