【社説】上場企業の決算発表 円安の恩恵、広く分配を

 上場企業の2024年3月期決算が出そろいつつある。歴史的な円安の効果で、輸出型企業を中心に過去最高益が相次いでいる。

 円安は国の政策の結果ともいえる。潤った企業は、株主だけでなく、従業員や取引先にも恩恵が行き渡るよう、分配の意識を持ってほしい。

 自動車メーカーは総じて好調だ。マツダは本業のもうけを示す営業利益が2505億円と過去最高だった。トヨタ自動車は営業利益が日本企業で初めて5兆円を超えた。円安による押し上げ分は6850億円に上る。前期に平均1ドル=135円だった為替レートは145円に下落した。ドルで得た利益は、円換算すると円安になるほど膨らむ。

 ハイテクや機械産業に加え、訪日客が増えた影響で観光や運輸の企業も業績を伸ばしている。

 証券会社の集計によると、主な上場企業1421社の純利益の合計は前期比で15・0%増え、3年連続で過去最高になる見通しという。

 一方、国民の生活は苦しさを増している。物価の変動を考慮した1人当たりの実質賃金は24カ月も続けて減り、リーマン・ショック前後を超え、過去最長を更新した。

 総務省がおととい発表した23年度の家計調査も、1世帯(2人以上)当たりの月平均消費支出が29万4116円と3年ぶりに減った。減少幅3・2%は新型コロナウイルス禍で消費が落ち込んだ20年度に次ぐ過去3番目の大きさだった。食費を切り詰める動きが広がっている。上場企業ばかりが富み、多くの国民の暮らしが貧しくなるような偏った事態は避けねばならない。

 今の円安は、安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」以降、政府が続けた金融緩和策が大きな要因となった。今年は春闘で大幅な賃金アップが相次いだが、効果が出るのはこれから。経済の好循環を実現するには、物価の上昇を超える賃金増を続けることが重要になる。

 輸出の機会が少ない中小企業の多くは、円安が逆風になっている。原材料を輸入に頼る食品やエネルギーの価格が上がっているためだ。

 中小企業が賃上げの元手を得るには、取引先の大企業の協力が必要だ。適正な労務費も含めて取引価格に反映させねばならない。国内の従業員の7割は中小企業で働く。円安の恩恵を受けた企業は、下請けを含めた共存共栄の意識を持つことが時代の要請ではないか。

 日銀は大規模な金融緩和策を修正し、マイナス金利政策を解除した。今後、ゆっくりと金利を上げていくことを視野に入れている。為替は円高の局面になる可能性がある。

 海外で稼ぐ大企業が多い経団連の十倉雅和会長も「1ドル=150円を超える水準は円安過ぎる。日本経済を強くすることで円が正しく評価されるのが理想」と述べている。円安は異常なレベルにあるのだろう。

 近年は為替が急激に動くケースが多い。円安が追い風になった企業も、競争力を高める努力は怠ってはならない。

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