五月祭の特殊装飾 「五月祭の空間の提供」自然体で感じて

今年第97回を迎える五月祭。会場である本郷キャンパスの正門には一際目を引く看板が近年毎年のように設置され「非日常」の祭りの空間の入口を作り出している。それら看板を含めた「特殊装飾」はどのような思いで作られているのか。五月祭常任委員会で装飾を担当する髙木一冴(いっさ)さん(工・3年)に話を聞いた。(取材・峯﨑皓大)

「実現可能性」さまざまな障壁を乗り越えて

特殊装飾の制作を担う広報局装飾担当員の十数人が第97回五月祭特殊装飾の制作に向けて動き出したのは今年の1月からだ。1月中に特殊装飾のオブジェのコンセプトやモチーフを決める。五月祭には第96回なら「はなみどり」、今回の第97回なら「しずく融(と)け合う、水模様」など五月祭共通のテーマがあるが、「(オブジェの)コンセプトを決めるときには五月祭のテーマからあまりにもかけ離れたものをコンセプトにしないということを担当員全員で心掛けています。私個人として実現可能性というのを心掛けるようにしています」と髙木統括は語る。実現可能性の点ではコンセプトに沿い、クオリティーを高くしつつも予算などの制約も考慮している。2月の初旬、Aセメスター終了後から特殊装飾の具体的なデザインやその設計を同時進行で始めた。実際のオブジェや看板、ステージのバックボードの制作を始めたのは3月に入ってからだという。特殊装飾制作には各回3〜5人程度が参加する。春休み中は全ての人が参加しやすいように、曜日を固定せずに行っていた。春休み後は土日に行っている。1日6、7時間程度制作に取り組んでいるという。また、2年生はSセメスターは授業が比較的少ないので、予定の空いている2年生が多い曜日・時間に行う。また、特殊装飾制作を行う装飾担当は2、3年生を中心に経験者が豊富だという。

制作に関するスケジュール

五月祭の正門、そして会場内やステージ上を彩る特殊装飾──特殊装飾の設置を始めたのはいつからだろうか。「現在のようなオブジェを作り出したのは第90回五月祭からです。また正門の看板を作るようになったのは記録がしっかりと残っていないため正確には分かりませんが第83、84回五月祭からだと言われています」。どちらも五月祭の100年近い歴史に比べれば長い歴史があるわけではないが、オブジェや看板、ステージのバックボードといった特殊装飾は「非日常」である祭りの空間を作ってきた。髙木統括は特殊装飾のデザインや設計の際に心がけていることは「来場者の人に自然体で見てもらえる」ようなものを作ることだと言う。特殊装飾制作を担う広報局装飾担当を含む五月祭常任委員会の役割はあくまでも「五月祭という祭りの環境を来場者に提供すること」であって「こと特殊装飾に関しては、もちろん装飾のテーマはありますが『来場者に〇〇と感じてほしい』という気持ちはありのままに、自然体で装飾を見て何かを感じてほしい」と語る。

第95回五月祭にて本郷キャンパス内に展示されたオブジェ(テーマ・汽水域)(写真は五月祭常任委員会提供)
第96回五月祭で正門に展示された看板(写真は五月祭常任委員会提供)
第94回五月祭にて本郷キャンパス内に展示されたオブジェ(テーマ・灯る)(写真は五月祭常任委員会提供)

装飾の制作者、そして祭りの空間の提供者として

【ハードル】

今年の五月祭のテーマは「しずく融(と)け合う、水模様」。髙木統括は「特殊装飾のデザインにあたり、祭りを通して人同士が関わり『融け合う』様子、どう混ざり合っているかを表現することは常に課題でした」と語る。また制作過程での困難も多数あるという。たとえば看板の制作においてはパソコンで制作する印刷物と違い、手描きで下書きから色塗り、微調整まで行わなければいけないこと、ペンキで色を塗る場合はすべて色を混ぜて作っており、それ以外の素材を使う場合、テーマの色に似た色を探すこと──。とりわけ今回の特殊装飾の制作で苦労しているのは看板にドット絵でグラデーションを表現することだと言う。既製品だけでは装飾担当が思い描くデザインの通りに描くことができないため、地道に、そして緻密にグラデーションを構成する色を納得するまで作るそうだ。他には予算上の制約もある。今回のテーマ「水模様」を描くに当たり、水という「透明なもの」を表現するためにアクリルを大きく使う案も出たが予算上の制約で断念した。予算の制約によるデザインの修正が制作中に発生することもあるが、大きな修正はないという。髙木統括が「実現可能性」を心がけた進行をしている成果だろう。

【思い】

今年の五月祭では七つの特殊装飾の設置が予定されている。正門前の右手に看板、左手にオブジェ、そして構内にオブジェを三つとステージのバックボードが二つだ。それぞれの特殊装飾に思いがあるという。正門前の看板とオブジェは五月祭に来た来場者が最初に目にするものであり、またオープニングの催しの際には背景になるものであるためテーマを端的に表すものにしたいと語る。また、「正門は五月祭という『非日常』の祭りの空間と外の『日常』の空間の境界になる場所です。その境界に設置する装飾なので祭りの空間を作り出せるようなものにしたい」という。構内に設置する三つのオブジェは毎年多くの来場者が写真を撮るフォトスポットになっているため写真を撮りたくなるようなものに、そしてステージのバックボードは演者がステージ上でパフォーマンスをしているときは背景になるため邪魔にならない、見ていてうるさくないようなものにするための工夫を凝らしたという。

正門前に設置するオブジェのフッター制作の様子(撮影・峯﨑皓大)

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五月祭当日、祭りの空間を彩る特殊装飾を見て何を思うだろうか。多くの人が時間をかけ、知恵を出し合い、汗を流し作り上げた特殊装飾。髙木統括が語るようにあくまでも「自然体で」「ありのままに」特殊装飾を見てほしい。五月祭の2日間、多くの企画やステージが目まぐるしく開催される中で変わらず静かにそこにいて、そして五月祭の空間を提供する特殊装飾にきっと魅了されるから。

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