シェフの鶴の一声からはじまった「ドーナツもり(神楽坂・蔵前)」。3日かけて生地を作るフランス式ドーナツの魅力とは

フランス菓子の技法を生かした、ふわもち生地のドーナツが特徴の「ドーナツもり」。有名パティシエとの出会いや多くの試行錯誤を経て生まれた、地方からも人が訪れるほど人気のお店です。

今回は、神楽坂の本店に続いてオープンした蔵前店を取材。ちょっぴり意外だったお店の今後の展望についても伺いました。

ヨーロッパのアンティークな香りが漂う内観

2024年1月にオープンした「ドーナツもり 蔵前店」。都営大江戸線の蔵前駅から3分ほど歩くと、温かな光に包まれたお店が姿を現します。

ヨーロッパの古いホテルをイメージした店内で出迎えてくれたのは、店主の森敬之さんと妻の智実さん。敬之さんは、かつて神楽坂で完全予約制のフランス菓子店を営んでいた鈴木祥仁シェフから技術を学び、お店のドーナツを生み出したそうです。

「神楽坂にあるドーナツもりは、鈴木シェフが自分の店を閉めることになった際の『跡地にドーナツ屋を作ったらどうかな?』という話をきっかけに開店しました。

私(智美さん)が鈴木シェフのファンだったのと、夫婦でドーナツ屋をやりたいと考えていたこともあって、夫がシェフからフランス菓子の技法を学び、その技を取り入れたドーナツを作ることになったんです」

ショーケースの奥に見えるアンティークの扉は、蔵前店の工事が始まる前から購入していた品とのこと。「もともとインテリアを学んでいて、学生時代に憧れていたものをやっと使えました」と話す智美さんの表情も、インテリアのアンティーク品やドーナツのように輝いていました。

質の良い素材を使って。容器にまでこだわる絶品ドーナツ

(左)「オリジナルグレーズ」(右)「フランボワーズグレーズ」

今回紹介するドーナツは3種類。『オリジナルグレーズ』は、ベーシックな生地にイタリア産の有機ハチミツと北海道産のチルドバターを使ったグレーズをかけた定番ドーナツ。ピンク色の見た目が可愛い『フランボワーズグレーズ』は、着色料を使わず、フランス産の木苺を煮詰めた自家製のジャムそのものの色合いを生かしているそうです。

「ピスタチオグレーズ」

『ピスタチオグレーズ』のグレーズに使われているのは、シチリア島で2年に一度しか収穫されない希少なピスタチオ。

「うちのお店は“フランス菓子の技法を取り入れたドーナツ屋”という肩書きなので、素材には国産の良質なものに加えて、ヨーロッパの一級品をなるべく使うようにしています。

ピスタチオは、食べ比べた時にそのほかの品と比べて味が全く異なると感じたため今の素材に決めました。この素材を使うことで、ピスタチオ本来の美味しさを楽しんでもらえると思っています」

「ドーナツの穴」

店内には、サワークリームやスパイスを生地に加えたオールドファッションのドーナツや、製造の際にくり抜いた生地を使った『ドーナツの穴』という商品も。

「『ドーナツの穴』には、奄美諸島産のさとうきびを精製せずに加工した素焚糖(すだきとう)を使っています。一般的な砂糖よりもミネラルや栄養素が含まれていて、やさしい甘さが伝わる素材を選びました。

“甘すぎる”感覚がないスイーツに仕上げたい、という理由が一番でしたね。生地はほとんど自分たちで考えたのですが、グレーズの製法や素材選びについては鈴木シェフにもたくさんのことを教えてもらいました」

通気口が空いたドーナツの容器

ちなみに、ドーナツもりの商品を持ち帰った際に注目したいポイントは、ドーナツだけではありません。

「うちでは、容器にもこだわっています。通気性を良くしてグレーズが湿気を吸うのを防ぐために、穴の空いたケースを特注で作ってもらっているんです。

生地だけでなくグレーズにもほとんど添加物を使っていないため、気温が高い時期などは、グレーズが柔らかくなりやすいんですよね。なので、グレーズが隣のドーナツにふれることがないように、商品を渡す前に一つ一つ個包装にしています」

“手間暇かけたい“想いで生まれた低温発酵&乾燥製法

3日間かけて作るふわふわもちもちの生地は、敬之さんが試行錯誤を重ねて生まれたものだそう。その工程には、美味しさの追求を続けるドーナツもりのこだわりが詰まっています。

「生地の水分を抜けにくくするために、湯種を使った製法を採用しています。作った湯種は当日中には使えないため、1日目に作ったものを一晩熟成させる必要があるんですよね。

2日目は生地を丸めて発酵に移る作業まで行うのですが、うちではパンの発酵温度として一般的な20~30℃もよりも低い4℃で発酵させるので、この工程にも一晩かかります。時間はかかるのですが、ゆっくり発酵させると、手早く発酵させた場合とはグルテンの膨らみ方に違いが出て美味しくなるんです」

「従来の低価格で手ごろなイメージとは異なるドーナツを提供するために、“手間暇をかけて作る“ことは最初から決めていました。パンに使われることの多い湯種製法をドーナツに落とし込むのは簡単ではなかったですが…。

時間をかけることへの躊躇いはなかったので、試行錯誤を始めてからドーナツもりをオープンするまでは結構早かったかもしれません」

受け継がれていく、ドーナツとフランス菓子への愛情

「ドーナツを作り始めてからも、毎日のように試行錯誤しています。家に帰っても、ドーナツやお店のことをずっと話していますね(笑)」と話す、敬之さんと智美さん。お2人にドーナツもりの今後を伺うと、少し意外な答えが返ってきました。

「ドーナツもりをとても規模の大きな店にしたい、という願望はないですね。私たちのなかでは、あと一店舗くらいあればお腹いっぱいな感じです。それを現実にできたら、今度はまた新しいもの、ドーナツ以外のことを2人でまた始めたいと思っています。

ただ、新たなことを始める前に、お店のスタッフに私たちのドーナツもりに対する愛情を受け継いでもらいたいとも考えています。今は、それを一生懸命やっているところですね」

スタッフとの会話でも笑顔が印象に残る一方で、製造現場ではクリームのかき混ぜ方や煮詰め加減を真剣な表情で指導していた森さんたち。お2人と師匠によって生まれたドーナツは日々進化しながら、次の世代へその技と愛情が受け継がれています。

About Shop
ドーナツもり(蔵前店)
東京都台東区駒形1-5-5 越圧ビル1F
営業時間:11:00-18:00(売切次第閉店)
定休日:なし ※両店とも大型連休(年末年始、GW、夏季)の営業日はInstagramにて告知
公式Instagram:@doughnutmori

三月

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カスタードとお固めのパンが特に好きな148cm。ライター出身、ワクワクしながらメディアを作ってます。毎日おいしいものに出会えて幸せです。

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