「幸せな時間でした」引退する元日本代表リベロ、花井萌里が語る久光スプリングスでの最後の1年【Vリーグ女子】

黒鷲旗全日本男女選抜大会の準決勝、デンソーエアリービーズ戦後に胴上げされる花井萌里(撮影・永田浩)

バレーボールVリーグ女子1部(V1)の久光スプリングスを支え、2023~24年シーズン限りで現役を引退する元日本代表リベロの花井萌里(27)を「西スポWEB OTTO!」が直撃した。移籍1年目の今季はリリーフサーバーや守備固めとして活躍した一方で、右アキレス腱(けん)断裂の重傷を負い、シーズン途中での離脱を強いられた。無念の思いを隠して最後までチームメートと戦った守備職人は、濃密な現役ラストイヤーを「幸せでした」と振り返った。
(聞き手・構成=西口憲一)

―2023年12月に行われた天皇杯・皇后杯全日本選手権の準決勝、日立Astemoリヴァーレ戦でプレー中に負傷し、以後コートに立つことができませんでした。戦列復帰を目指す過程で、ユニホームを脱ぐ決断に至った経緯を聞かせてください。

「手術してからいろいろ考えて…退院して、3月中旬からボールを使った練習を始めました。ボールを触っている中で今までの感覚となかなか一致しなくて、どんどん自分の中で求めるものが大きくなって…。完治した自分の姿も想像してみたのですが、できるかどうか不安もありました。新しい自分を受け入れられる覚悟を持てませんでした。決めたのは4月に入ってからです」

「新しい自分」にわくわくする日々

―ぎりぎりまで悩んだ。

「誰にも相談していなくて、チームの方にお話をする機会をいただいた時には、自分の中で強い意志がありました。どの道を選択しても、悔いは多少なりとも残ると思うんです。でも、けがからチームに戻れたのも周りの人のおかげですし、最後(黒鷲旗全日本男女選抜大会)も、みんなのそばで応援することができました。自分の中で気持ちの整理はついています」

昨年のV・サマーリーグ西部大会でリベロとしてプレーする久光の花井(撮影・永田浩)

―ヴィクトリーナ姫路から移籍した昨年の入団時に「一番尊敬しているチームでした」と久光でのプレーを楽しみにしていました。実際にユニホームを着て、改めて感じたことは。

「私のバレーボール人生で初めての経験が多かったです。細かい部分まで指導していただいたおかげで『新しい自分』にわくわくする日々で、もっとうまくなりたいというプラスの感情があふれ出てきました」

―サーブレシーブでも発見があったそうですね。

「体の右側で取るのか、左側なのか。得手不得手があるじゃないですか。私は右の方がやりやすかったんですが、じゃあ左側でとなったときに、どうやってステップを踏んでパスを返したらいいのか、その辺りが課題でした。でも、コーチと一緒にちょっとした細かい部分を突き詰めていく時間が楽しくて、幸せな時間でした」

【次ページに続く】忘れられない試合は?

―久光での忘れられない試合を教えてください。

「けがをした日立戦もそうですが、翌日のNEC(レッドロケッツ)戦もですね。私自身プレーができなかったので複雑な気持ちがあったのですが、あの試合のメンバー一人一人の『(けが人を含めた)みんなのために戦う』という気持ちがひしひしと伝わってきて…。優勝には届きませんでしたが、私にとって特別な2試合です」

久光に加入直後、昨年のV・サマーリーグ西部大会でプレーするリベロの花井萌里(14)(撮影・永田浩)

―仲間との出会いが何よりうれしかったと聞きました。

「キャプテンの大竹(里歩)選手、濵松(明日香)選手、吉武(美佳)選手、深澤(めぐみ)選手…大竹さんはいろいろ気に懸けてくださって、その時々の心情を話してくれました。吉武選手には、あの明るさ、そしてあの笑顔に救われました。深澤選手とは…彼女は本当に頑張り屋さんなんです。その姿を目にしながら、私もやらなきゃと言い聞かせていました」

「リベロなんですけど、実は…」

―チームに日本代表の西村弥菜美選手がいる中、酒井新悟監督はサーブ力も兼備した花井選手を「リリーフサーバーから後ろ3ローテーションでの守備固め」で起用しました。チームにとって貴重なオプションでした。

「私…ポジションはリベロなんですけど、実はサーブが得意なんです(笑)。これまでバレーをやってきて、一番力を入れて取り組んだのがサーブとレシーブでしたから。大学でもピンサー(ピンチサーバー)で出て、そのまま後ろ三つということが多くて、それで点を取れるのがサーブでしかなかったので(笑)、磨いてきたことが、最後に少しでもチームのためになれたとしたら、こんなにうれしいことはありません」

【次ページ】監督からの贈る言葉

若い選手たちの「いいお姉さん」
酒井新悟監督(今季限りで現役を引退する花井萌里について)「本当に強い覚悟を持って(ヴィクトリーナ)姫路さんから来てくれました。リベロのポジションに西村(弥菜美)がいる中で、(2023年)夏の練習から天皇杯でけがをするまで、レシーバーとしても貢献してくれました。彼女は、若い選手たちの『いいお姉さん』でもあるんです。バレー以外のところでも支えてくれました。心からお疲れさまと言いたいです」

【次ページ】花井萌里はこんな選手

ヴィクトリーナ姫路から移籍
花井萌里(はない・もえり)1997年4月17日生まれ。東京都足立区出身。同区の千寿小3年から「全千寿JVC」でバレーボールを始め、駿台学園中(東京)―共栄学園高(同)―日体大を経てヴィクトリーナ姫路に加入し、それまでのアタッカーからリベロに転向。姫路でプレーした2022~23年シーズンはレギュラーラウンド31試合(113セット)に出場し、サーブレシーブ成功率は59・3%。22年度の女子日本代表登録メンバーに初選出され、フィリピンで開催された国際大会「AVCカップ」優勝に貢献した。愛称は「モエ」。身長167センチ。背番号14。

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