「それ、オレの魚じゃない!?」 日中は魚の気配ゼロの流れから同行者が出した羨ましすぎる大イワナ

同行者が釣った見事なイワナ。当日、筆者が誕生日だったのですが……。正直うらやましい(撮影:杉村航)

5月に入り一気に暑くなりました。と思っていたら、急に寒い日が続いたり……。しかし、季節は着実に春から初夏へと向かっています。いよいよ渓流釣りシーズン本番ですね。GW中に軽井沢へフライフィッシングに出かけてきました。

■「釣りをしながら魚を育てる」トラウトパークのキャッチ&リリース区間

前夜から朝にかけて雨が降っていたのですが、釣りを開始する頃にはすっきりとした青空が広がりました

長野県東部を流れる千曲川の支流が湯川です。県内では比較的珍しい、緩やかな流れが特徴の里川で、アプローチも良く安心してのんびりと釣りを楽しむことができます。その湯川の途中2か所に「トラウトパーク御代田」と「トラウトパーク軽井沢」があります。“釣りをしながら魚を育てる”をテーマに設けられているキャッチ&リリース区間(3尾までは持ち帰り可)です。

急に早春に戻ったかのような寒い朝。早朝の気温は7℃でした。ようやく暑さに慣れだした身体には、寒さがずいぶんと沁みます。まずはトラウトパーク御代田で、底波にフライを漂わせますが、まったく魚信がありません。しかし、少し離れて釣りをしていた同行者のルアーには何度かチェイスがあったようで、良型のイワナをネットイン直前にバラしたようです。2時間ほど釣りをして、今度はトラウトパーク軽井沢へ移動しました。

■「どうせ日中は釣れないし」 川辺で水生昆虫に夢中になる

川岸の草陰で休むシマトビケラ。水生昆虫の営みは良い水辺環境の賜物です

日差しと共に徐々に気温も上がってきました。水温は12.2℃で思っていた以上に(程よく)高く、虫たち、とくにシマトビケラが盛んに飛び交っていました。生命感あふれる様子にフライフィッシャーとしてはワクワクしますが、ライズ(水面付近での魚の捕食行動の表れ)もなく、周囲の釣り人たちも一向に釣れる様子がありません。

しかし、これは想定内です。夕方頃にはきっとライズも始まり、魚たちの食い気が立つだろう。「どうせ日中は釣れないし」 そう思い、川岸で休憩することにしました。陽気に誘われ、盛んに活動する虫たちの観察にすっかり夢中になってしまい、釣りに来たことを忘れてしまいそうです。小さな水生昆虫たちだけでなく、ヤゴから脱皮したばかり(サナエ)トンボものんびりと羽を伸ばしていました。季節は初夏に向かっていますね。

■「それ、オレの魚じゃないの!?」 同行者が釣り上げた大イワナ

すっかり虫たちに夢中になっていると、めげずにルアーを投げ続けていた同行者が大騒ぎしています。そばに寄ると、なんと彼の足元には目を疑うほどの大きなイワナの姿が! 普段、魚のサイズを測ることは少ないのですが、これは測らずにはいられません。48cmありました。まさかこんなサイズの魚が泳いでいるとは……。その大きさもスゴいですが、精悍な顔つきと野生味溢れる魚体は、放流されてから厳しい環境を生き抜いた歴史を感じさせます。

素晴らしい釣果を讃えつつ、若干の嫉妬を感じます。なぜなら、釣行当日は筆者の誕生日でした。「それ、オレの魚じゃないの!?」

筆者も急にやる気になって釣りを再開しました。スイングさせたウェットフライが、下流方向でターンした瞬間にグン! ひったくるようなアタリとともにフッキングしました。感触的にサイズは小さいながらも鋭く強く走るのでヤマメかと思っていましたが、寄せてくるとイワナでした。先ほど同行者が釣り上げたイワナには遠く及びませんが、嬉しいバースデーフィッシュとなりました。

■「今宵はライズ祭りあるの?」 期待と不安のイブニング

一度川から離れ、昼食がてら軽井沢のカフェでハンバーガーを頬張ってランチタイム。その後は川辺でのんびりと昼寝です。5月らしい穏やかな気候で、寒くもなく、暑くもなく、すこぶる心地いいのですが、実は「今宵はライズ祭りあるのかな?」と気がかりでした。

期待と不安にドキドキしながら徐々に暮れゆく景色に見とれていたら、ポツポツとライズが始まりました。暗くなると共に徐々にライズの頻度も増えていき、さらに水面から大胆に魚体を露わにするヤマメも。昼間の様子からは信じられないようなお祭り騒ぎです。

薄暗い川面を割る魚たち。その光景を見ているだけで幸せな気持ちに包まれ、ロッドを振るのをやめて見入ってしまいます。暗すぎて実際に何を捕食しているのかわからないのが悩みの種。もちろん、日中の観察からある程度予想をしていましたが、少々ライズが始まるのが遅すぎたようです。夕闇の中に上がる水飛沫で合わせるのですが、フッキングしません。しかし、こうやって翻弄されるのも釣りの楽しみには違いありません。

いつしか辺りはすっかり暗くなり、川面は静まり返っていました。ライズ祭りの後半、流れから飛び出した大ヤマメの姿を脳裏に焼き付けて、近い再訪を心に誓いつつ家路につきました。

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