亡き義母を15年介護も「おまえは他人」相続では蚊帳の外…“タダ働き”は納得いかない

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亡くなった義母を15年間介護しても何も報われないのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者の夫は4人兄弟ですが、相談者夫婦だけで義母を介護しました。夫の兄弟は誰一人としてお礼の一言もないどころか、葬儀で席に座っている相談者に「ここは身内の席、退きなさい」と“他人扱い”してきたそうです。

相談者は自身に相続の権利がないことは十分理解していますが、義兄弟のあんまりな扱いに、「私が介護した15年間を金銭で評価してもらいたい」と憤ってます。「親の介護」をした事実は相続手続き上で何らかの評価対象になるのでしょうか。長瀬佑志弁護士に聞きました。

●長年の介護などに報いる「特別の寄与」制度

──義母を介護したという相談者は、遺産に対して何の権利もないのでしょうか。

本件における相続人は、義父及び義母の子である夫及び夫の兄弟となるため、相談者は相続人ではありません。相談者が義母の相続人ではない以上、遺産に対して相続分を主張することはできません。

もっとも、相続人ではない被相続人の親族であっても、一定の要件を満たすことで相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求することができる制度があります(民法1050条)。「親族」とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です。ただし、相続人、相続放棄をした者、欠格事由により相続権を失った者は含まれません。

この制度は、本件のように、相談者のような相続人ではない親族が長年介護をしたために被相続人の財産が維持された場合に、介護が相続に一切考慮されないことは不公平であるとして設けられました。

特別寄与料が発生するための要件は、以下の(1)〜(3)です。

(1)被相続人の親族である
(2)被相続人に対して「無償で」療養看護その他の労務の提供をした
(3)(2)により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした

簡単に言うと、相続人以外の親族で、亡くなった方の財産維持や増加に特別の寄与をした者は、特別寄与料として金銭を請求することができるということです。

──今回のケースについてはどうでしょうか。

相談者は、1親等の姻族として(1)の要件に該当するため、(2)と(3)の要件にも該当すれば、特別寄与料の請求をすることが考えられます。

ただし、特別の寄与の請求は、2018年の相続法改正で創設された制度であるため、2019年7月1日(改正法施行日)より前に開始した相続については認められない点にご注意ください。

なお、相談者自身が特別の寄与を請求することができない場合であっても、相談者の夫は義母の相続人にあたるため、相談者の介護は、相談者の夫の寄与分の中で考慮するという方法も考えられます(東京高裁平成22年9月13日決定)。

●特別の寄与となるかは「介護の中身が重要」

──15年の介護はどう評価できますか。

先ほど述べたように、相談者が義母を15年介護したという事実は、相談者の特別の寄与、または相談者の夫の寄与分として考慮される可能性があります。

相談者の特別の寄与、または相談者の夫の寄与分が認められるためには、相談者の行った介護が特別の寄与であると認められる必要があります。

特別の寄与に該当するかどうかの参考となる裁判例としては、以下のケースが挙げられます。

相続人の寄与分として考慮された事例としては、先ほどの東京高裁平成22年9月13日決定が挙げられます。

同裁判例では、相続人の妻が、被相続人の入院中の看護や死亡直前半年間の介護の一部は家政婦などを雇って当たらせることを相当とする事情の下で行われ、その余の介護も13年余りの長期間にわたって継続して行ったことは、同居の親族の扶養義務の範囲を超えて相続財産の維持に貢献したと評価することができるとして、相続人の寄与分を認めています。

一方、特別の寄与が問題となった事案では、月に数回入院先等を訪れて診察や入退院等に立ち会ったり、手続に必要な書類を作成したり、身元引き受けをしたりといったという程度では、顕著な貢献をしたとまではいえず、特別の寄与は認められないと判断されています(静岡家裁令和3年7月26日審判)。

このように、特別の寄与が認められるためには、親族間にある扶養義務や協力扶助義務を超える寄与をしていることが求められます。15年間介護していたとしても必ずしも特別の寄与が認められるとは限らず、介護の中身が重要となることにご留意ください。

──親の介護をするにあたって、将来の相続などに備えて何をしておくと良いでしょうか。

介護する方に報いるために、遺言書を作成し、一定の財産を遺贈することが考えられます。

また、遺贈の他にも、生前に財産を贈与する方法や、被相続人の死亡保険金の受取人に介護を担当する方を指定するという方法も考えられます。

特別寄与料や寄与分を算定するためには、介護の労力の程度や支出した費用の立証も重要です。介護の程度等を立証するために、介護日記をつけたり、支出した費用の領収書を保管しておくことも意識しておくとよいでしょう。

【取材協力弁護士】
長瀬 佑志(ながせ・ゆうし)弁護士
弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。多数の企業の顧問に就任し、会社法関係、法人設立、労働問題、債権回収等、企業法務案件を担当するほか、交通事故、離婚問題等の個人法務を扱っている。著書『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践している ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)、『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)ほか
事務所名:弁護士法人長瀬総合法律事務所
事務所URL:https://nagasesogo.com

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