5月の連休前半、人混みで賑わう都心を抜け出し、南アルプスの山深くにある静かな沢へと車を走らせた。
長いアプローチの先に踏み入れた沢の水は、まだ山上にたくさんの雪が残っていることを思い出させるほど冷たい。しかし、周りの森は柔らかな新緑が芽吹き始めており、山の上にも春が訪れていることを感じさせてくれた。
■今年は沢の中も季節の進みが遅いよう
まだオープン前の林道ゲートからアプローチを頑張ったご褒美か、周りに他の釣り人は誰もいない。
はやる気持ちを抑えながら、タックルを準備し、ポツポツとテンカラで毛鉤を打ち込みながら釣り上がってみることにする。冬の間も似たような釣りをしょっちゅうしていたとしても、やはり春の沢シーズン初めは特別。気が急いてなかなかキャストが定まらないのは、毎年の恒例行事である。
例年であれば、この沢はドライでも元気の良いイワナが顔を見せてくれる時期だが、今年はどうも反応が鈍いようだ。都心では今年の桜の開花時期がだいぶ遅かったが、山の季節の進み具合も少し遅いのかもしれない。
■ルアーに変更すると魚の反応が良くなった
1セクションほど試してみたが、潔くテンカラを諦めてルアーに変更してみる。これが功を奏した。
ヘビーシンキングのミノーを少し深さのある淵に素早く通していくと、次から次へとイワナが飛び出してくる。カラーをローテーションすると、当たりは途切れることなく続いた。
サイズは小さめだが、この時期にこんなに連続で魚の顔が見られるとは。
後ろから他の釣り人がやってくることもなさそうなので、河原の岩に腰掛けて豆を挽き、沢水でコーヒーブレイクをゆっくりと楽しむ余裕の心持ち。短い時間ではあったが、シーズン初めにこれはかなりの満足感だなあ。
今回の釣行メンバーは2人。それぞれ、テンカラとルアーの二刀流を試してみたのだが、ルアーはテンカラとは違うアプローチができるからか、2人でテンカラを振るよりも後続者(ルアー)の釣果が良かったように感じた。「アイツの方が釣れて悔しい!」みたいな状況になっても、言い訳ができるしね。
■川の中にも外にも春がやってきている
竿を納め、帰りは釣り上がった沢筋の1段上にある尾根を歩いてみる。
木が密集して立ち並ぶ森の中はまだひんやりとしているが、陽が当たっている斜面には小さな花々が地面から顔を覗かせている。釣りにばかり一生懸命になっていては見えなかった景色だ。
連休を機にゲートがオープンとなった林道も多く、5月はどの山も深くまで釣り人や登山者が入り始める。熊や落石など、危険には気をつけつつ、短い山の春を楽しみたい。