百貨店戦争、景気悪化や大型商業施設進出にも耐えたが…稼ぐ力弱く、耐震化や改装費が負担に 山形屋、再建へ「時代に見合った提案」が鍵

大勢の来館者でにぎわう初夏の北海道物産展=2024年4月23日

 山形屋(鹿児島市)が、私的整理の手法である「事業再生ADR」で再建を目指す報道があった10日、買い物客やネット上には驚きが広がった。従業員も事前に知らされておらず、寝耳に水の出来事だった。

 ただ、兆候とも取れる動きはあった。ADR申請を終えた数日後の今年1月2日、岩元修士社長(54)は初商い前の朝礼で「これまでのやり方、組織をいったんゼロにし、時代に合った形に整えるタイミングだと判断している」と覚悟を語った。

 鹿児島で絶大な知名度とブランド力を誇る山形屋。3月には、ロゴ入りの紙袋をグループ全店で有料化した。「環境保全の一環」としているが、経費節減といぶかしむ人も少なくない。また、友の会(七草会)入会の積極的な勧誘が最近はなかったと振り返る人もいる。「プレミア分の出費を増やしたくなかったのでは」と推測する。

 山形屋は1980年代から“鹿児島百貨店戦争”と呼ばれた鹿児島三越(当時)との激しいしのぎ合いを演じ、リーマン・ショックによる景気悪化やアミュプラザ鹿児島、イオンモール鹿児島といった大型商業施設の進出にも耐えてきた。

 売り上げも近隣百貨店と比べ見劣りしない。帝国データバンクの実態調査では、新型コロナウイルス下の2023年2月期の売上高は約158億円、九州・沖縄地区に本店を置く上位10社の中で山形屋は5番手と健闘している。

 一方、本業のもうけや財務健全性の指標となる営業利益率を比べると、23年2月期は売上高が同程度の鶴屋百貨店(熊本市)が1.2%、トキハ(大分市)が0.4%とプラス圏に回復したのに対し、山形屋はマイナス1.3%。稼ぐ力の弱さがうかがえる。

 山形屋は18年2月期に最終赤字に転じ、翌19年は長年積み上げてきた利益剰余金も底を突いた。そこへコロナが追い打ちをかけ、直近23年2月期の当期純損失は8億円弱に膨らんだ。

 同社は業績悪化の一因に、15年着手の耐震工事や同時期の大規模改装を挙げる。前者は必要経費で、後者は新たな顧客をつかむ投資だった。だが、これらはグループ企業の川内、宮崎山形屋と合わせて総額93億円に上り、経営を圧迫した。

 業務効率化や光熱費節減といった経費削減を重ね、21年7月末には財務改善の名目で減資に踏み切ったが、グループ全体でカバーするにも限界だった。

 関係者によると、経営再建計画案ではグループ会社をホールディングス化し、メインバンクの鹿児島銀行などからの出向を受け入れる。収益性の低い地方店の統合や売り場の縮小などを検討、組織・人員体制をスリムにし利益を出せるコスト構造への転換を目指す。

 コロナを経て社会経済活動は戻りつつあるものの、物価高もあり消費環境は厳しい。鹿児島経済に詳しい長崎県立大学地域創造学部の鳥丸聡教授(鹿児島市出身)は「時代に見合った新たな百貨店像を提案できるかが再建の鍵になる」と指摘した。

〈連載「荒波百貨店~山形屋 私的整理へ」㊦から〉

金融支援を受け再建を目指す山形屋=10日、鹿児島市金生町

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