「大きいでしょ!税金ですよ!」10年間で300万円以上…安芸漁協の委託金着服 “余金額”について市と専門家で見解分かれる

高知・安芸市の安芸漁業協同組合の前副組合長が、10年間に渡って漁協の金、300万円以上を着服していた問題を検証する。

親子2代20年に渡り不正続けてきたか

不正に利用されたのは、安芸市が安芸漁協に毎年、委託する「漁礁」の設置事業。「漁礁」とは、良い漁場を整備するため、木の枝を海に沈めて作る「魚の隠れ家」のことだ。

委託事業費は約100万円で、経費を差し引いた余りは数十万円にのぼる。これを前副組合長が毎年、事務員から手渡しで受け取り、着服していた。

事務員が作成したウラ帳簿によると、前副組合長が着服した総額は10年間で318万9534円にのぼる。さらに、取材を進める中で、漁協の利益を捻出する方法に不適切な実態が見えてきた。

安芸漁協が市に提出した2023年度の見積書を見ると、漁礁を作るための“浮き”にあたる「丸型フロート」48個を新しく買う前提で、31万6800円と見積もっている。
しかし、実際は中古品を使って経費を4万4000円に抑え、27万2800円を浮かせていた。

また、委託事業完了の報告書には「使用した」とする資材の写真を添付している。
しかし、一部の写真の資材は実際には全く使われておらず、より安い別の資材を使ったり、数を水増したりして委託金の“余り”を捻出。

漁協によると、このやり方はすでに亡くなった前・副組合長の父親が副組合長だったころから始まり、親子2代に渡って20年以上続いてきたという。

架空請求になるのか?市と専門家の見解

漁協が続けてきたこのやり方は「架空請求」にあたるのではないのか?安芸市の竹部文一副市長に単独インタビューすると、「架空請求にはあたらない」という答えが返ってきた。

安芸市・竹部文一副市長:
実際、使われていない物が写真に細工されたことは、市としては極めて不適切な行為であったと思っている。成果物(漁礁)については遜色ないものができているという確認はしている。架空請求にはあたらないと考えている

これに対し、行政学を専門とする神戸学院大学の中野雅至教授は、次のように指摘する。

神戸学院大学・中野雅至教授:
プロセスを見る必要がある。行政は監査があってその事業がきちんと行われているかどうか途中段階で見る。それをきちんとやっていかないと、「成果物が出てくればそれで良い」という話ではない

地方自治法にくわしい横浜国立大学の板垣勝彦教授は、市に与える損害について見解を示した。

横浜国立大学・板垣勝彦教授:
報告書に書いた資材は実際に購入せず、架空計上したうえで漁礁を作って市に納入した。これだけの経費がかかったという部分をごまかしているわけですよね。これは、財産的損害を市に与えていることになるのでは

委託金の余り…市に返還?金額は妥当?

安芸市と専門家の主張をもとに検証する。

ポイント1つ目。委託金の余りを市に返さなくて良いのか?
市は「委託契約書に基づき魚礁がちゃんと設置されている。余りは企業努力による漁協の利益であり、市に返す必要はない」としている。

一方、板垣教授は「市への報告書の内容が一部、不適切であり、市に損害を与えている恐れがある。住民監査請求により返還を求めることを検討すべき」と指摘する。

2つ目の検証ポイントは、委託金の余りの額が妥当かどうか。
2023年度の委託事業費は118万8000円で、経費を差し引いた余りは36万2566円だった。全事業費に占める割合は3割。この3割の余りについて、副市長と専門家で見解が分かれた。

安芸市・竹部文一 副市長:
毎年、どれぐらい余りが出ているかは市として報告も受けていない。通常の請負工事であれば2~3割分は利益であると聞いたこともある。特段高いという認識はしていない

一方、神戸学院大学の中野教授は、3割の余りについて「大きいでしょ、税金ですよ」と声を大きくした。

神戸学院大学・中野雅至 教授:
本来は競争入札にかけて最低価格を出してきたところを選ぶべき。それによって市民の税金を有効に使うシステムとして担保される。公共事業というなら、いろんな市の工事を見て、「安芸市のビジネス全体の利益率はこれぐらいで、漁礁設置事業は難しいので誰も請け負えないから、平均的なビジネスの利益率はこれだけだけど、プラスアルファを認めてきた」と説明しないと

横浜国立大学の板垣教授は、漁協が使用した資材を偽って市に報告した背景をこう指摘する。

横浜国立大学・板垣勝彦教授:
「118万円の事業だけど90万円でできた」ということになると、翌年度の予算として90万円まで委託費が減らされる。だから、「これだけ丸々使いました」ということにしないといけないということで、ウソの経費を積み上げていったのではないか。公金の支出として、あまりよろしくない状況が発生した側面はある

中野教授は不正が生まれた背景として、監督する行政側の限界を指摘する。

神戸学院大学・中野雅至教授:
役所も人手不足。いちいち見に行けない。世の中全体がモニタリングがしにくくなっている。人出不足で仕事の量は減っていない。委託事業の場合、どこでもそう、不正が起こりやすい

再発防止策について竹部副市長は、「委託事業そのものに関して市民にいろいろと不信なところが出てくると思う。誠に申し訳なかった。長年の慣習ということではなく、その都度、確認しあうことに努める」と述べた。

透明性ある委託事業を作り上げるために

今回の不正のポイントの1つ目は、漁協が経費を削減する「企業努力」が実は不正の温床になっていたということ。
2つ目は、その不正に伴い「市への虚偽報告が20年以上も続いていた」ということだ。

行政法にくわしい高知大学の赤間聡准教授は、取材に対して「今回の不正の構図は全国の漁協・農協に潜んでいる恐れがある」としたうえで、「改めて行政がチェックし、委託事業の契約書には不適切な支払いなどが発覚した場合の返還規定を記載するべき」と指摘している。

委託事業において、明確なルールがないことが今回の不正につながったといえる。透明性のある委託事業を率先して作り上げるため、今後、安芸漁協がどう改革を進めるのか。
そして、6月6日に開会する安芸市議会でどう議論されるかが注目される。

取材 : 玉井新平

(高知さんさんテレビ)

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