全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子 全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!

「日本は移民を忌み嫌うから成長できない」で炎上のバイデン

不法移民を強制送還しろと強く訴えるトランプとは対照的に、「米国経済は移民を受け入れているから成長した」「日本は移民を忌み嫌うから成長できない」と謎の豪語をして炎上しているバイデンだが、様々な移民の背景が折り重なる米国事情は複雑さを極めている。

昨年10月7日にパレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派組織ハマスがイスラエル南部への奇襲攻撃を行って以後、米大統領選における外交政策の議論が、ウクライナ情勢のみならず、中東情勢についても白熱していることは、以前寄稿した記事「ハマス奇襲攻撃を予言したトランプ、評価が急上昇」の中で紹介した。そして、それが共和党と民主党の間の溝よりも、共和党内部の溝を浮き彫りにしている議論の一つであることを前回の記事「ナワリヌイの死、トランプ『謎の投稿』を解読」でお伝えした。

今回は、その延長線に出てきた新たな動きを掘り下げていきたい。様々な調査でトランプにリードを許しているバイデンだが、支持基盤を固めるどころか、極左からの激しい批判に襲われているのだ。

45州の約140校でガザ地区への攻撃に対する抗議デモ

その動きとは、米国各地の大学で起きているイスラエルによるガザ地区への攻撃に対する抗議デモだ。反イスラエル・新パレスチナ派の学生らは、バイデン政権によるイスラエル支援への反対表明や、パレスチナ・ガザ地区での戦闘停止、大学によるイスラエルに関連する投資撤退の要求などを行っており、一部は要求が通るまで大学構内を占拠する姿勢を取っている。彼らはガザ地区での「大量虐殺」に自分たちのお金が使われていることに対して黙っていられないという。そういった背景のデモが、米西部のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、米中部のウィスコンシン大学マディソン校、米東部のニューヨークのフォーダム大学やジョージ・ワシントン大学、かつてベトナム戦争当時も反戦を訴える学生たちの拠点となっていたコロンビア大学などを始め、全米の大学に拡大しており、警官隊との衝突が各地で発生するなど、激化している。

UCLA構内では、警察が爆音筒や閃光弾などを使いながら、バリケードやテントの撤去を行っている。日本での全学連や全共闘時代の混乱を彷彿とさせる。デモをめぐる逮捕者は、この2週間のうちに計2,300人を超えている(5月5日時点)。逮捕者の中には外部の扇動者も含まれている。BBCによると、デモの数は、少なくとも45州の約140校に広がっている他、少なくとも他の6カ国でも同様の抗議が行われている。

大統領選に影響を与えた「Black Lives Matter (BLM)」

このような混乱は、実は以前にも米国で見られた。それも、前回大統領選が行われた年である2020年にだ。その理由は、トランプが初勝利した2016年の大統領選においても人種差別問題で大きな影響を与えた「Black Lives Matter (BLM)」という黒人人権運動の存在によるものだ。

BLMは、2020年5月に起きた黒人男性ジョージ・フロイド氏の死亡事件を受けて抗議運動を活発化させた。それが急進左派の「アンティファ(Anti-Fascist Action)」というネオナチやファシズム、白人至上主義者、差別主義などに強く反対する暴力的な反ファシスト運動と混ざり合いながら、略奪・放火・破壊・暴行などを含む複数都市での暴動へと発展した。この一連の混乱は、略奪や損害を受けた450以上のニューヨーク市の企業を含め、全米で4億ドル以上の損害をもたらしたと言われる。また、ワシントン州シアトルでは、抗議者たちによって「自治区」が設置され、警察から強制的に排除されるまで約3週間占拠が続いた。

当時大統領であったトランプは、中でもアンティファを「米国はテロリスト組織として指定する」とSNSに投稿したり、それについて選挙演説中に繰り返し言及するなどした。また、暴動のカウンターとして、白人至上主義を露骨には受け入れないものの、白人優越主義的な思想にこだわる傾向とされる極右グループ「プラウド・ボーイズ」の存在感も出た。そのグループの是非が、トランプ対バイデンの大統領候補者討論会で議題に上がる程であった。つまり、BLMに起因する一連の混乱が、大統領選にも大きく影響したのだ。

BLMであるが、米国内が「イスラエル支持一色」であった中、黒人たちがいち早く「パレスチナ支持」を明確にしたことや、BLM運動の活動家から下院議員になったコリー・ブッシュ氏らが連邦議会で初めて「即停戦」の決議案を上げたことを指摘する声も上がっている。2020年の大統領選に引き続き、イスラエル・ガザを巡る動きでも、BLMの存在や影響は無視できないことが伺える。

資金源は中国在住の米国人実業家

他にも、保守系メディアのFree Beaconの記事に「反イスラエル・グループがコロンビア大学のデモ参加者に『2020年の夏』を再現するよう促した。ピープルズ・フォーラムの運営は、ゴールドマン・サックスの慈善事業部門からの1200万ドル(約18億円)の寄付によって成り立っている」というものがある。

ピープルズ・フォーラム(TPF)とは、ニューヨーク市の非営利団体だ。その団体の資金源は、「長い間毛沢東主義を賞賛してきた 」自称社会主義者の米国人実業家ネビル・ロイ・シンガム氏だと言われる。シンガムは、中国在住であり、中国共産党と繋がっていることや、同党のプロパガンダを世界的に流布していることで知られている。

同記事は、同団体の事務局長が、コロンビア大学の抗議者を含む活動家らに対し、「ジョー・バイデンに熱い夏を与えること」や「いつもの政治が成り立たないように」するよう促したことを記している。また、同氏が「『2020年の夏』を復活させる」よう発言し、BLMの広範な暴力を想起させたともしている。中国による影響も気になる所だが、ここで重要なのは、BLMやAntifaといった切り口の暴動や妨害が、急進左派にとって、再び繰り返したい大統領選への影響工作における成功例として使われているということだ。

周到に準備されていた反イスラエルデモ

ニューヨーク市のエリック・アダムス市長は大学デモについて、大学とは無関係の人物たちが大学構内に入り込み、場合によっては学生たちに「非合法な抗議戦術の訓練」までしていたことを明らかにした上で、「平和的であるべき集会が暴力的な見世物に変わることを、私たちは許さない」と強く訴えている。事実、コロンビア大学とシティ・カレッジで逮捕された者の半数近くは、これらの学校の関係者ではなかったという。

アダムズ市長の言う「非合法な抗議戦術の訓練」とは何なのか。

WSJが驚きの記事を出している。「活動家グループは大学デモの数ヶ月前から学生を訓練していた」というのだ。その記事では、コロンビア大学の学生主催者たちが、20年ほどの歴史を持ち、全米に300以上の支部を持つ「National Students for Justice in Palestine(NSJP: パレスチナの正義を求める全国学生連盟)」などの極左グループやデモ経験者と議論を通じて準備を重ねていたことや、BLMのデモ行進などへの参加を通じて資金集めを含む必要な規律と計画性を学んでいたことなどが紹介されている。

NSJPは数ヶ月前から、大学がイスラエルと取引している企業への投資から手を引くまで、大学に対して強く立ち向かおうと学生に呼びかけ、昨年10月の時点で、大学でのデモによる「抵抗の日」を宣伝していたという。つまり、反イスラエルデモは、突如として起こったものではなく、周到に準備されたものだったのだ。

穏健左派と親パレスチナの急進左派の大きな溝

ちなみに、アダムス市長は民主党の政治家である。抗議者らに対して、同じ左派とは言え、許容できない部分が存在するのだろう。

そして、それはバイデンも同じだ。2日、UCLAでデモ隊のバリケードやテントが警察に強制的に撤去された数時間後、ホワイトハウスでの演説の中で、初めてデモへの直接の言及を行った。バイデンは、米国が独裁国家でも無法国家でもないことを強調しながら、「暴力的な抗議は保護されない。保護されるのは平和的な抗議だ。抗議する権利はあるが、混乱を引き起こす権利はない」と訴えた。
このような現状を受け、親イスラエルのバイデンのような穏健左派と親パレスチナの急進左派の間に大きな溝があると言える。バイデンは、右にトランプ、左に急進左派がいる板挟み状態にあるのだ。

「ジェノサイド・ジョー」の大口献金者

これは、資金面でも同じだ。Politicoはこんなタイトルの記事を出している。「親パレスチナ派デモは意外な所から支援されている:バイデンの大口献金者だ」。

親パレスチナ派から「ジェノサイド・ジョー」と呼ばれ続けているバイデンだが、実は「(彼に批判的な)大学デモの背後にいる団体の中には、彼の再選を強く後押しする慈善家から資金援助を受けているものもある」という皮肉があるのだ。

Politicoによると、資金提供者には、ソロス、ロックフェラー、プリツカーといった民主党界隈の大物が名を連ねている。しかし、デモ参加者の戦術が過激になるにつれ、その背後にいる団体は、今や左派の著名な寄付者からの批判を集めているという。

例えば、反ジェノサイド活動を支援する団体、エリー・ヴィーゼル財団の会長を務める民主党の献金者、エリシャ・ヴィーゼル氏は、ロックフェラー基金に対し、「なぜ、10月7日の恐ろしいテロをハマスではなく、イスラエルと米国のせいにした『Jewish Voice for Peace(平和のためのユダヤ人の声)』に多額の助成金を出しているのか」と訴えたそうだ。大統領選に大きく関与する寄付者の中で差異が生じている。

仮に、このデモが夏から秋にかけて続けば、バイデンの責任はより顕著になる可能性があるとの指摘も同記事中で出ている。逆に、どうにか収束してしまえば、有権者の外交政策への関心が減り、今のこの状況が選挙に反映されないのではということだ。果たして、トランプの刑事訴追とバイデンのイスラエル支持のどちらが世間を騒がせ続けるのだろうか……。

トランプ、デモに対する独自見解を示す

さて、トランプはこのデモをどう見ているのか。激戦州ウィスコンシン州での演説の中でトランプは、デモ参加者を「荒れ狂う狂人」と呼び、それを取り締まる警察を称賛している。また、全米の大学でも同様の行動をとるよう呼びかけた。そして、デモ参加者は国境問題から注意をそらすために雇われたのだとの独自の見解も示した。

自身のSNSサービス「Truth Social」には、それに関して、動画のみの投稿を4日に行っている。その約1分間半の動画は、様々なメディアの報道やデモ関係の映像を組み合わせたものだが、そこに映されているのは、デモ隊にカウンターをする米国の愛国的な学生たちだ。舞台となったノースカロライナ大学チャペルヒルでは、デモ隊が構内の星条旗(米国旗)をパレスチナの国旗に変えてしまった。そこで同大学の学生らが星条旗を戻し、デモ隊による下品な言葉やジェスチャー、そして投げ物に耐えながら星条旗が地に付かないよう守り、最後は現場にいた人々と「USA!USA!」と声をあげるという映像なのだ。トランプが再び偉大にしたい「アメリカ」がそこにあるわけである。

ちなみに、星条旗を守った愛国的な学生たちは、保守派の間で感動を呼んでいる。既に寄付金が50万ドル(約7,600万円)を超えている。カントリー音楽のシンガーソングライターであるジョン・リッチ氏は、彼らのために無料で歌いたいとのことで、大学と調整中と見られる。

ロシア、中国、イランが支持を表明した意味

ドラマ溢れる米大統領選だが、デモ隊やその支援団体の他にも、米国に対して牙を剝く勢力がいるので、しっかり把握しておきたい。NYタイムズは「ロシア、中国、イランに、米国の分断を利用する燃料を与える大学デモ」という記事を出し、その3カ国がいずれも、昨年10月以来、プロパガンダと偽情報でイスラエルとその主要な同盟国である米国の弱体化を目論む一方で、ハマスやパレスチナ人全般への支持を表明している点を指摘している。その3カ国は米国が弱体化すれば得をする敵側の勢力なのである。

同記事の大事な指摘は、①大学デモの拡大が、その3カ国のプロパガンダをバイデン政権のイスラエル支持を問うものに転換することを可能にした点、②同3カ国がガザを巡る米国の社会的・政治的対立を増幅させようとしている点、③それらをもって大統領選挙において、党派間の緊張を煽り、民主主義を否定し、孤立主義を促進しようとしている点、④同3カ国がいずれも、動機は異なるものの、米国の信用を落とすことで利益を得ている点、⑤そのためには、同3カ国が米国市民のアカウントやメディアを装うことを厭わない点、などであろう。常に情報戦が展開されていることを念頭に置きたい。

ハーバード大学の調査で判明

さて、パレスチナ支持の若者の票がトランプに回ることはないだろうが、バイデンを支持できないという理由で棄権が増える可能性は高い。そしてそれはそのままトランプにとっての好材料となる。元来アメリカでは若者層は民主党への支持が強い。だが、ハーバード大の調査によると、18歳〜29歳の有権者の支持率は、2020年時にバイデン51%、トランプ28%で23ポイント差でバイデンが優っていたのにもかかわらず、今年4月ではバイデン45%、トランプ37%で8ポイント差となっている。バイデンの票田が大きく崩れているのだ。

米大統領選まで、あと半年。いよいよ白熱していく。引き続き、米国事情をウォッチしていこう。

石井陽子

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