【ヴィクトリアM みどころ】絶対女王を目指す、オンナの闘いに刮目せよ

マイルチャンピオンシップ ナミュールが代打・藤岡康太騎手でGI初制覇 写真:産経新聞社

ウオッカ、ブエナビスタ、アパパネ、そしてアーモンドアイにソダシ......

ヴィクトリアマイルの歴代勝ち馬延べ18頭を見ると、近年の強い牝馬たちがズラリと並ぶ。クラシック戦線で輝きを放ち、世代の頂点に立った彼女たちは古馬になってもこのレースをステップに強い牡馬たちと頂点を争った。

そんなヴィクトリアマイルだが......今年は少々毛色が異なる。

出走馬は歴代でも最少となる15頭のみでGⅠ馬はわずか2頭とこちらも歴代最少タイ。歴代の勝ち馬たちと比べると圧倒的な強さを見せてきたわけではないだけに近年でも屈指の混戦模様となっている。

レース前は無名だった馬がプリンセスの座をかっさらうことがあるのもヴィクトリアマイル。

勢いのままにカワカミプリンセスにウオッカ、ミッキークイーンを粉砕した恋歌やエイジアンウインズにアドマイヤリード。

そして、道悪馬場に乗じて台頭したジュールポレールなど、いずれも波乱の決着で女王の座についてみせた。

そんな今年のヴィクトリアマイルの主役はナミュールだろう。

思えばデビュー直後の彼女はクラシック候補と騒がれた素質馬だった。阪神JFや桜花賞では1番人気に支持されるなど、その実力はファンも認めるほどだったが......ことクラシック戦では桜花賞10着、オークス3着、秋華賞2着と伸びきれず。

古馬になると東京新聞杯2着を機にマイル路線へとシフトしていったが、ヴィクトリアマイル7着、安田記念16着とGⅠになるとどこか勝負弱い面が露呈した。

このままGⅠとは縁のないまま、競走馬としてのキャリアを終えるのかと思われた4歳秋。

ナミュールは目を覚ます。復帰緒戦となった富士Sで久しぶりの勝利を挙げると、続くマイルCSではコンビを組む予定だったライアン・ムーアが落馬負傷で藤岡康太が代打騎乗することになったが、4角15番手から上がり3ハロン33秒0という素晴らしい末脚を見せて勝利。

その後、香港マイルにドバイターフと世界を転戦して3着→2着。勝ち切れなかったが、マイル女王としての貫禄を見せてくれた。

今回は久しぶりに藤岡康太とタッグを組むはずだったが......1ヶ月ほど前に藤岡康太は天へ召された。

新たなパートナー、武豊とともにヴィクトリアマイルを制し、はなむけの勝利を天に捧げることはできるだろうか。

今年の4歳牝馬たちは現役最強の絶対女王・リバティアイランドに挑み続け、破れてきた馬ばかり。そんな彼女たちが初めて絶対女王なしの舞台でGⅠに挑む。

千載一遇のチャンスを逃すまいと、マスクトディーヴァが輝く。

デビューが遅れ、2勝目を挙げたのはオークスが終わった昨年6月のこと。しかし、ひと夏を越えて迎えたローズSで目を見張るような末脚を見せて快勝。

打倒リバティアイランドを目指して臨んだ秋華賞ではさらに末脚を伸ばしてみせたが、マクるように進出したリバティアイランドを捕まえられずに2着。

年明け緒戦となった東京新聞杯でも出遅れてが響いて10着に惨敗するなど、強さともろさがどこか混在しているようにさえ映った。

そうして迎えたヴィクトリアマイルのプレップレースである阪神牝馬S。

新たにタッグを組んだ"マジックマン"ことジョアン・モレイラの手綱に導かれるように先行策を取ると、直線では勢いを増すように伸びてきて快勝。中距離で末脚を伸ばして勝ち切ってきた彼女がマイル戦で新境地を見せた。

今回も鞍上にはモレイラがいる。マイルで新しい才能を見出した彼女はこの勢いに乗ってマイル女王の座を掴むのだろうか。

競馬界屈指の良血ファミリーのひとつとして知られるのが薔薇一族。その血を引くスタニングローズはこの舞台での復活に懸けている。

3歳春にフラワーCを制して迎えたオークスは10番人気ながらスターズオンアースの2着に奮闘。紫苑Sを勝利してから臨んだ秋華賞では牝馬三冠を目指すスターズオンアースよりも一足早く仕掛けて突き抜け、GⅠタイトルをもぎ取ってみせた。

そんな女王候補だったスタニングローズだが、待っていたのは苦難の嵐。

エリザベス女王杯は道悪馬場に泣かされて14着に終わると、明け4歳は中山記念5着。ヴィクトリアマイル12着と見どころなしの大敗続き。その後休養入りして、5歳になって迎えた大阪杯では逃げて8着。秋華賞馬の金看板はもはや過去のものになってしまった。

しかし、一度使ったことで体調面の上向きは必至。昨年のこのレースの大敗は出遅れが響いたもので本来の力を発揮できずじまいだったことを考えると、万全の態勢で本来の力を出し切ることができるなら、強い5歳世代の意地を見せるという意味でもまだまだ見限れない。

日本屈指の良血ファミリーの血を引く馬だからこそ、大舞台がよく似合う。

マイル女王がそのままタイトルを積み重ねるか、新しい一面を見せた若き才能がその勢いのまま突き進むか、はたまたかつての女王が大舞台で蘇るか――

絶対的存在がいないからこそ、今年のヴィクトリアマイルは目が離せない一戦となりそうだ。

■文/福嶌弘

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