山崎製パン、不正が次々と発覚…工場では包装済みの袋を開けてパン詰め替え

山崎製パンの公式サイトより

2月に千葉工場(千葉市美浜区新港)で女性アルバイト従業員(61)がベルトコンベヤーに胸部を挟まれ死亡するという事故が起きた山崎製パン。9日発売の「週刊新潮」(新潮社)は、同社の工場では包装済みの袋を開けてパンを取り出し、翌日納品分の袋に入れ直すという消費期限の偽装が常態化していると報じている。山崎製パンの不正行為が「新潮」報道によってたて続けに明らかになっているが、その背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

製パン業界最大手の山崎製パンは、「ダブルソフト」「薄皮シリーズ」「ランチパック」「ナイススティック」「ホワイトデニッシュショコラ」「ミニスナックゴールド」など長寿シリーズを多数抱え、年間売上高は1兆円を超える。手掛ける商品は食パン、菓子パン、サンドイッチなどのパン類に加え、菓子類、飲料類など幅広い。このほか、コンビニエンスストア「デイリーヤマザキ」やベーカリーショップの運営なども行っている。毎年春に展開されるキャンペーン「春のパンまつり」も有名で、多くの一般消費者にとって親しみが深い企業の一社といえる。

そんな同社の不正行為が相次いで伝えられている。4月18日発売の「週刊新潮」によれば、一部店舗に対し本来の納品数・代金分の個数より少ない数量を納品する「中抜き」や、ノルマ達成のために店舗から注文を受けていない商品を無断で納品するという行為、商品で問題が発覚すると、その商品を回収するために社員が納品された店舗を回って一般客を装って購入することなどが行われているという。また、かつては工場勤務者の月の残業時間が120時間におよび、これに加えてタイムカードを切った上でのサービス残業も強いられていたという元従業員の証言も掲載されている。

こうした行為は他の食品メーカーでも行われているのか。業界関係者はいう。

「中抜きや無断納品、問題商品の買い占めなどは営業現場の話なので、個別の部署や個人がノルマ達成や問題が本社にバレることを防ぐために独断でやっていたということは考えられる。一方、袋を詰め替えるという手口での消費期限偽装は、中小規模のメーカーならいざ知らず、最大手である山崎製パンがそんなことをやっているとは、にわかには信じがたいレベルの行為。正社員である現場責任者が指示しない限り、こうした行為は行われないし、日常的に繰り返されていたとすれば工場内で広く認識され、工場長も把握していただろう。食品衛生法違反の恐れがあり、当局による営業停止処分の対象にもなり得る話なので、会社としてしっかりとした調査と公表をすべきではないか。

大量に廃棄品が生じると廃棄コストが発生するので、ロスを防ぐために袋を詰め替えて出荷しているのだと考えられるが、一連の不正を見る限り、現場がノルマ未達や問題の発覚によって本社から怒られることを過度に恐れていることが根本原因であるように感じる。本社が現場をきちんと管理・監督するのは重要だが、それが強すぎると現場が委縮して問題隠ぺいのために不正に走りやすくなる面もある。総じて食品メーカーというのは社風が真面目だが、それが裏目に出てしまっているのかもしれない」

相次ぐ死亡事故

同社工場では2月、製造ラインで働いていた女性アルバイト従業員がベルトコンベヤーに胸部を挟まれ死亡するという事故が発生。これを含めて同社工場では過去10数年で4件もの死亡事故が起きている。

・2012年6月16日
伊勢崎工場(群馬県)で男性社員が配送用トラックのドアに挟まれ、胸などを強く圧迫されて死亡。ケースを降ろす作業中に車が前に動き出し、運転席側のドアを開けて車を止めようとした際、ドアが駐車中の別の配送車にぶつかり、はずみで挟まれたとみられる(「MSN産経ニュース」記事より)。

・15年11月2日
古河工場(茨城県)で男性社員が小麦の貯蔵タンクを清掃中、タンクからコンクリート製の地面に転落し、頭を強く打って死亡(「茨城新聞」記事より)。

・20年
神戸工場(兵庫県)で、容器の洗浄ラインで機械の運転を停止させずに調整作業が行われ、機械内で修復作業に当たっていた男性社員が容器と機械の内壁の間に頭や上半身を挟まれ死亡(「労災ユニオン」公式サイトより)。

もっとも、食品工場は危険が多い労働環境であることは事実だ。農林水産省の調査によれば、2019年の1年間に食料品製造業の「新たな製品の製造加工を行う事業所」「工場、作業所」で発生した作業事故は7969件、そのうち死亡事故は16件、重篤事故は3672件となっている。

「食品工場には大型の食品製造機械が数多く設置されており、作業者が巻き込まれたり、挟まれたりといった事故が起こりやすい。原因としては、作業者の高齢化に伴う俊敏性の衰え、非正規雇用者や外国人労働者の増加で安全対策の講習が十分に行われないことなども挙げられます。

巻き込まれ事故の多くは機械の稼働中に発生します。清掃時は電源を切るのが原理原則ですが、清掃時の電源の切り忘れが原因の事故が多いといわれます。海外製の機械では、非常停止ボタンがいたるところに設置されたり、2人同時にスイッチを押さなければ起動しないといった対策を施されたものもあります。装置の稼働領域に身体の一部が入ると光電管検出などによって非常停止するような工夫を行っている食品メーカーもあります。

転倒事故がもっとも多いのは食品メーカーだと思います。作業場床面の水や油分によって長靴が滑りますし、熱湯を用いるので火傷も頻繁に発生します。そのため、ゴムエプロンと長靴の隙間から熱湯が入らないよう作業者同士でチェックを行います」(食品メーカー関係者/3月1日付け当サイト記事より)

薄利多売という食品メーカーの特性

別の食品メーカー関係者はいう。

「山崎製パンは大企業ゆえに従業員数も工場も多いことを踏まえても、10年間で死亡事故4件というのはちょっと多いという印象。気になるのは、かつては工場の従業員が長時間残業を強いられていたという話だ。工場での作業は大きな危険を伴うため、特に働き方改革が叫ばれる現在では、一般的にメーカーは現場従業員の労働時間が長くならないように努めている。長時間の連続勤務になると肉体的な疲労に集中力の欠如が重なり、事故やミスが誘発されるためだ。山崎製パンの工場は24時間制で勤務シフトが組まれているが、過去の死亡事故の発生と長時間労働に因果関係がなかったのかが気になる。

また、2月の事故についていえば、なぜ安全装置が作動しなかったのか、なぜ誰も緊急停止ボタンを押さなかったのか、もしくは押したものの間に合わなかったのか、会社側がしっかりと検証し、同様の事例が生じないように社内のみならず社外にも公表すべきだ。

薄利多売という食品メーカーの特性にも改めて目を向けるべきだ。消費者は1個100円程度の安価な価格で美味しいパンを食べられるわけだが、パンの製造には多額の設備投資と多数の人員が必要になり、そのコストを賄うためにメーカーは大量の商品を24時間365日体制でつくり続けなければならない。そうした“製造ラインを絶対に止められない”“ロスを発生させてはいけない”という強いプレッシャーが、山崎製パンにおけるさまざまな不正や事故の背景にはある」

(文=Business Journal編集部)

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