『6秒間の軌跡』が会話劇から導く生と死の“境界線” 宮本茉由はコメディエンヌの才能を開花

人は死んだらどこに行くのか。誰もが一度は考えたことがある、永遠の問いだ。多くの人は死んだら次の世界があると思っていて、その場所と今いる場所を、あの世/この世、冥界/現世、彼岸/此岸といった言葉で分けて語る。だけど、その境界線は果たしてどこにあるのだろう。

『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』(テレビ朝日系)第5話は、ついにふみか(宮本茉由)が星太郎(高橋一生)の父であり、幽霊である航(橋爪功)の存在を知る。

ある日の昼休憩、星太郎たちは競技会の話に。競技会とは花火屋が技術を競う大会のことで、“日本三大競技花火大会”と呼ばれる秋田県大仙市の「全国花火競技大会(大曲の花火)」、茨城県土浦市の「土浦全国花火競技大会」、三重県伊勢市の「伊勢神宮奉納全国花火大会」などがある。

全国に300社ほどある花火屋から大会に出られるのは、主催者に選ばれた20社ほど。望月煙火店の四代目である航は生前、声がかかっても断っていたが、ふみかの実家である野口煙火店は競技会で何度も賞を獲った名門で、父親は競技会に出ることが生きがいだという。その父、通称・ぐっちょは、かつて野口煙火店で修行をしていた。

そのため、父は競技会で望月煙火店と一緒に花火を上げたかったのではないか、と推測するふみか。自身もまた幼い頃から花火師になることを夢見ているが、まだ父親には認めてもらえていない。今は一人暮らしをしながら星太郎のもとで働いているが、生活は苦しいようで昼食はいつも質素。そんなふみかのことが気になったひかり(本田翼)は、望月家に住み込みで働いてもらうことを星太郎に提案し、航もそれに賛成する。だが、星太郎は色々と理由を挙げ連ねて住み込みを回避しようとするのだった。

ああでもない、こうでもないと理屈をこねる星太郎が、自分よりも一枚上手な航とひかりに言いくるめられそうになる。そんな本作の目玉である丁々発止の会話劇はいつもより少し長め。星太郎がひかりの長風呂に気を遣うと発言したのを発端に、長風呂の基準について激しい議論が勃発。20分は普通の風呂で、30分は長風呂と語る星太郎に、ひかりが「例えば、25分は?」と問い、その“境界線”を明らかにしようとする。

好テンポな会話のラリーが心地良く延々と見ていられそうだが、話している内容はかなりくだらない。だけど、その一見どうでもいいような議論の結果、「世の中、簡単には線を引けないものだらけ」という深い結論が導き出される。そのことに星太郎自身が納得したのかどうかはわからないが、ふみかが水漏れで今の家に住めなくなってしまったことで、結果的に住み込みを許可せざるを得なくなった。

そもそも星太郎がふみかの住み込みを断固として拒否していたのは、そうすることによって何か良くないことが起きるかもしれないという不安があるからなのだろう。細長い穴に落ちる夢や、家になつく野良猫などを、航からの何かの暗示と受け取った星太郎。航本人が未来なんて見えないと否定してもなお、まだ腑に落ちていない。その根底には、航がまだこちらの世界にいることが不自然だ、という考えがある。

本来ならば、死後の世界にいるはずが、こちらの世界にいて、星太郎とひかりには見えているが、ふみかや他の人には見えていない。星太郎はそんな航の存在をふみかにどう説明するのかも一つの懸念事項として挙げていたが、説明がつかないことも世の中にはたくさんある。それこそ、普通の風呂と長風呂の境界線が曖昧なように、この世とあの世の境目も曖昧でぼやっとしたものなのかもしれない。だとしたら、人生において避けることができない別れの苦しみも少しだけ緩和されるような気がする。

星太郎が望むなら姿を消そうとしていた航。だが、星太郎は航を自分の部屋に住まわせることを決める。航も口では「なんであんな男臭い部屋」と文句を言っているが嬉しそうだ。生きている人間と死んだ人間がゆるやかに共存する本作の世界観は不思議で、あたたかい。けれど、もちろん幽霊を怖がる人はいて、星太郎とひかりから航の存在を明かされたふみかは卒倒してしまう。白目を剥いてピクピクと痙攣する姿はなかなかのインパクト。次週はふみかが幽霊克服のために奮闘する。本作でコメディエンヌとして才能を開花させる宮本茉由からも目が離せない。

(文=苫とり子)

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