【コラム】新しい資本主義は労働生産性最優先、解雇も容易

 「日本企業競争力維持のため『ジョブ型人事』導入を進めていく」。9日、岸田文雄総理は新しい資本主義実現会議で言い放った。ジョブ型人事=成果主義とまではいわないが、成果主義の労働市場になることは確実で、解雇も終身雇用の時代から容易な時代になるだろう。

 終身雇用は日本企業の「強み」にもなっていたが、岸田政権は終身雇用を脱却し、日本経済団体連合会など経済界が求めている労働市場づくりに拍車をかける姿勢を、今回、より強く示した。

 ジョブ型雇用は年齢に関係なく、仕事の難易度や責任に応じ賃金(職務給)が決まるため、労働者にとって能力さえ伴えば所得は増える。一方で、担当職務が終了すると雇用契約の内容によっては「失業」のリスクがある。雇用者側にすれば解雇しやすく、かつ、雇用中は効率よく収益を上げることができる雇用構造となるといえよう。

 岸田総理は9日の会合で「来年以降、持続的に賃上げを実現するためにも、社内・社外ともに労働移動の円滑化が重要」などと語り「日本企業競争力維持のため『ジョブ型人事』の導入を進めていく」と述べ、ジョブ型人事で「多数の企業事例を集め、導入目的や雇用管理、導入プロセスについて具体的に明らかにしたジョブ型人事指針をこの夏に公表する」とした。

 岸田総理は「これまでの我が国の賃金は若い世代の賃金が低く、勤続15年目から19年目で急速に上昇する傾向があり、結婚や子育てに影響を与えている。若い人の終身雇用に対する考え方が急速に変化している」などと語った。

 新しい資本主義実現本部事務局が示した厚労省データを基にした資料では勤続年数1年未満を100とした係数で日本の場合、15年以降で急激に右肩上がりになる。終身雇用が定着している日本では年功序列で長年の勤務による会社への貢献度、この間の会社側の投資(社員教育制度)によるスキルアップなどの成果から勤続15年以降で給与が大きく上昇する。しかし、55歳~59歳をピークに、その後、賃金は低下。新卒採用から定年退職までの年功序列の給与体系、生涯賃金を踏まえた給与体系になっているといえよう。

 また非正規雇用が増え、新卒でも正社員・正職員になれないで低賃金非正規労働者にされてしまうケースが珍しくない。所定内労働での正規・非正規の平均給与ベースは時給換算で正規が2014円、非正規では1407円と607円も差がついている(厚労省・賃金構造基本統計調査をもとに新しい資本主義実現本部事務局が作成した資料から)。

 新卒者の多くは暮らしが安定する正社員・正職員を希望している。就職しても期待や予想と違うところも多くなっているのだろう、就職難易度70近い会社への就職者でも数か月であっさり退職する若者もいる。

 ただ、だからと言って岸田総理が言うような「若い人の終身雇用に対する考え方が急速に変化している」と言えるのか。2018年内閣府調査で13歳~29歳の層で「自分の才能を生かすため積極的に転職する方が良い」、「職場に不満があれば転職する方が良い」の合計は22.9%で「できるだけ転職せず同じ職場で働きたい」(23.6%)と思う若者と比率は似ている。「つらくても転職せず一生一つの職場で働き続けるべき」とあわせると28%は伝統的な日本の労働市場に沿う意識を持っている。転職したいと思う若者が正社員かどうかもみていくことが必要だ。

 加えて、ジョブ型では企業側が雇用契約の内容次第で解雇し易いうえに、スキルアップを自己投資で図らなければならない。終身雇用制度の下では会社が社員を半ば家族ような意識で育てるため、社員に投資(社員教育)していく。それによって社員自身が社の教育制度でスキルアップが図れている。ジョブ型では会社への愛着、愛社精神、帰属意識はほぼ生まれないだろう。岸田内閣が取組む「三位一体の労働市場改革」の実態が、単に、経団連の描く労働市場づくりに過ぎないリスクも見ていく必要があるだろう。(編集担当:森高龍二)

「日本企業競争力維持のため『ジョブ型人事』導入を進めていく」。9日、岸田文雄総理は新しい資本主義実現会議で言い放った

© 株式会社エコノミックニュース