永瀬廉と板谷由夏、松田元太とMEGUMI 『東京タワー』ねじれていく2つの恋模様

恋に“番狂わせ”は付き物だ。あんなにも待ちわびていた詩史(板谷由夏)からの着信を初めて拒否した透(永瀬廉/King & Prince)。かと思いきや、透に言わせれば“年上に興味本位で手を出してる”耕二(松田元太)の方が、彼女の由利(なえなの)そっちのけで喜美子(MEGUMI)からの着信を取る。

『東京タワー』(テレビ朝日系)第4話は、この2つの恋模様が鮮やかに逆転し、ねじれていくさまが描かれる。

割り切った関係を望み「本気になることなんてないし捨てるのは俺から」と高を括っていた耕二だが、「たまにはお金ぐらい渡さなきゃ悪い気がするの」と喜美子から1万円札を差し出されたことに、予想以上のショックを受ける。互いに存分に楽しんでいる対等な関係だと思っていたのに、喜美子だけは完全にはのめり込み切れておらず、彼女から一方的に線引きされたような、予防線を張られたような気がしたのかもしれない。そもそも耕二が年上女性の魅力として挙げた部分は都合の良さではなく、“無邪気なところ”だった。

同じ頃、透は詩史から夫の英雄(甲本雅裕)も交えての食事に誘われていた。詩史の隣で聴いたからこそ世界が一気に色づき始めたかに思えたクラシックコンサートについても、英雄に把握されている。もちろん2人して手を繋ぎながら聴いたことは知られていないだろうが、確かにあのとき感じた“2人だけの時間”も”2人だけの秘密“もなかったことにされたかのようだ。いかにも“良い夫婦”然として、自分には遠い世界の“2人にだけにしか”わからない話をする浅野夫婦を前に、まるで自分が透明人間になってしまったかのように感じる。極め付けは、どうにか対等でいたいと願う透が差し出した1万円札を、「大丈夫よ、“私たち”が誘ったんだから」なんて言って受け取ってもらえない。いつだって蚊帳の外だ。

詩史はどうして英雄からの提案をそのまま受け入れ透を誘ったのか、なかなか理解に苦しむところがある。下手に透を遠ざける方が夫に怪しまれると思ったのだろうか。あまりに透に酷なことを課し続けているが、彼女も彼女で、自分自身に透にのめり込みすぎないようにと言い聞かせているのだろうか。建築賞の受賞祝いパーティーで「あなたといるときの私が、一番好きよ」と一瞬切羽詰まった表情を見せた詩史のことが思い出される。夫の機嫌を窺いながら苦手な家事を一生懸命やる専業主婦の喜美子を、「飛び方を忘れた鳥」で「家という狭い籠に入れられた哀れな鳥」とした耕二の感覚は一般にも共有されやすいものだと思われる。だが、好きなことを仕事にできて成功しており、理解ある(かに見える)夫の協力も得られて不足などないように見える詩史は、その“寂しさ”になかなか気づいてもらえない東京タワーの存在ともどこか重なる。

本作に出てくる女性陣は皆それぞれに積極的だ。いつだって自分のペースを乱されない余裕たっぷりの詩史に対して、透に好意を寄せる同級生・楓(永瀬莉子)はもっと直接的で強引に対峙していく。ずっと上の空で心ここにあらずの透に対して、体を動かして少しでも気分が晴れるようにと東京タワーの頂上を階段で目指す。実は高所恐怖症の楓は途中で自身の限界を迎えるが、この彼女の懸命の策はなかなかに秀逸だ。頭の中を詩史に支配されている透にそのままの状態でいくら自分の気持ちをぶつけたところで、まともに取り合ってもらえないだろう。透を励ましたい、気分転換してもらいたいというピュアな気持ちで自分も体を張って頂上を目指し、さらにそこで「この景色が誕生日プレゼント」なんてネタバラシをするその“無邪気さ”には、誰だって心動かされることだろう。

そんな彼女から放たれる「恋ってさ、もっと楽しいものだよ。そんなふうに苦しむためにするものじゃない」という一言にはかなりの説得力が滲み、その手に導かれたくなるのもわかる。ここまでの楓の自発性がないと、透の中に居ついて離れない詩史のことを束の間でも忘れさせるのは無理だろう。確かにここのところ透は詩史との帰り際には“捨てられた犬みたいな顔”ばかりしている。

そして、より積極性を見せ無邪気さを発揮するようになった喜美子も「ねぇお願い、会いたいの」と耕二に初めて強く自身の希望を口に出し、甘えてみせていた。

次週はいよいよ耕二の違和感を無視できなくなった由利が透に接近するようで、かなりの波乱が待ち受けていそうだ。

(文=佳香(かこ))

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