3Dプリンターで印刷した階段に驚きの声 「半永久的なものに」企業オファーにわずか1時間で完成

「印刷した階段」の実用化が実現となった【写真:MAT一級建築士事務所提供】

葬儀場も施工…建設業界の光明となるか「新技術と職人は共存できる」

最新鋭の3Dプリンターを建築に活用した「印刷した階段」がネット上で大きな話題を集めている。依頼を受け、腐敗した木製階段からのリニューアル。屋外設置で実用化された。今回の「3Dプリンター階段」の印刷に要した時間はたったの1時間。技術革新がどんどん進んでいる格好で、人手不足などの懸案を抱える建設業界の光明となり得る。設計・施工を担った企業の担当者は「建設用3Dプリンターの導入によって、人手不足の解消につながりますし、新技術と職人さんは共存ができると考えています」と、熱い思いを寄せている。

フェンスや草地の脇にある斜面に置かれた、10段の階段。これが、「印刷した階段」だ。群馬県にある企業の敷地内に設置された。

月日と共にどうしても腐ってしまう木の階段を「半永久的なものにしたい」という、チャレンジングな要望だった。施工を担当した「MAT一級建築士事務所」(群馬・東吾妻町)の田中朋亨社長は「木製階段は数年で朽ち果て、これまで何度も修繕工事を行ってきました。こちらは従業員さんが駐車場から職場敷地内へ向かう通路となっており、ここ最近も腐敗が激しく、いつ誰かが転倒事故を起こすかもしれないような状況でした」と説明する。同じ企業からは3度目のオファーで、完成まで1週間の工期短縮に成功した池、入り口の塀についても3Dプリンター製品を施工したという。

そのうえで、「この階段を半永久的なものに更新したいというご相談を受けたわけですが、毎日従業員さんが通行する場所で、立ち入りを止められるのが休日のみということから、3Dプリンター階段なら2日間の施工で完了でき、3日目から通常通りに通行できるというご提案をさせていただきました。このような施工条件から今回の階段設置が実現しました」。現場の実情に合わせた施工だったという経緯を教えてくれた。

固定はどのような手法をとったのか。約5メートルの階段を、3パーツに分けて印刷。印刷物1パーツの重さは600キロを超える重量だという。材料はモルタルで、「最下段と、中段パーツの最上段を地中に食い込ませる形状とし、地盤面は改良セメントを使用して固めました。それに加えて鉄杭を1.5メートル程度打ち込み、設置をしております」。

設置時間は、既存の腐敗した木製階段の撤去を含めて5時間で完了。追って手すりも取り付けた。工場での印刷はわずか1時間で終わった。外階段をコンクリートで造る場合は最低でも5日間の日数が必要だといい、時間の短縮化が特徴的だという。

ところで、耐用年数が気になるところだ。「一般的な無収縮モルタルと同程度と考えておりますが、経験上モルタルなどは15年から20年で改修しているので、そのくらいでしょうか。これについては新しい材料と工法ですから、経過を観察しないとなんともはっきりとは言えないと思います」とのことだ。

同社はXアカウントで、「人手不足問題や、熟練工不足の現状打破に大きく貢献してます」と施工完了の報告を行った。今後も定期的に、経過観察を報告する方針だという。

投稿は1.9万件以上のいいね、約4300件のリポストを集める大反響。「耐用年数さえ実績ができれば素晴らしい技術だと思います。いろいろと試していく価値ありですね!」「見た目も可愛く出来そうだし、短時間で取り付け出来るのはすごい!」「新しいもの、技術の試行錯誤で、より良いものが生まれることを期待しています」「被災地の復興や普通に崩れかけてる階段等に大変良いと思う」など、驚嘆と称賛が集まった。一方で、「コストが気になるなあ。。。高いんだろうね」「面白いですね~ 固定方法と、勾配の違いにどう対応していくかが、課題ですかね~」「大雨降ったら崩れて流されそう」といった第三者的な意見も寄せられた。

「まず、こんなにバズるとは思っていませんでした。とりあえず設置した手すりなしの階段の写真と適当な説明でしたので」と、田中社長は驚きの思いを明かす。

続けて、「『すごい』『画期的』というご意見の他に、これをどう固定したのかという、疑問を持たれた方からのコメントが多かったように思えます。ですので批判的というよりは、単純な疑問を持たれたのだという認識です。一部、“こんなのブロックでいいのでは? 既製品でいいのでは”というご意見もありましたが、現場の形状に合わせてワンオフ(オーダーメイド)で作成できることが3Dプリンターのメリットです。また、(層のように積み重なる)3Dプリンターの積層痕が汚いというご意見もたまにいただきますが、これは実際にみると、そうでもないような印象になると思います。この積層痕も美しいと思わせるようなデザインができればいいと考えております」と、受け止めについて話す。

若き力が躍動「平均年齢23.2歳で半数以上が経験1年程度の社員が担当しています」

同社は、基本的には設計から施工までを一貫して行う建築事務所。設計部、工事管理部、鉄骨部、土木左官部、これに加えて、建設用3Dプリンター部門である3DP部を持つ。最新技術を用いたベンチなどを制作。先日は3Dプリンター建築の「葬儀場」を施工した。家族葬ホールで、キッチン、風呂、トイレも完備しているという。

3Dプリンター技術の建築分野への活用は、工期短縮やコストカットなど住宅業界が抱える課題の解消につながるとの期待が寄せられている。一軒家を丸ごと出力する「3Dプリンター住宅」など、さまざまな応用が耳目を集めている。

最新技術の今後の進化はどうなるのか。田中社長はまずメリットを解説。「建設用3Dプリンターを使用するメリットは、基本弊社は工場印刷で行い現場へ運搬して設置するスタンスですが、まず人手不足解消になります。それに、機械が造るので、熟練工いらずになると思います。設置などの工事については、専門の担当者である私が監修していますので安全に作業させますが、今回のような階段を造る過程で3Dプリンターを活用することのメリットとしては大きなものがあります。事実、先日完成させた葬儀場建築と今回の階段については、平均年齢23.2歳で半数以上が経験1年程度の社員が担当しています。その他、材料のロスが少なく環境にいいという利点もあります」と強調する。

若い担い手の積極活用は、人材育成にもつながりそうだ。「若者が印刷をしていますが、正直簡単な作業ではありません。日本の気候は日々変動するので、繊細な3Dプリンターの材料をうまくコントロールして気候に合わせることが求められ、知識と経験が必要にもなります」。人工知能(AI)を駆使することも有効だといい、「この辺りの課題はAIなどでコントロールできるような技術に進化すれば、よりデジタルトランスフォーメーション(DX)化が加速すると思います」と指摘する。

未来的な最新技術は、これまで日本の建築界の土台を支えてきた職人たちを脅かす存在になってしまうのだろうか。田中社長は「それから、よく3Dプリンターを目にする職人さんが、『自分たちの仕事がなくなる』とおっしゃいますが、建設現場において完全自動化は不可能だと思います。ですので、新技術とは共存すべきだと考えています。ただ、時代が進化すると誰かを困らせることが起きてくるのも事実です。時代の変化に対応し、職を失うことのないようにアンテナを張ることも重要だと思います。この業界、この技術に限らず必要なことなのではないでしょうか」と話している。

3Dプリンターは日本の救世主となるのか。これからの展開を注視したい。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム

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