大岩ジャパンで自信を掴んでも変わらない謙虚な姿勢。パリ五輪を見据える関根大輝が踏み出した新たな一歩

パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップで優勝――カタールでの激闘から8日後、DF関根大輝は味の素スタジアムのピッチに立った。

慣れ親しんだ黄色のキッドに袖を通したのは、4月7日のJ1第7節・東京V戦(1-1)以来となる。5月4日の帰国直後に行なわれた6日の12節・鹿島戦(1-2)も無理をすれば出場できる状況だったが、疲労を考慮されてスタンドから観戦した。

そして、11日の13節・FC東京戦。満を持して先発で起用され、背番号32は次なる目標に向けて新たなスタートを切った。

結果は3-3の痛み分け。「本当に前半は良くなかったけど、(細谷)真大が(相手GKの波多野豪を)退場に追い込んで、後半は前半よりも明らかにギアが上がった」と関根が振り返った通り、前半終了間際に数的優位となった状況を活かして2点差を追いついた点はプラスだが、ファーストハーフだけで3失点した内容は悔いが残る。

個人のパフォーマンスについても「コンディションがあまり良くなかったとはいえ、試合に使ってもらっている以上は、そういう言い訳はできない」としつつ、自身のプレーを自戒の念を込めてこう振り返った。

「試合に集中して入ったつもりだったけど、相手はサイドハーフの連係面も含めてすごく良かった。注意はしていたけど、動画で見た以上に来ていたので対応が遅れてしまって...。シンプルに1対1のところで剥がされるシーンもあったので、そういうところで(前半は)後手に回ってしまった」

後半のプレーには手応えを感じた一方で、より高いレベルを目ざしてさらなる成長が必要だと言う。

「相手がひとり退場したので、自分が高い地点でボールを受けるようになった。そこからの精度は上げていかないといけないけど、アジアカップで自信がついたクロスはアイデアが増えたと感じているので、自分がクロスを上げるところまで持っていく形は、レイソルでももっと作り上げていかないといけないと思う」

U-23アジア杯では、日本代表の一員として優勝とパリ五輪の出場権獲得に貢献。187センチのサイズと技術を兼ね備える右SBとして評価を一気に高め、自身に集まる注目度は大会前とは全く異なる。そうした状況下でも、関根は謙虚な姿勢を崩さない。

「注目度は上がっていると思うので、それに見合ったプレーをしないといけない。だからと言って、変なプレッシャーを受けているわけでもなく、伸び伸びとプレーができているので、あとはゴールやアシストといった結果が必要。そうすれば、もっと注目度が上がっていく。(目に見える)結果がまだないので、そこを目ざしたいです」

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高いレベルを求めていく意思を示したように、周りからの見られ方が変わっても、サッカーに向き合う姿勢は同じ。そうしたスタンスは、柏で戦う際の心構えにも表われている。

「本戦はもっと過酷な戦いというか、パラグアイとか本当に良いチームで、ボールを持たれて耐えて一発を決める展開になる可能性もある。そういう意味では、今日も11対11で戦っている時間帯はかなり押されていたので、パリ五輪でも想定されるシチュエーションでした。自分とサイドハーフの関係もそうですけど、守備の連係面は今のうちからやっておけば、本戦でも問題なく守れると思う」

パリ五輪までに海外勢と対戦できる機会は数回ほど。浮き足立たずに自分と向き合えている点は頼もしい。

チームとしてパリ行きが確定したが、個人としては何も決まっておらず、メンバー争いはここから佳境を迎える。残された時間は1か月前後。「ここからが本当に厳しい戦い」と関根が話した通り、23人で戦ったU-23アジア杯から五輪は18人にメンバーが絞られる。

24歳以上の選手を起用できるオーバーエイジ枠、U-23アジア杯では招集できなかった海外組が戻って来れば、さらに枠が狭くなるだけに、圧倒的なパフォーマンスを見せなければ本大会行きは勝ち取れない。

だが、関根は過度にプレッシャーを感じていない。楽しみな気持ちを持ちつつ、謙虚な姿勢で最後の争いに挑もうとしているからだ。「ワクワク感がある。アジアカップは試合に出させてもらったけど、常に下から自分は這い上がってきた立場。代表の常連でもない」と言い切り、再び一から積み上げていく考えで生き残りレースに挑む。

「メンバー争いはまたフラットになったので、今日の試合もそうですけど、もっと良いパフォーマンスを出さないと、また選んでもらうことはない。今月は試合が多いのでチャンス。もっと良いパフォーマンスを出せるようにやっていきたい」とは関根の言葉。

拓殖大サッカー部を退部し、プロ入りを1年前倒して今季からプロサッカー選手になった男は、どんな状況でも変わらない。自信を深めたU-23アジア杯の成果は胸にしまい、まずは柏で圧倒的なパフォーマンスを見せることだけを考えて技を磨く。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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