『with MUSIC』は世代を選ばない音楽番組に 34年ぶりのゴールデン帯で現代に果たす役割

4月13日、日本テレビで34年ぶりのゴールデン帯音楽番組として『with MUSIC』がスタートした。初回放送には宇多田ヒカルが出演し、「One Last Kiss」、椎名林檎と共に「二時間だけのバカンス」を披露。第2回目の放送ではCDデビューを控えるAぇ! groupがデビュー曲「《A》BEGINNING」をテレビ初パフォーマンスするなど、放送開始から大きな話題を呼んでいる。そこでリアルサウンドでは番組プロデューサーの岩崎小夜子氏にインタビューを行い、音楽の楽しみ方が大きく変化している現代における音楽番組の役割、そして番組が目指す姿について聞いた。(編集部)

■『with MUSIC』は、世代を選ばない番組に

ーーまずは岩崎さんのご経歴から教えてください。

岩崎小夜子(以下、岩崎):音楽番組でいうと3年間『バズリズム02』(日本テレビ系)を担当しました。それまでは別のバラエティ番組を担当していたのですが、入社当初からずっと音楽番組を担当したいと思っていたので、『バズリズム02』は念願叶って担当できた番組です。私が学生だった頃はゴールデン帯で音楽番組がたくさん放送されていた世代なので、漠然と音楽番組が好きで憧れでした。

ーーそんな岩崎さんがプロデューサーを務める『with MUSIC』は日本テレビとしては34年ぶりのゴールデン帯のレギュラー音楽番組になります。どのような番組を目指して番組作りを始めましたか?

岩崎:世代を選ばない番組を目指しました。若い視聴者だけに特化するわけでも、懐メロに特化するわけでもなく、子供から大人まで楽しめる番組を目指しています。……と言葉にするのは簡単なんですけど、形にするのはなかなか難しくて。日々模索しているところです。あとは、アーティストのみなさんに出演したいと思ってもらえるような番組を目指していきたいなと考えながら演出といっしょに企画書を作っていました。

ーー確かに、これまでの放送を振り返ると様々なアーティストが出演しているという印象を受けますね。

岩崎:これまで特番でも放送されていなかった番組だったので、どのような番組になるのかもわからないまま出演していただく形になりました。アーティストのみなさんに出演していただきながら一緒に番組を作っていくような感覚も少しありますね。色々な世代の方に出演していただくことがこの番組の魅力になっていくと思います。

■出演アーティスト同士の繋がりへの意識も

ーー初回放送では宇多田ヒカルさんの出演が話題になっていました。

岩崎さん:宇多田さんは今年デビュー25周年、この4月にベストアルバム『SCIENCE FICTION』をリリースしたタイミングでオファーさせていただきました。『with MUSIC』第1回の放送ということで番組にとっても、宇多田さんにとっても節目のタイミングがちょうど合って、日本テレビの音楽番組に16年ぶりに出演していただくことになりました。

ーーしかも、放送では椎名林檎さんと「二時間だけのバカンス」も披露。人気の曲ですが、あまりテレビで歌唱されることのなかった楽曲だったので驚きの声も大きかったと思います。

岩崎:我々にも反響の大きさは聞こえています。当日もさまざまなSNSでも「この曲をテレビで見たかった!」という声もあって、そう思ってもらえるものを届けることができたのは感慨深い気持ちになりました。

ーー第2回放送では、Aぇ! groupのデビュー曲「《A》BEGINNING」のテレビ初披露もありました。

岩崎:Aぇ! groupはこれまで長く活動してきて、ようやくデビューが決まったので、良い形でデビュー曲を披露できればと考えていました。当日は先輩グループでジュニア時代から彼らを見ていたWEST.にも出演していただいていたので、Aぇ! groupの歴史が見えてくるのも音楽番組ならではかなと思いました。

ーー2回目の放送は先輩後輩の関係であるWEST.とAぇ! groupもそうですが、そのWEST.に楽曲提供をしているSUPER BEAVERも出演。こういったアーティスト同士の繋がりを意識しているようにも感じます。

岩崎:偶然な部分と、意識している部分があります。もちろんキャスティングの時点では共演ありきのオファーではなくて、アーティストさん単体でも出演していただきたいという思いで出演を打診させていただいていますが、その中で放送する順番などは意識して、色々な方に見ていただけるように工夫しています。たとえば、WEST.がSUPER BEAVERの柳沢亮太さん(Gt)による提供曲「ハート」を披露する際には、SUPER BEAVERにもVTRを見ていただくとか。そういった細かいところでもアーティスト同士の絆をお届けできればいいなと思っています。こういう繋がりを意識して、アーティスト単体だけでなく番組全体を通して楽しんでもらえるといいなと。

ーーSUPER BEAVERといえば、お世話になった人にメンバーがサプライズ訪問するというVTRも印象的でした。

岩崎:SUPER BEAVERの楽曲を知っている方も多いと思うので、彼らの魅力をもっと引き出せるような企画を考えました。彼らが持っているアツさ、人を大切に思う気持ちを知った上で楽曲を聴くともっと深く聴こえると思うので、あのVTRのように楽曲の魅力を最大限活かせるような企画をみんなで考えています。

■有働由美子と松下洸平、MCに寄せる期待

ーー第1回、第2回放送ではMCの有働由美子さんと宇多田さんの対談もありましたね。

岩崎:有働さんはこれまで色々な方を取材してきて、彼女のインタビューイーの心を開く力と、聞き出す力っていうのは本当にすごいものがあるんだなと思いました。宇多田さんがデビュー25周年というタイミングでどんなことを話すんだろうということを、有働さんがご自身で調べて勉強してインタビューをしていたからこそ、ああいう対談が実現できたんだと思います。有働さんは打ち合わせのたびにアーティストの方の情報をノートにびっしりまとめていて、そんな有働さんだから聞き出せるようなお話があるんだなと改めて実感しました。

ーーそもそも、有働さんにMCをお任せしたきっかけは何だったのでしょうか。

岩崎:NHKアナウンサー時代に『NHK紅白歌合戦』の司会を経験していらっしゃるので、音楽番組との親和性はもちろん高いと思っていたのですが、台本通りの一問一答ではなくて、アーティストから思いもよらないような言葉を引き出してくれるような司会ができる方です。番組が華やかであることももちろん、アーティストの魅力を最大限引き出してくれるという意味ではまさにぴったりな方だと思います。

ーーもう1人のMC、松下洸平さんについてはいかがですか?

岩崎:松下さんはご自身がシンガーソングライター、俳優としても活躍されているので、二つの顔を持ち合わせている方だからこそ、アーティストの気持ちがわかるのかなと思います。有働さんは視聴者の目線でアーティストに話を伺って、松下さんにはさらに専門的な、たとえばライブの時のこととか、どうやって歌詞を書いているのかとか、アーティスト視点で音楽的なことを聞いていただく。『with MUSIC』を通して初めてそのアーティストを知ったという視聴者から大ファンという視聴者まで、全員が満足できるようなトークを引き出せると思います。

ーーこれまでの放送を終えて、2人の相性はどのように感じますか?

岩崎:すごく良いと思います。2人の初対面はどちらかというと有働さんが緊張していたような印象だったのですが、松下さんが有働さんにどんどん話しかけていって、そこからだんだん会話の距離も縮まっていったと感じています。2人が作る空気感が良いんですよね。優しいし、落ち着いていて、でも楽しそうで。ああいう2人の空気感が番組全体の雰囲気になっているように感じます。

ーーその“『with MUSIC』の空気感”とはどのようなものだと考えていますか?

岩崎:有働さんも松下さんも座って、アーティストとゆったりした雰囲気の中でトークするのがこの番組の空気感のように感じます。全アーティストのトークをお届けすることは時間の都合で難しい部分もあるのですが、なるべく楽曲だけではなくて、アーティスト本人の魅力を丁寧に伝えられるような番組にしていきたいと考えているので、人の魅力をお伝えできればと思います。

■「テレビの音楽番組」ならではの魅力とは?

ーー岩崎さんがかつて担当していた『バズリズム02』も、曲はもちろんアーティスト本人の魅力を伝えるような番組になっていたと思います。

岩崎:『バズリズム02』は、アーティストの履歴書のようなフォーマットなども作ってその人がどういう人なのかをじっくり伝えるということを意識しています。今でこそ楽曲は配信サービスで手軽に聴くことができるけど、そこからアーティストがどういう人なのかまで情報を探すことは意識しないと難しいところがあると思います。そこで、テレビ番組として、その人がどういう人でどんな想いで歌っているのかをお伝えすることで、その楽曲をもっと好きになっていただくというのもテレビの歌番組ならではだと思います。

ーー「テレビの音楽番組ならでは」という言葉がありましたが、今はYouTubeでMVやパフォーマンス映像を公開しているアーティストも増えてきました。YouTubeでいつでも楽曲やパフォーマンスを見れる今、「テレビの音楽番組」が持つ役割とは何だと思いますか?

岩崎:私たちは、いつもイヤホンを通して1人で聴いている音楽を、土曜日の夜にテレビの前に集まってテレビのスピーカーからみんなで音楽を聴いてもらう姿をイメージしてこの番組を作りました。YouTubeも配信サービスも自分の好きなものをレコメンドされるようになっていますよね。自分が好きそうなアーティストを知るにはちょうどいいと思うのですが、“これまで聴いたことがないもの”を知るきっかけになるのは難しいと思っていて。テレビも披露順は考えていますが、視聴者のみなさんは色々なアーティストのパフォーマンスを見ることになるので、「今まで知らなかったけど、こういう曲もやっているんだ」という気づきを与えることができると思います。この“幅の広さ”が音楽番組で楽曲を届ける意味のように感じています。あとは、同じ時間帯にみんなで気持ちを共有しながら楽しめるというのも音楽番組ならではであるように感じます。X(旧Twitter)でハッシュタグをつけて感想を言い合いながら、初めて見たアーティストのパフォーマンスに感動したり、そのリアクションをファンの方が喜んだりというのもテレビ番組ならではですよね。Xではトレンドに入ったりしていて、“みんなで”楽しむという形が分かりやすくなっていますし、ポストしてくださる視聴者のみなさんには感謝しています。

■『with MUSIC』が目指すもの

ーー「アーティストをレコメンドする」という意味で、先ほどおっしゃっていたようなアーティスト同士の繋がりを意識したパフォーマンス順もそうですし、出演アーティストの幅の広さも活きてくるように感じます。岩崎さん自身はどのようにして音楽を聴くことが多いですか?

岩崎:仕事でもあるので色々と聴きますが、もともと音楽が好きなので、普段からさまざまな曲を聴きますし、アーティストのライブに足を運ぶことも多いです。

ーーライブを直接見て出演して「このアーティストに出演してほしい」と思うこともありますか?

岩崎:あります。でも、どちらかというと、ライブで聴きながら「この曲をいつか歌ってほしいな」とか「こういう演出はテレビでもできそうだな」と勉強させてもらいながら見てますね。たとえば、第3回放送のUVERworldさんはライブでモニターに歌詞がドンと出る演出をよくしていて、ライブで使っている映像をお借りしてテレビ放送で使わせていただいたということもあります。やっぱり歌詞が魅力のバンドになるので、そういった演出を普段のライブでもしていると思うのですが、その魅力をテレビでもお伝えできるようにしたいです。

ーー『with MUSIC』はどのような音楽番組になっていきたいと考えていますか?

岩崎:新しい音楽と出会える番組になりたいです。この番組を見れば今まで自分が知らなかった音楽にも出会えるし、有働さんと松下さんのトークでアーティストの新しい一面を知ることができる。毎週この番組を見ることで新しい出会いができるような番組になっていったらいいなと思います。

(文=佐々木翠)

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