世界初、レジェンドの激闘に浸れるベンチ誕生!英国ピッチ再生の現状とこれから

ウェンブリー・スタジアム 写真:Getty Images

イギリスのイングランドにある国立競技場「ウェンブリー・スタジアム」が2023年に創設から100周年を迎えた。1923年の誕生以降、2007年の再建を経て長きにわたり世界中の人々の記憶に残る名シーンを見守ってきた。

100年という記念すべき区切りを過ぎ、同スタジアムでは世界初の「100%リサイクルピッチ」なる取り組みを開始。この記事では気になるその内容と今後の取り組みについて踏み込んでいく。


ウェンブリー・スタジアム 写真:Getty Images

ピッチ再利用化の時代に突入

2024年3月にウェンブリー・スタジアムが公式に発表した「100%リサイクルピッチ」の取り組みは、その名の通り選手たちがプレーをするピッチの素材を再利用しようと言うもの。そもそもイギリスのサッカースタジアムのピッチはハイブリッドピッチと呼ばれるものが多く、自然素材(天然芝)だけでなく一部にプラスチックを加えた人工素材(人工芝)を採用しており、ウェンブリー・スタジアムも95%が自然素材、残りの5%が人工素材で構成されている。

人工芝は多少の悪天候でも土壌の水はけが良い点や、サッカー以外のスポーツや音楽ライブなど多目的に活用しやすいことから現代では主流のスタイルだ。しかしウェンブリー・スタジアムでは長い間、役目を終えたハイブリッドピッチの廃棄処分問題に頭を悩ませていた。

そこでスタジアムチームは、プラスチックのリサイクルを専門に研究・活動しているイギリスの団体『Circular11』の協力を得ながら、100%リサイクル可能なピッチにする方法を開発した。では、一体どのようにしてピッチをリサイクルするのか?

まずは砂や芝を専用の機械で剥がし、その後に自然素材(砂や天然芝)と人工素材(人工芝)とを分ける。人工芝は専門業者へと運ばれ、一度溶かしてからブロック状に成型され新たな製品の素材として生まれ変わる。一方の天然芝は土へと還し、砂は大きなバックに入れて保管後シーズンの終わりに再利用するという仕組みだ。この事例から、時代はついにハイブリッドピッチをも再利用する段階へと移り変わったことになる。

ハリー・ケイン 写真:Getty Images

数々の名場面が詰まったベンチ

ウェンブリー・スタジアムチームは、ユニークなアイデアでピッチの人工芝から再生したプラスチックをベンチに変身させることに成功。1つのピッチから約50個のベンチが生まれる見通しだ。これはサッカーファンなら一度は座ってみたい代物だろう。なぜならそのベンチは、イングランド代表でバイエルン・ミュンヘン所属の名選手FWハリー・ケインやアーセナルのFWブカヨ・サカ、マンチェスター・シティのMFジャック・グリーリッシュなど、数多くの世界的な選手たちが駆け巡ったピッチによって作られているからだ。

同スタジアムのグラウンドマネージャーであるカール・スタンドリー氏によると、ベンチの設置先として地域の図書館や草の根サッカークラブが予定されているという。またベンチ以外の再生アイデアとしては「Slalom(スラローム)」と呼ばれるサッカーの練習に使用する棒状の道具や、円柱型のコーンに変身させる案も挙がっているそうだ。

どの程度の汎用性があるかまだ未知数だが、今後プラスチックの再生先には多くの選択肢が登場しそうだ。ひょっとしたら人工芝プラスチックがユニフォームの繊維として活用される日が来るかもしれない!


ウェンブリー・スタジアム 写真:Getty Images

変革はスタジアムと専門家のコラボから

今後数年間でさらに変革を起こしてくれそうなウェンブリー・スタジアム。次に筆者が待ち望んでいるのが試合会場でのパッケージリサイクルだ。現在(2024年5月時点)同施設内にはレストランやバーを含む飲食スポットが688も存在しており、そこから発生するゴミの量は想像を絶する。そこで期待したいのがリサイクルピッチ同様、専門分野の研究組織とタッグを組んだ最新鋭の取り組みだ。

例えばロンドンのリサイクルパッケージ研究グループ『Notpla』では、2013年に海洋生素材として海藻を原料にした食べられるパッケージ「Ooho!(オーホ)」を開発し話題を呼んだ。これは液体を弾力性のある食用膜(Ooho)に閉じ込めることで持ち運びを可能にし、最終的にはOohoごと食べられるという画期的なもの。同団体と手を組めば、数年後にはビッグマッチを観戦しながらOohoに包まれたビールやサイダーをパクリと頬張るファンの姿が見られるかもしれない。

ウェンブリー・スタジアムが実現させた世界初「100%リサイクルピッチ」を皮切りに、筆者が思い描くパッケージリサイクルのアイデアを含め、各国のサッカースタジアムのさらなる取り組みに期待が高まる。ヨーロッパ諸国はもちろん、日本のスタジアムにとっても良い刺激となりそうだ。

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