大盛りで伝説の大衆食堂がブックカフェに「転生」 「思いがけない本と出合って」

京都市伏見区でおよそ50年の歴史を刻んだ大衆食堂が、体に優しいぬか漬けや京都のおいしいコメなどを使った料理を楽しみつつ、じっくり読書もできるカフェに生まれ変わった。近年はほぼ休業状態だった店を両親から引き継いだ店主は「偶然の出合いがある場所にしたい」と意気込む。

大力餅の外観。地域に根付いて営んでいく

2023年9月に小川健太郎さん(55)が再出発させたのは、「古本&読書カフェ 大力餅」。元は、父武利さんと母信栄さんが1966年に開店した食堂だった。学生が多い土地柄のため、トンカツやコロッケなどの定食は大盛り。腹一杯になってもらおうという思いやりだった。大力餅の食事を完食しないと部活に入れないという「伝説」も生まれるほどだった。

幼い頃は両親の姿に憧れ、「店を継ぎたい」という思いがあった。小学生の時には、冒険譚(たん)の「竜のいる島」を読んで初めて徹夜。その後、年間300冊以上を読む読書家になった。かつての夢をかなえ、大好きな本に触れられる場所として、こだわりの食事を出すブックカフェの開業を決めた。

「本との思いがけない出合いを」と願う小川さん(京都市伏見区・古本&読書カフェ 大力餅)

食事では、父譲りのだしを使う料理や、手製のぬか漬け、南丹市美山町の寒暖差が育む良質なコメなどが味わえる。大衆食堂の時代から人気を博してきたよもぎ餅も看板だ。コーヒーも厳選しており、「よいものを皆さんに紹介していきたい」と語る。

大衆食堂だったころの写真(小川さん提供)

書棚も充実させている。「探」「旅」など、さまざまな言葉に合わせたコーナーを設け、寺山修司や沢木耕太郎など多彩な作家の本を手に取れるようにした。小川さんとの会話も通じて、思いがけない本と出合ってほしいと願う。棚は日々、新陳代謝を図り、「本との関わりを提案していきたい」とする。

親しまれた食堂に再びともった灯が地域を照らし、リピーターも増加中。小川さんは「カフェは僕の部屋みたいなもの。遊んでいるのと一緒です。長居できる場所にしたい」と笑顔を見せる。

(まいどなニュース/京都新聞・陰山 篤志)

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