一人前の消防士めざす「消防学校」 立ちはだかる教官の壁…「やり直せ」 防火衣「めちゃくちゃ暑い…」 入校翌週にコロナ集団感染…訓練生たちは乗り越えられるのか?

この春、鳥取県消防学校に25人の消防職員が入校し、新たな一歩を踏み出しました。訓練生たちを待ち受けていたのは厳しい規律、訓練、そして、仲間たちとの熱き日々。
一人前の消防士を目指し奮闘する鳥取県消防学校の訓練生に密着しました。

4月4日、鳥取県消防学校の入校式の日。
消防職員初任総合教育第9期生25人が、新たな一歩を踏み出しました。

年齢は18歳から25歳、そのうち、女性はひとり。
消防士の卵たちは、これからおよそ半年かけて訓練を重ね、一人前の消防士を目指します。

入校式からさかのぼること2日前…
彼らはすでにこの世界の厳しさを目の当たりにしていました。

共同生活を送る寮に入る受付をする時のことでした。

訓練生
「鳥取県西部広域行政管理組合消防局消防士 矢倉孝介です。よろしくお願いします」
教官
「見たか?要領見たか?」
訓練生
「見ました!」
教官
「その線に何を合わせるって書いてある?」
訓練生
「…かかとです」
教官
「やり直せ」

これは、入寮にあたっての恒例行事。
まずは一人一人、所属・階級・名前を申告するのですが、立ちはだかるのは、「教官の壁」です。

教官
「お辞儀のタイミングはどうだった?」
訓練生
「教官が先にされてから、自分が後です」
教官
「最初間違えた、やり直せ」

教官は、声、姿勢、表情、服装、申告内容などを厳しくチェックします。

教官
「精一杯の声か?」
訓練生
「まだ出せます」
教官
「やり直せ」

訓練生
「鳥取県西部広域消防…」
教官
「やり直せ」

途中で言葉が詰まってしまい、やり直し…

教官
「右のポケットみて。やり直し。」

ポケットが乱れていたため、やり直し…

入校生たちは教官のOKがもらえるまで、寮に入ることはできません。

教官は
「自分の心を奮い立たせる。また連携を守るためにも必要なことだと考えています。
教育訓練期間中は、辛いことや大変なことたくさんあると思います。でも地域住民の安心安全を守るためには乗り越えないといけない。
きょうはその第一歩目として頑張ってほしいと思って、こうして実施しています」

そして…

訓練生
「よろしくお願いします!」
教官
「よし、よろしく!中入れ!」

ひとり、またひとりとクリアし、時間はかかりましたがおよそ半年間苦楽を共にする仲間が全員教室に集合しました。

厳しい世界。
それでも、彼らがこの道を志した理由を聞いてみました。

訓練生は
「この道を選んだ理由は、大学3年生のときに実家の近所で火事が起こって、消防局の方が懸命に活動している姿を間近で見て、自分も目指したいと思って。」
「やっぱりこの地域には山や海や川があるので、いろんな自然災害が起こり得る。災害の際にはしっかりと対応できるようになりたくて。」

決意を新たにした新人消防士たち。
入校の翌週から、いよいよ訓練開始です。

しかしその様子を覗いてみると、訓練生たちは皆マスクを着用しています。
実は、寮生活を始めて1週間、訓練生複数人が新型コロナに感染し、急きょ学校閉鎖になってしまったというのです。

この日、学校はすでに再開していましたが、それでも7人が欠席。
寮生活では健康面の管理も重要な課題です。

「2分で着装。防火衣着装操作はじめ!」

この日、まず行われたのは、炎や煙などから、消防士の体を守る「防火衣」を着装する訓練。
命を守るため「適切」に、また、1分1秒でも早く現場に向かうため「迅速」な着装が求められます。

教官
「全然昨日よりも早い。1分40秒でできている。でも、所属におられる先輩方はもっともっと早い。
みんなの防火衣着装が遅いと、出場が遅れる、現場到着が遅れる、地域住民に損益が生むからね。そこを考えながら行動してください」

訓練生は
「思ったよりも暑くて。夏とかもっと暑そうなんで頑張ります」
「めちゃくちゃ暑いです。準備の時に一つミスしたら、着るのが30秒ぐらい遅れたりするので、準備作業がとても大切だと思いました」

続いては…

教官
「65ミリのホース1本展張、収納にあっては、また2人組で連携とりながら実施してください。操作はじめ!」

消防ホースを使った訓練です。
巻いた状態のホースを前に転がして一気に広げる「展張」。
そして…

「二重巻きを作成中!」
「最初きつく巻くんよ、最初きつく」

伸ばしたホースを「二重巻き」という巻き方で再び緩みなく巻く、消防士の基本操作を学びます。

ここで教官が指摘したのは、ホースを巻くときに膝を地面につけているということ。

教官
「火災現場では何が落ちているか分からない。釘が落ちている、瓦が落ちている、ガラスの破片が落ちている…ケガするもとなので、クセづけるためにも、ホースを巻くときも膝を付けずに巻いてください」

その後も、訓練生はホースを伸ばしては巻いて、巻いては伸ばして、何度も何度も訓練を重ねます。

しかし、ホースがまっすぐ前に広がらなかったり、巻き終わったときに
2つの金具の位置が違うなど、課題はまだまだ山積みです。

そして、午前の訓練が終了しました。

教官
「お疲れ様でした。しんどかったと思う。初めて防火衣を着た状態でホース延長訓練もして、暑さも経験してもらいました。
でも、これ必要な経験なんよね。
急な災害現場、この暑さに耐えきれず熱中症になって活動ができないなんてことが実際にあるかもしれない。そのためにもきょう防火衣を着て、2時間訓練をしてもらいました。
技術的にも、体力的にもまだまだだけど、ここがまだスタートだからね」

訓練生は
「きつかったです。どんどん体力つけて、きつくないって思えるようになるまで頑張りたいです」
「ホースがまっすぐ伸ばせなかったです。現場に出てまっすぐ伸ばせないと、それだけでも火を消すまでのタイムロスになることを教えていただいたので、そこを課題に頑張りたいです」

同じ志を持って走り出した25人の新人消防士。
消防学校の卒業は今年11月で、およそ7か月半の間彼らの厳しい訓練の日々は続きます。

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