「母の日ムード」がしんどい。亡き母へ送る手紙を集めた「死んだ母の日展」開催

母親の遺影を手に抱える企画者の中澤希公(きく)さん

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5月12日は「母の日」。毎年5月の第2日曜は母親に日ごろの感謝を伝える日だ。

街の花屋にはピンクや赤のカーネーションがあふれ、店頭にはおすすめの「母の日ギフト」が所狭しと並ぶ。SNSにはうれしそうな母とのツーショットが次々に投稿される。

しかし、そんな「母の日ムード」は、母親を亡くした人たちにとっては「母の死」を改めて実感させられ、つらいものになりうる。

そうした境遇にいる人たちが母の日のたびに感じる「しんどさ」に光を当てたイベントが開催されている。

亡くなった母親に贈る「母の日の手紙」をオンライン上に展示した、「死んだ母の日展」だ。

「お母さんがいる友達が羨ましかった」

2022年にスタートしたこの「参加型」プロジェクト。特設サイトには、天国の母親宛に送られた匿名の手紙がたくさん展示されている。

手紙をクリックすると、つい最近母親を亡くした人から、10年以上前に別れを経験した人まで、短いメッセージから長いものまでさまざまな感情が込められた手紙を読むことができる。

「死んだ母の日展」特設サイトから

同イベントを企画したのは、故人へのメッセージや思い出の写真をオンライン上でシェアできる追悼サイトなどを運営するベンチャー企業「むじょう」のプロジェクトメンバー、中澤希公(きく)さんだ。

中澤さんは22歳。14歳の時に母親を乳がんで亡くした。それ以降、毎年「母の日ムード」が漂うたび、母親が亡くなったことを実感し、しんどく感じていたという。

「1番辛かったのは、友達がSNSで母親へのプレゼントやカーネーションを投稿したのを見る時ですね。なんかグッと刺さったというか...辛かったというか羨ましかったです」

母を亡くした自分も、何か母の日にできることはないかーー。

「母の日感がしんどい」という気持ちと共にオンライン展示会のアイデアをTikTokに投稿したところ、54万回以上視聴され大きな反響があった。

「知らない人からもたくさんコメントが寄せられて。同じ境遇にある、同じ思いを持つ人がいっぱいいると知って、形にする必要があると思いました」

2021年からは「死んだ父の日展」も開催しており、「死んだ母の日展」と合わせ、これまで累計1500通の手紙が寄せられているという。

ひとりじゃない

「母を亡くした時は孤独しか感じなくて、なんで私だけが...って思っていた」という中澤さん。サイトに展示されている手紙は匿名だが、亡くなった母親の享年と死別当時の応募者自身の年齢が書かれている。同じ年代や似た境遇の人の手紙を読むことで、孤独感の緩和につながることを望む。中澤さんの経験を活かしたこだわりのデザインだ。

「死んだ母の日展」特設サイトから

自身も毎年手紙を書いているという中澤さん。「泣きながら書きます。自分の感情を全部吐き出せる。書いている中で気づくことがあったり。母を亡くしたことをポジティブに変換できるようになってきました」と語る。

同じ境遇にいる人に、「「感情を抱え込まないで吐き出すことで整理でき、もっとこういう考えをしてみようなど考えるきっかけになる。書けるなら書いてほしいです」と中澤さんは話す。

またこの展示会は、母親が在命の人にも是非見てほしいという。

「感謝を伝えられる場面があったら直接伝えてほしいな、と思います。サイトの手紙からは母親を亡くした悲しみも感じられますが、家族の在り方を知ることができるストーリーもたくさんあるので、自分の家族像を考え直すきっかけにもなると思います」と述べた。

「死んだ母の日展」、これから

オンライン展示会を始めて3年。中澤さんは現在、イギリス・ロンドンの大学に留学中だ。アートを学んでおり、日本の母の日である5月12日に合わせて、ロンドンで個展を開く。

死別に対する中澤さんの視点の変化を表現した個展で、日本で開催してきた「死んだ母の日展」に関するアート作品も、数点展示される予定だ。

これを機に、「死んだ母の日展」を海外でも展開していきたいと話す。

「海外と日本で反応が違うと思うので、海外でやったらどうなるのか、これから模索していきたいです」

「死んだ母の日展」で寄せられた手紙を英訳し、1通ずつ紙飛行機に見立てたインスタレーションアート作品

「死んだ母の日展」サイトはいつでも見ることができるが、手紙を書けるのは毎年母の日前後の一定期間のみとなっている。2024年は5月9日から31日まで。実の母親に限らず、義理の母や「母親のような存在」の人に宛てた手紙でもいい。

手紙は書きたいが展示されたくない場合は、非表示の選択もできる。内容は感謝の言葉だけでなく、近況報告や愚痴や恨みでも構わないという。

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