追悼・唐十郎さん 破天荒だが才能の塊のような人 飲み屋で「お前は誰だ」と凄まれビビった

唐十郎さん(C)日刊ゲンダイ

劇作家の唐十郎さんが4日に亡くなった。84歳だった。およそ60年前の1963年にアングラ演劇「状況劇場」を旗揚げし、新宿・花園神社の紅テントで鮮烈な演劇を上演した鬼才にして不世出のエンターテイナーでもあった。

これまでインタビューした中で唐さんについて語った人も多かった。酒豪で知られただけにとくに酒席の話。演劇評論家が追悼で「新宿ゴールデン街に行くと『ゆうべは唐さんが出刃を手にこの路地を走り回っていた』なんて物騒な話を聞いた」と書いていたが、そこまでではなくても、新宿の街で夜な夜な唐さんに出くわした時のことは今でも忘れることができない。元妻の李麗仙さんも行きつけの飲み屋に唐さんがいきなり乱入。挨拶をすると、泥酔状態のアングラ演劇の親分に下から睨みつけられた。目はすでに据わっていた。そして「おまえはだれだ」とすごまれ、ペーペーのこちらはその迫力、すさまじさにビビった。

俳優の斉藤暁さんはインタビューでこう語った。

「唐十郎さんの状況劇場に1度だけゲストで出たことがあります。すごかったですよ。劇団の他にマスコミの人も入れ、唐さんは牢名主のような感じで飲んでいました」

小日向文世さんは「1度だけ唐十郎さんと飲んだことがあるけど、『おい! おまえよ!』って突然スイッチが入る人でね。恐ろしかったです」と語った。

■破天荒だが才能の塊のような人

語られていない武勇伝はこんなものではないに違いないが、大立者とは唐さんのような人のことを言うのだろう。

そんな唐さんを慕う六平直政さんが、こんな一面も語った。

「とにかくケチ。俺は状況劇場に10年近く在籍したんだけど、その間にもらったお金は20万円もなかったから。文句を言いたくても唐さんは座長で、こっちは下っ端。『嫌なら出てけ』と言われるだけだから、何も言えなかった」

それでも劇団を離れなかったのは「唐さんの書く素晴らしい(台)本で芝居ができたから。それだけが理由だね」。

破天荒だが、才能の塊のような人。そんな唐さんを描いたら、不謹慎かもしれないが、すごい芝居ができそうな気がする。

(峯田淳/日刊ゲンダイ)

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