トヨタのアドバンテージ消滅/エンジン交換が必要か/2台同時にブレーキロック etc.【WECスパ予選日Topics】

 5月10日(金)、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで、WEC世界耐久選手権第3戦『スパ・フランコルシャン6時間レース』のプラクティス3回目と予選、さらにハイパーポールが行われた。この予選日には客席から悲鳴が上がった大きなクラッシュや予選後の車検落ちといったさまざまな“事件”が発生した。

 そんな金曜日のスパのパドックから、各種トピックスをお届けする。

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 フェラーリAFコルセのアントニオ・フォコは、スパ・フランコルシャン6時間レースの予選で最速タイムをマークした。しかし、彼がミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセンとシェアする50号車フェラーリ499Pは予選後の車検で車両規定違反が発覚。約1kgの重量不足を指摘されポールポジションを剥奪された

 地元のヒーローであるサラ・ボビーはアイアン・デイムスをLMGT3クラスのトップに導き、ランボルギーニにWEC初のポールポジションをもたらした。また、彼女にとっても地元ベルギーでの初めてのポールとなった。アイアン・リンクスは、ポルシェとフェラーリに続き3つの異なるメーカーでポールポジションを獲得している。

■ぶっつけ本番となったソフトタイヤでのアタック

 ハイパーカーのドライバーたちはトップ10グリッドを決定するハイパーポールにおいて、ミシュランのソフトコンパウンドタイヤを使用することが義務付けられた。今シーズン初めて登場したこのタイヤを予選前にサンプリングしたチームはほとんどなく、そのため多くのドライバーはホットラップに入る前にプレパレーション・ラップを行った。例外は4番手タイムを記録した後、3番手に繰り上がった99号車ポルシェ963(プロトン・コンペティション)のジュリアン・アンドラウアーと6番手から決勝レースに臨む8号車トヨタGR010ハイブリッド(TOYOTA GAZOO Racing)のブレンドン・ハートレーで、彼らは直接プッシュラップに入ることを選択した。

 予選後ハートレーは次のように語った。「タイヤのウォームアップに関してはいくつかの異なる哲学があった。1周目はプッシュしたのだけど、かなりパフォーマンスを落としてしまった。フェラーリは(ミディアムタイヤでの予選と、ソフトタイヤでのハイパーポールで)ほとんど同じラップを繰り返すことができたが、僕にはそれができなかった。タイヤの準備によるところが大きかったと思う。テストをせずにソフトタイヤで出て行くのは未知数だった」

 また、ハートレーはタイヤのデグラデーション(劣化)に関するトヨタの伝統的なアドバンテージは失われたと感じていると付け加えた。「他社のマシンが追いついてきたと思う。昨年はハードタイヤしか使わなかったのに、フェラーリがソフトタイヤを使ってポールポジションを獲得しているのを見ると、間違いなく進歩したように見えるね」

予選はミディアムタイヤ(黄色)、ハイパーポールは今季初登場のソフトタイヤ(白)が使用された

■ポルシェの驚きと予選でのインシデント

 ポルシェLMDhのファクトリーディレクターであるウルス・クラトルも、フェラーリが前戦イモラでどれだけタイヤを長持ちさせることができたかについて驚きを隠さなかった。イモラ6時間レースでは、フェラーリ499Pがレース前半のドライコンディション時にトリプル・スティントを実施した。「レース前に、おそらく我々にとってはうまくいっていないことがわかっていた」とクラトルは述べた。「彼らがどうしてそれをすることができたのか……すごいことだと思う」

 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは彼らが走らせる2台のポルシェ963、マット・キャンベルの5号車とケビン・エストーレ駆る6号車が、予選序盤のレ・コンブであわや接触する恐怖を味わった。2台揃って走行していたポルシェ勢はブレーキングで姿勢を乱し、ぎりぎりのところで接触を回避したもののともにコースオフを喫した。

 5号車のすぐ後ろを走っていたエストーレは「この週末は冷えたタイヤで何周もアウトラップを走っていたのだけどどういうわけか、ふたりともブレーキングでリヤタイヤをロックさせてしまった」とSportscar365に語った。「彼は(ターン5を)まっすぐ行ったし、僕もまっすぐ抜けていった。僕たちはほとんど同じ場所でブレーキをかけ、クルマも同じように反応したと思う。彼がロックアップしたことは明らかに助けにならなかったし、彼がコーナーに進入しなかったので僕はさらに強く(ブレーキを)かけなければならなかった」

 プロトン99号車のアンドラウアーは、キャンベルに次ぐポルシェ勢2番手となったことを喜んだ。「今シーズン初めてプラクティスでフルプログラムをこなすことができ、予選でより競争力のあるマシンを準備するのにとても役立った。レースでは僕たちはかなり優位に立てるはずだ」

99号車ポルシェ963(プロトン・コンペティション) 2024年WEC第3戦スパ・フランコルシャン6時間レース

■アルピーヌは決勝前に大仕事か

 チップ・ガナッシ・レーシングが運営するキャデラック・レーシングは、アレックス・リンがハイパーポールで3番手を獲得したのち50号車フェラーリの失格により2番手に繰り上がったことでWECでの予選ベストリザルトを更新した。リンは「チームを誇りに思う」とコメント。「イモラ以来、僕たちは懸命に働いてきた。それを正しく結果に結びつけることができてよかった」

 アルピーヌにとって初めてのハイパーポールはエンジンの問題によって中断された。シャルル・ミレッシはセッションの終盤、35号車アルピーヌA424をラディオンで停めた。イモラに続きフェルディナンド・ハプスブルクの代役としてジュール・グーノンが加わっている同車は、最終的に7番手から決勝レースをスタートする。

 アルピーヌのチーム代表であるフィリップ・シノーは、オイルポンプの交換かエンジンの全交換が必要になると指摘し、大幅な修理を余儀なくされる可能性を示唆した。このフランス人はマシンがパルクフェルメから解放された後、さらなる分析が必要になるだろうと語った。

 ル・マン24時間レースで2度の優勝経験を持つティモ・ベルンハルトは、今週末のスパWECラウンドからポルシェのLMDhチームとドライバー育成の役割を担うことになった。ベルンハルトの仕事にはドライバーとエンジニアの双方向コミュニケーションとミーティング風景の整理が含まれる。彼は残りのシーズンもWECの全レースに帯同し、ポルシェのIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップの運営にもリモートで参加する予定だ。

35号車アルピーヌA424(アルピーヌ・エンデュランス・チーム) 2024年WEC第3戦スパ・フランコルシャン6時間レース

■ル・マンでの歴史的優勝から約1年、あれから未勝利

 フェラーリのパフォーマンス&レギュレーション・マネージャーであるマウロ・バルビエリは、ル・マン24時間以外のWECレースでの初勝利を切望していることを強調し、「昨年の後半からスプリントレースで勝利を逃しており、我々のハングリー精神はますます大きくなっている」と述べた。「我々はル・マンまでに勝利を達成するためにプッシュし続けている」

 メルセデスAMGのファクトリードライバーとして6年間在籍した後、シュトゥットガルトからBMWに移籍したラファエル・マルチェッロは、メルセデスAMGカスタマーレーシングのボス、ステファン・ウェンドルと今でも連絡を取り合っているという。「彼は私の上司だったが友人でもある」とマルチェッロ。「今でも連絡を取り合っているよ。彼はいつもハイパーカーやWECはどうかと聞いてくる。彼はモータースポーツに情熱を注いでいるんだ」

 マルチェッロはまた、メルセデスAMG GT3エボをELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズに参戦させようとするウェンドルの取り組みを支持していると付け加えた。「僕は最高の相手と戦うのが好きなんだ。だから、彼らがいつの日かそこにいることを願っている。ルカ(・シュトルツ)やマーロ(・エンゲル)、ジュール(・グーノン)のためにも。彼らは今はハイパーカーにいるけどね。AMGのドライバーはWECにいる価値がある」

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 2024年シーズンの第3戦、ル・マン前最後のレースとなるWECスパ6時間の決勝は5月11日・土曜の13時(日本時間20時)にスタートが切られる予定だ。気になる決勝日の天気予報は、晴れのち曇り。気温は20℃前後となる見込みで、昼頃から雲が広がるものの雨の心配はなさそうだ。

LMGT3クラスのポールポジションを獲得したアイアン・デイムスのドライバー(サラ・ボビー/ラヘル・フレイ/ミシェル・ガッティン)とACOのピーエル・フィヨン会長(右)

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