充実一途のナミュールにGⅠ2勝目期待も、東京のマイル戦なら昨年の三冠牝馬と激闘繰り広げたハーパーが浮上【ヴィクトリアマイル】

5月11日、春の古馬マイル女王決定戦・ヴィクトリアマイル(GⅠ、東京・芝1600m)が行なわれる。

ウオッカ、ブエナビスタ、アパパネ、アーモンドアイ、グランアレグリア、ソダシなど、名だたる歴史的な牝馬たちが足跡を刻んできたこのレース。昨年の牝馬三冠を制したリバティアイランド(牝4歳/栗東・中内田充正厩舎)が右前種子骨靭帯炎で戦線離脱しており、今年参戦するGⅠホースは2頭だけと寂しい顔ぶれとなったが、その分GⅡやGⅢ戦の勝利経験を持つものが多数おり、バラエティ豊かなメンバー構成となった。

人気は昨秋のマイルチャンピオンシップ(GⅠ、京都・芝1600m)を制したナミュール(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)と、昨年の秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)でリバティアイランドの2着に入り、今春の阪神牝馬ステークス(GⅡ、阪神・芝1600m)を快勝したマスクトディーヴァ(牝4歳/栗東・辻野泰之厩舎)の2頭が図抜けている。

このうち、特にナミュールは他馬に比べて実績面で格の違いを感じさせるものがあり、いかに人気を集めていても、馬券の主軸として外すわけにはいかない存在だ。
同馬は昨秋の富士ステークス(GⅡ、東京・芝1600m)を圧勝すると、続くマイルチャンピオンシップは騎乗予定のライアン・ムーア騎手が落馬負傷で乗れなくなったため、急きょ鞍上を藤岡康太騎手にスイッチして出走した。スタートでやや出遅れたが、直線で藤岡騎手が外へ持ち出すと10頭以上をごぼう抜きにする驚異的な末脚を繰り出して優勝。念願のGⅠタイトルを手に入れた。

その後は香港マイル(GⅠ、シャティン・芝1600m)で3着に健闘し、今年2月のドバイターフ(GⅠ、メイダン・芝1800m)では鋭い末脚で追い込んで、勝ち馬とハナ差の2着に激走。その実力が世界レベルにあることを証明した。

今回はそのドバイ以来のレースとなるが、高野調教師は「(着地検疫のため栗東への入厩は先週になったが)状態はかなりハイレベルな状態にある。昨年は7着に負けているレースだが、いまは心身ともに充実しているので、違った競馬をお見せできると思う」と自信を示し、海外遠征の影響を感じさせない好仕上がりであることをアピールする。

また、今回初めて手綱を取る武豊騎手は「昨年のマイルチャンピオンシップは驚異的な強さだった。前走のドバイでも、勝ったか? というレースをしているように、世界でもトップクラスの馬だと思っている」と、レジェンドも絶賛している。

ナミュールをGⅠホースの座へと導いた藤岡騎手は、今年4月6日の阪神競馬7レースで落馬する不運な事故で天に召された。彼への手向けの勝利を捧げんと、現役屈指の末脚で2つ目のタイトルを目指す。 対抗格とみられるマスクトディーヴァは昨秋、ローズステークス(GⅡ、阪神・芝1800m)で重賞初制覇を達成し、その勢いをもって秋華賞に参戦。リバティアイランドの1馬身差2着に食い込んで、トップホースの仲間入りを果たした。今年は始動戦の東京新聞杯(GⅢ、東京・芝1600m)は出遅れが響いて6着に敗れたものの、前走の阪神牝馬ステークスでは好位からの差し切りで重賞2勝目を挙げた。

しかし、ここでやや評価を下げるのは本馬の適距離がマイルより長めの1800~2000mであろうと推察するからだ。1600mの阪神牝馬ステークスを勝ってはいるが、これはマイル戦らしからぬスローペースのなか、名手ジョアン・モレイラ騎手のそつのないレース運びが功を奏した印象が強い。モレイラ騎手が連続騎乗できるのはプラス材料だが、柳の下に2匹目のドジョウがいるとは限らない。勝ちまくっているモレイラ騎手が跨ることもあり、GⅠ未勝利馬としては過剰人気になりそうな公算が高いため、ここは3番手に評価を下げておきたい。

ナミュールの相手として抜擢したいのは、昨年の牝馬三冠で4着、2着、3着と、常に上位争いに加わってきたハーパー(牝4歳/栗東・友道康夫厩舎)だ。本馬も重賞勝ちは3歳時のクイーンカップ(GⅢ、東京・芝1600m)のみだが、距離不適と思われたエリザベス女王杯(GⅠ、京都・芝2200m)で古馬を相手に3着に食い込むほど、能力に富んでいる。

管理する友道調教師は「東京のマイルは実績がありますし、前走(GⅠ・大阪杯=13着)などを見ていると、一線級の牡馬と一緒に走ると少し分が悪いのではないかと思いますので、牝馬限定のヴィクトリアマイルを選びました」と、この舞台を選んだ理由を説明する。加えて、「マイルはいいと思います。今回は一番成績が安定している牝馬限定戦と、東京のマイルということになりますので、十分チャンスはあると思います」と敏腕トレーナーが自信を持つ舞台で巻き返し、大仕事をしても不思議ではない。東京コースは〔1・1・0・0〕と心強いデータもあり、ハーパーを対抗にピックアップしたい。
この3頭に続くのが、昨年のNHKマイルカップ(GⅠ、東京・芝1600m)で最後方から追い込んで勝ち馬とアタマ差の2着に迫ったウンブライル(牝4歳/美浦・木村哲也厩舎)だろう。

今年の始動戦となった東京新聞杯は9着に大敗したが、前走の阪神牝馬ステークスはマスクトディーヴァの半馬身差2着に食い込む上昇を見せた。「形になっている(※好走している)舞台ですし、去年の今頃も『来年こそは』と思いながら準備してきたので、今回は言い訳のきかない条件ではあります。何とか巻き返したいと思っています」と木村調教師も期待を込める。

その他、穴馬として4頭を挙げておく。昨年の紫苑ステークス(GⅡ、中山・芝2000m)の勝ち馬で、阪神牝馬ステークスで3着に入ったモリアーナ(牝4歳/美浦・武藤善則厩舎)。一昨年の秋華賞馬で、マイル戦での好走歴もあるスタニングローズ(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)。そして、昨年のターコイズステークス(GⅢ、中山・芝1600m)を制し、スタートの不利で大敗した前走からの巻き返しを狙うフィアスプライド(牝6歳/美浦・国枝栄厩舎)は一発を秘める。

そして、最後に1頭。レースを数多く重ねながら着実に力を付けてきており、前走の福島牝馬ステークス(GⅢ、福島・芝1800m)で2着に好走したフィールシンパシー(牝5歳/美浦・小島茂之厩舎)に注目だ。GⅠの壁は高いだろうが、ずっと本馬の手綱をとり続け、手の内に入れている横山琉人騎手の一撃を警戒しておきたい。

取材・文●三好達彦

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