アングル:殺人や恐喝は時代遅れ、知能犯罪に転向する伊マフィア

Emilio Parodi

[ミラノ 6日 ロイター] - 最近のイタリアンマフィアが血で手を汚すことはめったにない。

恐喝は時代遅れになり、殺人も「ゴッドファーザー」たちにはおおむね評判が悪い。最新の公式データによると、イタリアでマフィアに殺害された犠牲者は、1991年には700人を超えていたのが、2022年には17人にとどまった。

ロイターの取材に応じたイタリアのベテラン検察官らは、殺人や恐喝の代わりにマフィアが積極的に手を染めているのが、リスクが低く目につきにくい知能犯罪だと語った。

脱税や金融詐欺へのシフトを加速させているのは、コロナ禍終息後にイタリア全土でばらまかれている何十億ユーロもの復興基金だ。景気回復の加速を意図したものだが、結果的に、詐欺犯が飛びつく絶好の獲物になっている。

4月、ジョルジャ・メローニ首相が率いる現政権は、住宅改良制度に関連した160億ユーロ(約2兆6700億円)の詐欺を摘発したと明らかにした。

さらに検察では、2000億ユーロ規模の欧州連合(EU)の経済復興計画を巡る大規模な不正疑惑を調べている。

検察官らは、全ての詐欺がイタリアの強力な組織犯罪集団によって仕組まれたわけではないが、その多くでマフィアの関与が疑われるとしている。

国家マフィア対策・テロ対策検察庁の職員であるバルバラ・サルジェンティ氏は、「巨額のカネが動いているのをマフィアが黙って見送ると考えるのは見当違いだろう」と語る。

イタリアで最も有名なマフィア組織はシチリア島のコーザ・ノストラとナポリ市発祥のカモッラだが、組織犯罪集団として最も規模が大きいのは、南部のカラブリア州を拠点とするンドランゲタだ。

ンドランゲタは欧州内のコカイン取引をがっちり掌握する一方で、この10年間は率先して金融犯罪へと手を広げてきた。

欧州検察庁(EPPO)は2月、EU全域にわたる金融犯罪の規模からして、その背後で組織犯罪集団が暗躍している疑いがあると警鐘を鳴らした。

2023年にEPPOが捜査した1927件の事件のほぼ3分の1はイタリアに集中している。EU全体の被害総額193億ユーロのうち、推定73億8000万ユーロがイタリアで発生している。

検察官と警察幹部7人へのインタビュー、そして数千ページに上る公判記録を重ね合わせると、イタリアのビジネス界にマフィアが深く食い込み、それが国家財政に負担を与えている実情が見えてくる。

検察官らは、こうした犯罪は、税金から逃れる新たな手法にすぐに飛びつく企業家との共謀に基づいている例が多いという。脱税はイタリアが抱える長年の悩みで、最近の財務省のデータでは、2021年には脱税により国庫から約830億ユーロが失われたという。

ミラノのマフィア対策検察チームを率いるアレッサンドラ・ドルチ氏は、「イタリアでは、請求書の偽造や脱税に対して、社会的な後ろめたさという意識がない」と語る。「経済犯罪に対する社会の見方は、違法な麻薬取引に対する見方とは非常に異なっている」

<計画倒産>

イタリアにおける金融犯罪にマフィア組織がどの程度関与しているのか、公式な試算データはないものの、ロイターの取材に応じた2人の検察官は、年間数十億ユーロ規模と推測している。

犯罪組織に対して科される刑罰は、大金が絡んでいることを考えれば、比較的軽い。コカイン密売を試みて逮捕された場合、わずか50グラムであっても最長で20年の禁錮刑を食らう可能性がある。だが、請求書の偽造により5億ユーロの免税枠を詐取しても、18月から6年以下の禁錮刑を科されるだけだ。

マフィア対策検察官のドルチ氏は「リスクとリターンを計算すれば、比較するまでもない」と言う。

金融犯罪ではハリウッド映画のネタにはなりにくいが、最近の複数の事件では、税金絡みの不正と組織犯罪のつながりが浮き彫りになっている。

北部エミリア・ロマーニャ州の警察は2月、ンドランゲタに近いと見られる108人を逮捕した。造船、工作機械の保守、清掃、レンタカーなど、ありもしない事業をでっち上げ、400万ユーロ相当の偽造請求書を作成した容疑だ。

州税務警察を率いるフィリポ・イバン・ビクシオ大佐によると、企業関係者はこうしたスキームを使って課税所得を減らし、税額控除を得ているという。

「散発的な現象ではなく、計画的なものだ」とビクシオ氏は言う。

ミラノのパスクアーレ・アデッソ判事は、マフィアの変貌を目の当たりにしてきた。

ミラノ市では2011年に、約120人の被告が一連の従来のマフィア犯罪の容疑で裁判にかけられたが、それ以来、アデッソ氏は1つの恐喝事件も担当していないという。かつて恐喝はマフィアビジネスの柱だった。

「今はもうンドランゲタは恐喝などには手を染めていない。活動の舞台は債務不履行や企業倒産だ」とアデッソ氏は言う。「(ンドランゲタは)企業家の求めに応じて、脱税請負の世界に参入してきている」

昨年結審に至ったある裁判で焦点となったのが、アデッソ氏が捜査を指揮し、マフィアが仕組んだ多くの詐欺の一部を摘発した事件だ。その中には、合法を装った協同組合を設立して企業向けに格安の外注サービスを提供し、わずか2年後にその組合を倒産させるという手口があった。

仕組みは単純だ。政府は新たに設立された企業にかなり寛容な減税支援を行う。成長する意志もない企業がこうした支援を利して非常に競争力のある価格を提示したうえで計画的に倒産を申し立てれば、債務や社会保険の負担義務を踏み倒すことができる。

イタリア北部の都市レッジョ・エミリアのガエターノ・パチ主任検察官は、「ンドランゲタは、輸送から清掃に至るまで、人材派遣セクター全般で活動している」と語る。「税金や社会保険分担金を支払わないから、格安価格でサービスを提供できる」

こうした詐欺は国家にとってどの程度の負担になっているのか。それを示唆するのが、昨年7月、国税庁が議会に示した数字だ。企業倒産により未納となった税金・年金分担金は、総額1560億ユーロに上るという。イタリアの法人税収は昨年517億5000万ユーロであることから、その約3倍にも相当する額だ。

アデッソ氏は、税金・年金負担金未納額のかなりの部分は、マフィアとの共謀による詐欺が疑われる、と話す。だが、複雑な金融捜査を行い、倒産が計画的であることを証明できる手腕を持つ捜査スタッフは不足している、というのが同氏の悩みの種だ。

「マフィアと戦いたければ、恐喝よりも債務不履行や企業倒産の法律に詳しくなるべきだ」とアデッソ氏は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

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