でんぱ組.inc古川未鈴、結婚で「“辞めようかな”って頭をよぎった」職業・アイドルを人生に変化が訪れても続ける覚悟

古川未鈴 撮影/冨田望

2010年頃より活動を本格始動したでんぱ組.incは、ゲームやアニメなどオタク趣味を持つメンバーが中心となり、既存のアイドルファン以外にも人気を拡大していった。’14年に日本武道館ライブを達成すると’15年にはワールドツアーも敢行するなど、国内外を問わず人気を獲得している。そのでんぱ組.incのメンバーであり、グループの中心的存在である古川未鈴(ふるかわみりん)。普通の少女がアイドルになるまでの転機とは?【第3回/全5回】

アイドル・古川未鈴を語るうえで外せないのが、結婚と出産ではないだろうか。彼女は2019年9月18日にZepp DiverCity(TOKYO)で行われた、でんぱ組.incのライブで、結婚を発表した。SNSを始め、現役アイドルがライブで自らの結婚発表をするという事態は大きな話題となった。

「やはり結婚はファンの皆さんに一番に伝えるべきだと思った。それにはいつがいいだろうって思ったら、ライブだって判断しました。最初にアイドルになって脳裏に焼き付いている風景があるって話したじゃないですか。

自分にとって忘れられない光景は、武道館公演と、ファンにライブで”結婚します“って報告した時。ライブで報告をするのが、自分の言葉で話せるから、一番誠実に伝わると思った。でも発表した瞬間に、シーンってなって客席から“お金を返せ”なんて声が聞こえてきたらどうしようって怖かったんです。

でも実際には、“おめでとう”という声援とともに拍手が起きた。やっぱりその時の光景は忘れられないです。ファンの声で多かったのが“アイドルを辞めないでいてくれてありがとう”っていう言葉だった。

結婚を決めたときに、“アイドル辞めようかな”って頭をよぎったけれど、こんなに沢山の素敵なファンに囲まれているのだから、もっとファンを信用すればよかったって思いました。同時にでんぱ組.incでの活動が認められた気持ちになった。アイドルってめちゃめちゃ素敵な職業だなって思わせてくれた皆さんに感謝しました」

当時はまだアイドル活動をつづけながら、結婚するのは異例だった。芸能活動と結婚、そして育児という忙しさから、アイドルをやめたいと思ったことはなかったのだろうか。

「アイドルをやめたいと思ったことは一度もなかった。でも結婚と出産を経験したことで、“本当にアイドルを続けてもいいのだろうか”っていう悩む時間は増えましたね。それ以前は、眠いとか疲れたということはいっぱいあったけれど、つらくてやめたいって感じたことは一度もなかったんです。私、忙しければ忙しいほど嬉しくなるタイプみたいで(笑)。

朝から、次の日の朝まで働いたりしたので、メイク中に寝てしまって頭を押さえてもらったこともありました。それくらい仕事大好き人間でした。でも、子どもを産んでからはそうはいかないので、育児とアイドル活動との両立の難しさを感じています」

「人生の選択にとらわれないで活動を続けられるアイドル」になりたかった

未鈴さんがアイドルを続けながら結婚をしたのには強い意志があった。

「女性アイドルって、年齢なのか、結婚というタイミングなのか、いつか卒業する時期があるって考えていました。だからこそそういう人生の選択にとらわれないで活動を続けられるアイドルになれたらめっちゃ良いなって思ってたんです。職業としてのアイドルという身分をもっと高めたいというか……。

自分自身がアイドルを好きだったから、そういうふうな存在になりたかった。私にも結婚という人生に変化が訪れて、もちろん“アイドルを辞める”という選択肢もあった。本当はやめたくなかったのに、それを選ばなきゃいけない人もいたと思う。

私も“アイドルを続けたい”と言ってきたけれど、いざ自分が結婚したらどうやって続けていけばよいのかすごく悩んでしまった。辞めようかということを相談したこともありましたが、周りが“頑張ってやってみよう”ってすごく背中を押してくれました」

未鈴さんが結婚を発表後、ももいろクローバーZの百田夏菜子さん、Negiccoなど結婚しながらアイドル活動を続ける女性も増えてきた。そのような時代の流れについて、自身はどのように感じているのだろうか。

「私が結婚を発表したとき(’19年)は、アイドルも引退などしないで結婚しても活動ができる時代になると良いなって思っていました。“私がそういう流れにするぞ!”みたいな野心はなかったですが。アイドル戦国時代と呼ばれた時に活動してきた人たちが、結婚しながら活動をしているのを見ると、私は世の中の流れに一石を投じられたのかもしれないな、私がアイドルをやってきた意味があったなって感じます。

応援してくれるファンへの思い

ただ、結婚発表をしたとき私宛のリプライは”おめでとう“って書いてあるのに、直接その方のアカウントの投稿を見て見ると”悲しい“って書いてあるんです。だから応援してくれている人に対して、“今の時代、アイドルが結婚しても祝福をしてほしい”とは言いたくなくて。落ち込むということは、その方の人生に私というアイドルの存在が関わってきたからだし、そういうファンの方たちには“私のことを見てくれてありがとう”という気持ちで、今でも思っています」

古川未鈴 撮影/冨田望

結婚しながらでんぱ組.incの活動を続けていた未鈴さん。’21年に第一子を出産すると、育児休暇をとってグループ活動を休止していた。

「でんぱ組.incのメンバーは、年齢非公開なんですが、デビュー何年目かなって考えると、なんとなく年齢はわかってしまうと思うんですよ。たとえば、私が50歳や60歳になっても、でんぱ組.incを続けられるかな……って考えたら“それは無理かもしれない”って感じた。そうしたら、私ってなにもなくて。

手に職もないし、アイドル以外にやりたい仕事もない。“あれ、将来、私はなにをして生きていくんだろう?”って悩んだときに、アイドルの次に生きがいになるのは、もしかしたら“家族”かもしれないって考えました。もともと体調面での不安があり、妊娠ができる時期を逃してしまったら後悔をするかもしれない。だったら、そんな後悔はしたくないって産む決意をしました」

アイドルでありながら、出産というライフステージの変化を決意した未鈴さん。今でこそ、結婚や出産も受け入れられる風潮になってきたが、先駆者である彼女の決意は並々ならぬものだったと言葉の節々から感じられた。

(取材・文)池守りぜね

ふるかわ・みりん
香川県高松市出身。でんぱ組.incのメンバー。キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」。でんぱ組.incの活動以外にも、ゲーム関連の雑誌での執筆やゲームの動画配信なども行っている。2019年、漫画家の麻生周一と結婚を発表。2021年第一子となる男児を出産。

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