追徴課税の可能性も…知らないと損をする〈デジタル資産〉の「相続申告」への悪しき影響【専門家が助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

FXや電子マネー、仮想通貨などのデジタル資産。これらは相続対象でありながら、相続人が見つけにくいことが問題になっています。不動産事業プロデューサーである牧野知弘氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より、これからの時代に避けては通れない「デジタル相続」について、詳しく見ていきましょう。

相続対象になる「デジタル資産」とは?

私たちの生活においてインターネットは不可欠な存在になりました。それとともに、インターネットで様々な金融取引を行うこともあたりまえになってきました。証券会社は比較的早くからネット証券が取引の中心となりました。

FX(外国為替)取引は、借入(レバレッジ)を起こすことで、短時間で巨大な利益を稼ぎ出すことでおおいに喧伝され、その射幸性の強さゆえに一時は社会問題にさえなりました。銀行も各地にあったATMコーナーを縮小、撤去し、また通帳発行を有料化し、オンライン上での資金管理を推奨するようになっています。

電子マネーは花盛りです。鉄道系カードを始め、金融クレジットカード系、インターネット系、情報通信系などスマートフォンを介した売買はごくあたりまえの商活動として人々の生活に溶け込んでいます。

さらにはビットコインやイーサリアムに代表されるような仮想通貨(暗号資産)を持つ人も増えています。最近ではNFT(Non-Fungible Token)と呼ばれる代替不可能なトークン(証拠、引換券)が発行されるようになりました。NFTの世界になると、ネット上に描かれた絵画や動画上での特定のシーン、ゲームに登場するキャラクター、トレーディングカードなど、本当に資産価値があるのかもわからないようなコンテンツまでが取引されています。

実は相続の際には、こうしたデジタル資産も当然のことながら相続対象になってきます。特に仮想通貨などは、取引していることがわかったら、取引所に連絡し、残高を確認してその証明書を発行してもらい、この残高を遺産総額に加えて申告しなければなりません。

そもそもこうした取引に不慣れな相続人であれば、被相続人が取引を行っていたことがわかっても、取引所に連絡するなどのやり方すらわからないというのが現状ではないでしょうか。

相続の複雑化で、想定外の加算税・延滞税が発生するケースも

しかし「知らなかった」では済まされません。遺産分割協議書を作成する際に、この事実に気づかずに申告。その後発覚して相続がやり直しになる、加算税・延滞税を徴収されるなどの事態になると大変です。

以前は親が亡くなったら、実家に赴き、金庫や抽斗を開けて、銀行や郵便局の通帳を取り出し残高を確認する。証券会社などから郵送されてくる取引残高通知書を確認して、証券会社に届け出るなどといったことを行ってきました。

しかしこれからの相続は、親の持っていたスマートフォンやタブレット、パソコンの中身までチェックしなければ、財産の全容を解明できない時代になってきています。厄介なのが、これらの取引を行っていることが相続人からは見えにくいこと。また親だけが知っていたIDやパスワードに阻まれて、スマートフォンすら立ち上げることができないことです。

今後ますます紙媒体によって資産内容が確認できない時代になれば、相続申告の形態を改正して、相続もデジタルで行うことを考えていくべきなのではないでしょうか。

たとえば国民全員への配布が計画されたマイナンバーカード。

コンビニで住民票が取れるなどといった小さな便利さを提供したり、マイナポイント発行といったすでにある電子商取引におもねったようなサービスを付加するばかりではなく、各人が持つ金融資産のみならず、不動産を含めた全資産を早期に紐づけして、全財産の把握がオンライン上で容易にできるようにしたいものです。

財産のすべてがマイナンバーカードのもとで一括して管理できるようになり、財産の移動に関して、統一的なパスワードを用いるようになれば、相続の際の手続きも一括ですべてを終わらせることができるようになるはずです。

不動産についても、登記を電子化することでマイナンバーカードに紐づけされ、売買にあたってもオンライン上の取引で行えるようになれば、所有者不明土地の問題も急速に解決されるようになることでしょう。

これからの「デジタル相続」の可能性

考えてみれば、そもそも通貨というものは相互間の信頼に基づいて流通しているモノにすぎず、これはすでに現金といったモノの領域を超えて、口座という仮想空間で勝手に動き回るソフトとして認識されています。

そういった意味では仮想通貨に代表されるようなデジタル資産の領域はすでに社会においては確立されており、さらに種類が増えて拡張していく最中にあるともいえます。

であるならば、これらをすべて包含するデジタル上ですべての資産を取り込んでしまうことは、社会的にも非常に重要な意味を持つことになると考えます。デジタル相続ができるようになれば、相続に備えていろいろな準備も簡単にできるようになるでしょう。

まさにAIを駆使して、5年後、10年後の自身の財産がどのように変わっていくのか、ローンを組んでマンションを買うべきか否か、どんな分野に投資を行えばよいのか、様々なシミュレーションが簡単にできるようになるでしょう。

戸籍謄本や住民票なども連結させておけば、相続人がすぐに特定できる。相続の際も、いちいち金融機関から残高証明を取り寄せたり、口座を閉鎖するために窓口に赴いたり、役所に行って各課で手続きを行うなどといった面倒な工程をすべてオンライン上で済ませることができるようになるでしょう。相続税の計算もたちどころに行われ、納税もエンターキー1本で「はい、おしまい」にできるはずです。

国はデジタル庁を立ち上げていますが、いまだに国民にはその目指す方向性が良く伝わってはいないように感じます。これからの大量相続時代、こうしたデジタル化の作業をぜひデジタル庁などが音頭をとり推進していただきたいと思います。

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

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