K-POP名MC古家正亨さんが考える、私たちが韓国にハマる理由とは?「K-POPの仕事現場はクセになるんです」

時代は空前のK-POPブーム。なぜ今、私たちは韓国を"好き"になるのか......。推し・好きの気持ちを深掘る連載「好きってなんなん?」第7回は、誰よりも近くでK-POPを見てきたこの方にお話をうかがいました。韓国タレントのイベントMCを数多く務め、K-POPファンなら知らない人はいない、古家正亨(ふるや・まさゆき)さんです。

2024年4月2日には、著書『BEATS of KOREA いま伝えたいヒットメイカーの言葉たち』(KADOKAWA)が発売。韓流ブーム20年の歴史から、今をときめくK-POPのトップアーティストまでを、古家さんの視点から一望できる一冊です。

多忙な中、家族が寝た後や新幹線でも執筆したそう。そこまでしても伝えたい、古家さんが魅せられ続けている韓国の魅力とは何なのでしょうか。

カナダで出合った韓国

イベントMCとして知られる古家さんですが、本来はラジオDJ。本書も、韓国の著名クリエイターへのインタビューや、一般の方からの質問に答えるコーナーなどがあり、まさにラジオを聴くように読める構成です。

「いま届けたい、とっておきの15曲」コーナーで紹介している、BTSの「Black Swan」、SEVENTEENの「Pretty U」なども、事前に募ったリクエストから厳選した楽曲。さらに『BEATS of KOREA』というタイトルも、札幌FMで2001年にスタートした、古家さんの"原点"とも言えるラジオ番組「Beats-Of-Korea」からとったものです。

古家さんが韓国の音楽に出合ったのは、1997年、なんとカナダ留学の最中。現地でできた韓国人の友達からプレゼントされた、Toyというアーティストのアルバム『Youheeyeol』がきっかけでした。

初めて聴いた時の衝撃は「頭を鈍器で殴られるくらいのショック」だったそう。もともとラジオが好きで、大学在学中からDJを始めていたため、日本でラジオを通して韓国の音楽の魅力を伝えようと動き始めます。

しかし、当時は韓国の文化が日本にほとんど知られていなかった時代。壁が大きかったといいます。

90年代後半、韓国のポップカルチャーは日本で受け入れられていませんでした。限られたマニアのものでしたね。

そんな時代に、カナダという第三国で、韓国の人と出会ったのは大きな経験でした。当時の日本人は「日本は先進国」という意識が強く、外国に行って韓国人や中国人に間違われると「なんで一緒にされるの?」と思うような風潮だったんですよ。カナダに行って、僕は「日本ってこんなにちっぽけな国なんだ」「僕はアジア人なんだ」と気づかされました。

そして、これからは日本人がアジアの中での立ち位置をしっかりわかっていないと、世界から取り残されると思ったんです。だからカナダにいるよりもプラスになると思い、韓国に行きました。当時はカナダよりもはるかに行きづらい国だったんですよ。韓国人の友達にすら、「どうして日本人が韓国に行く必要があるの? 何を学ぼうとしているの?」と引き留められたんですから。だけど僕にとってはそれがますます、韓国に行く原動力になりました。

自分に課している"役目"

そうして古家さんが降り立った、90年代後半の韓国。「思っていたよりもはるかに発展していた」「独自の文化があると同時に、日本からの影響も思った以上に受けていた」と振り返ります。そして、「思っていたよりも、日本人のことを理解していた」とも。

日本のメディアはすぐに「反日」と報じたがりますが、実際に行ってみたら決してそんなことはなく、皆、すごく良くしてくれたんです。最近でも「ノージャパン」をスローガンに掲げながら、反日機運の高まりをメディアが報じていましたが、ソウルの街中にはいたるところに日本式居酒屋があって、そこで普通に日本食を食べていましたし。政治的な摩擦もありながら、そうじゃない側面もあることを知ったわけです。

その後、韓国ドラマ『冬のソナタ』で知られる俳優ペ・ヨンジュンさんの初ファンミーティングのMCを皮切りに、KARA、BIGBANG、BTSなど、名だたるアーティストや俳優のイベントMCを務めるようになりました。日韓の橋渡し役として大事にしているのが、古家さん自身の歴史のとらえ方だといいます。

2003年、韓国ドラマ『冬のソナタ』のブームをきっかけに、日韓の距離が一気に縮まりました。でも、この出来事が歴史の教科書に載るかというと、載らないんですよね。「ヨン様のおかげで日本人の対韓感情が変わりました」なんて書かれないじゃないですか。だけど、その時に生きている人からすると、そこで日韓が近づいたのは事実なんですよ。

そういった、その時その瞬間にそれぞれの国の一般の人たちの間で起こったことを、僕は大事にしようと思っているんです。国やメディアからは語られない歴史を語り継ぐのが、自分の役目だと思っています。

古家さんが思う韓国の面白さは「日本との違い」。外見はよく似ていても、「全く違う国だ」と日々実感するといいます。

韓国の人は、仕事の進め方や価値観が日本とは全く違います。日本は80点主義ですよね。リスクを冒さず、だいたい平均点くらいを維持すればクビにならないという。

韓国は極端なんですよ。100点を求めるんです。僕はその韓国のやり方に惹かれるんですよね。なぜなら、バッチリ決まった時にはすごいものができるから。なんだけど、100点を目指すとリスクが大きいので、0点もいっぱいある(笑)。

MCも、無難にやろうと思えばどうにでもできます。でも、韓国の人はそれを求めていないんです。何をするにしても、冒険しようとするんです。リスクを冒してまでもとにかくまずはやってみるという思いに向き合ってくれるのが、韓国の人たちです。その仕事のスタイルが楽しいですし、クセになりますね。

韓国は「ヨルチョン」の国

古家さんをとりこにした韓国が、今、日本中のK-POPファンの心もつかんでいます。なぜ今こんなにブームになっているのでしょうか? と聞くと、「僕も知りたいですよ」と笑いながら、こう答えてくれました。

韓国語に「ヨルチョン」という言葉があります。漢字に置き換えると「熱情」、つまり情熱のこと。韓国の人たちを言葉で表すと、まさに「ヨルチョン」だと思います。とにかく何においてもパッションがあるんです。

K-POPの激しいダンスパフォーマンスもそうですし、韓国ドラマを観ていても「なんでこんな大声出して喧嘩してるの?」「なんでこんなオイオイ大声で泣いてるの?」と思うじゃないですか。

僕らは、韓国の感情の表出に憧れがあるんだと思うんです。日本人も本当は思いっきり泣きたいし、思いっきり叫びたいんじゃないでしょうか。思いっきり恋人と喧嘩して水をかけ合いたいとか(笑)。いろんな思いがあると思うんですよ。

僕は今の時代、日本人も、空気を読むところでは読むとして、その必要がない場では感情を表に出していいんじゃないかなと思っています。これだけグローバルな世の中になったんですから、日本における価値や習慣を、外にまで出て押し付ける必要はないと思うんです。

一方で、実は今韓国でも、日本のカルチャーがブームになっています。映画では『今夜、世界からこの恋が消えても』や『THE FIRST SLAM DUNK』が記録的な動員数となりました。J-POPも、あいみょん、Official髭男dism、King Gnu、藤井風などが大人気だそうです。

韓国の人たちは逆に、日本人のおしとやかさに惹かれるみたいなんですよ。言葉では語らず空気を読んで気持ちを察する、その空気感がいいって言うんです。お互いに持っていないものに魅力を感じるんだと思いますね。

以前はマスメディアだけを通して相手の国の情報を見ていたのが、SNSが普及して、いろんな情報がいろんなルートを介して自由な往来が可能になりました。それが、お互いの魅力を改めて知るきっかけになったんだと思います。

古家さんが走り続ける理由

まさに、"好き"の力で人生を動かしてきた古家さん。K-POPファンから見ると、「なりたい職業ランキング1位:古家さん」というXのポストがバズるなど、憧れの存在でもあります。でも、"好き"を貫くのは決して楽しいことばかりではないといいます。

"好き"を行動に移すには、体力が必要です。僕も普通に仕事しているように見えて、意外と疲れていて(笑)。本当に、日々つらいことのほうが多いんですよ。楽しいことが2割だとしたら、つらいことが8割かな。

たとえば、ファンミーティングで出る話題を逃さないために韓国ドラマをたくさん見ていて、もちろん面白いんですけど、仕事のために見ているとけっこう苦痛なんですよ(笑)。

でも、その地道な積み重ねは大事な過程だと思いますし、その過程があるからこそ"好き"をもっと好きになれると思うんです。年に1回か2回、「ああ、本当にこの仕事をやっていてよかったな」と思う瞬間があるんですよ。その瞬間が、次の1年の原動力になっている気がします。

地道な努力の向こう側に見える、本当の"好き"の景色。これからも「ヨルチョン」で走り続けていく古家さんから、目が離せません。

(東京バーゲンマニア編集部 馬場レオン)

「推し」続けて50年。中森明夫さんに聞く、人がアイドルを推したくなるワケ

"オタク"たちに推し活エピを聞きまくった藤谷千明さん。感銘を受けた、ぼる塾田辺さんの一言とは。

【ローソン】IVEレイが大絶賛!"モチモチ食感スイーツ"をぺろりと完食。さらに売れちゃうかも...

© 株式会社ジェイ・キャスト