tofubeats「AIを楽曲制作にどう取り入れるかって今後の音楽家のひとつの課題だと思う」

色のないAIの歌声が今の気分に合ってました。

「今回、Synthesizer Vという歌声合成ソフトを使い、歌唱はすべてその声に担ってもらっています。ディープラーニング機能があり、人の歌声を学習し、より人間らしく歌唱ができる〈歌うAI〉。“めっちゃすごい初音ミク”と思ってもらえば間違いないです(笑)」

サウンドは全編を通して、tofubeatsがここ数年で極めた濃密なハウスミュージックが通底。無機質だけれど、なぜか感傷的にもポップにも響く“機械の声”はダンスフロアとの相性も良さそうだ。

「誰かに歌っていただく場合どうしてもその人に合った曲や歌詞にしないと、と考えてしまう。でも、相手がソフトなら何の色もついてないし、自分の中にイメージもない。だからどんな曲も試せる。ちょっとエモすぎる温度高めの歌詞を乗せても、さらっと歌ってくれる感じが今の気分に合ってました。AIを楽曲制作にどう取り入れるかって今後の音楽家のひとつの課題だと思う。それをまあ試したかったという気持ちもあります。2024年のAIとの向き合い方はこういうムードだったよねとひとつ残せたらいいかな、と」

とはいえ、あえて生のストリングスの音を入れたり、テープ録音を使って音の歪みを追加してみたり、デジタルなものだけで完結させず、アナログを塩梅よく加え「ちょっと丸みを引き出す」匙加減も心地いい。歌声合成ソフトを使った実験的なアルバムという印象よりも、tofubeatsらしさをより全体に感じる結果を生んでいる。完全なオリジナル作品のリリースは2年ぶり。昨年はアニメやドラマのサウンドトラックを手がけるなどいわゆる“外仕事”が多かった。オーダーを受けて楽曲を作ることで、自身を客観的に見る術もまた身についたと言う。

「tofubeatsは、一人でやっていることなので、単独で自分の中からだけで何かを生み出そうとするのも限界がある。お題をもらってそれをクリアすることで思ってなかった感覚が自分の中にあると気づくことがある。そういうフィードバックも大事にしています」

メジャーデビュー時は森高千里や藤井隆など錚々たるフィーチャリングアーティストを迎え、新しいダンスミュージックの形を切り開いた。活動をスタートして10周年を迎えた今、誰でもない声を携えてまた違うチャレンジを続けているのだ。

「時代は確実に移り変わっている。だからこそ、その時代ごとにあるものをしっかり残して、聴き返して面白いと思えるものを作っていきたい。この10年間、大きな目標はいい音楽を作って楽しく暮らすこと。それはずっと変わっていません」

アルバム『REFLECTION』から約2年ぶりのオリジナルEP『NOBODY』。「I CAN FEEL IT」「NOBODY」など全8曲収録。デジタルリリースのみ。メジャーデビュー10周年特設サイトも公開中。(ワーナーミュージック)

トーフビーツ 1990年生まれ、神戸出身のトラックメイカー/DJ。2013年、森高千里をゲストボーカルに迎え「Don’t Stop The Music」でメジャーデビュー。昨年はUKのDJ QとのコラボEP『A440』などもリリース。

※『anan』2024年5月8日‐15日合併号より。写真・玉村敬太 取材、文・梅原加奈

(by anan編集部)

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