高知東生「依存症」から生還したきっかけは…嘘にまみれた自分を反省し、ついには「啓発映画」制作

東京・中央区の「ギャンブル依存症問題を考える会」の前で(写真・久保貴弘)

ドジャースの大谷翔平の元通訳、水原一平被告による違法賭博問題をきっかけに、さまざまな依存症が注目を集めている。

2016年6月、覚醒剤と大麻の所持で現行犯逮捕された高知東生(たかちのぼる)。逮捕時、高知は麻薬取締官(マトリ)に「来てくれて、ありがとうございます」と礼を告げた。

「逮捕後の2~3年は、一人で殻に閉じこもってもがいていました。知人からは無視され、近づいてくるのは宗教やネットワークビジネスの勧誘ばかり。あのときは、依存症は “根性論” で克服するしかないと思っていました。でも一人ではもう限界で、誰にも相談できないし、“死んだほうがいいんじゃないか” と思う毎日でした」

マトリへの感謝の言葉も、メディアは「反省していない」と一斉にバッシングした。そんななか、「依存症患者にとってはホッとした感情から発した、本当に素直な言葉なのだ」と、高知をウェブメディアで擁護したのが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんだった。

「メディアで叩かれまくって超人間不信になっていましたから、本当にありがたかったです。だから、田中さんから連絡がきたときは、『あの記事の人だ!』と嬉しく思いました。しかし当時の僕は、それでも信じきれない部分があったんです」

高知は2度も面会を断わったものの、田中さんの熱心な誘いに根負けし、会うことになった。

「聞くと、田中さん自身が依存症患者で、今は依存症の啓発活動をしていると。今までの人とは違うなと感じました。心を開いて話すうち、気がつけば7時間以上たっていました。

その日、田中さんから『一緒に啓発活動をしてくれませんか』と言われたんです。なぜかと聞くと、『ラブホで愛人とクスリをやって捕まった高知さんが回復できたら、誰でも回復できる』と笑い飛ばされたんですけどね(笑)」

以来、高知は5年以上にわたり、田中さんが主宰する自助グループで、依存症に苦しむ人をサポートしている。義務感からではなく、「やりたいからやっている」そうだ。月に2回のミーティングに欠かさず参加するほか、講演活動も積極的におこなっている。

「今日も、さっきまで依存症に悩む著名人の方々が集うミーティングがあったばかりです。ミーティングではその日のテーマを決めて順番に、日常生活のなかで苦しかったり、つらかったりしたことをぜんぶ話してもらいます。ほかの人は、ただ聞くだけ。

これまで、僕を含めた参加者は嘘にまみれ、大切な人を騙してきました。最初は過去を振り返り、自分をさらけ出すことは、感情を爆発させてしまうほどつらい経験でした。今は、人に話を聞いてもらうだけで “こんなにもラクになれるんだ” って思うんです」

6月29日からは、自助グループでともに回復への道を歩む仲間たちが出演し、田中さんがプロデューサーを務める映画『アディクトを待ちながら』が公開される。

親族がギャンブル依存症を経験したナカムラサヤカ監督は、当事者や家族を4年間取材した。高知は、薬物事件で逮捕されたミュージシャンを演じる。

「僕と同じく逮捕経験のある俳優の橋爪遼さん、NHKの『歌のお兄さん』だった杉田あきひろさん、元NHKアナウンサーの塚本堅一さんらが出演しています。

何かをやらかしてしまった人が、その後の人生をどう生き直していくかが重要なのに、今の社会は彼らを排除し、いなかったことにしてしまう。そんな風潮を変えたいと思っています」

●専門医に聞く依存症からの回復

高知東生の主治医を務めた依存症治療の専門家、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師に聞いた。

依存症の背景には、本人が気づいていない “心の痛み” があります。それは、「自分は無価値だ」「誰からも必要とされていない」「消えたい」という、虚無感や孤独感です。

そんな痛みから意識を逸らすために、あたかも誰かに強いられるかのように、やめられない、止められない行為がエスカレートしていきます。

その結果、他人には言えない “秘密” を抱え込んで、ますます孤独に陥り、対象への依存を深めていくのです。

依存症は、完治することはありませんが、回復することはできる病気です。回復までは、七転び八起きのプロセスです。再発や失敗は、回復に不可欠な要素といってもいい。

それには、安心して失敗を話せる支援者と、非難されない安全な場所が欠かせません。まずは、依存症専門医や、自助グループに繋がることが必要なのです。

取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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