社説:他国軍との協力 議論なき拡大は許されない

 日本と欧州、東南アジア各国との安全保障面での「協力」が急速に広がっている。

 軍事力を強める中国を念頭に置いた取り組みである。ただ力による対抗に偏れば、地域の緊張を高める懸念が拭えない。

 昨年、自衛隊と英国やオーストラリアの各軍が、4回の共同訓練を日本国内で実施し、フランス空軍とも初の共同訓練を実施した。来年にはドイツ陸軍が日本を訪れ、陸自と訓練を計画している。

 インド太平洋地域への関与を強める欧州各国の戦略と連携を深めることで、中国に対する米主導のけん制を拡張する狙いといえよう。

 日米同盟の枠を超えた軍事協力の拡大は、憲法9条に基づく「専守防衛」の国是を逸脱し、国際紛争に巻き込まれる恐れを高めかねない。

 岸田文雄政権は、米英豪3カ国による安全保障枠組みAUKUS(オーカス)への関与にも前向きだ。岸田氏は先月の日米首脳会談で、軍事関連の先端技術分野で協力を検討することを表明した。

 超音速兵器や人工知能(AI)などで資金面も含めた協力が想定されている。

 オーカスは、対中国を念頭に、非核国の豪州に米原子力潜水艦を配備した上で、英豪両国により次世代原潜を製造することが柱になっている。

 ただでさえ一帯の軋轢(あつれき)を強めかねない枠組みである。日本の安保に本当に資するのか。軍拡競争を広げるリスクも含め、慎重な対応を求めたい。

 南シナ海では、中国と領有権をめぐる問題を抱えるフィリピンに対し、日本が警戒監視用レーダーなどの機材を無償提供し始めている。

 「同志国」を支援する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の一環とされ、ほかにマレーシアやバングラデシュ、フィジーも支援対象とする。

 政府は「新たな国際協力」と主張するが、実質的には軍事支援だろう。国内の防衛産業を支援する狙いも透ける。

 殺傷力のある武器の輸出解禁とも軌を一にした動きといえるだろう。

 沖縄県の米軍演習場で行われた米海兵隊の訓練に、オランダ軍海兵隊員が参加していたと地元紙が報じている。

 日本政府は把握していないという。本当に知らないのか。黙認しているのか。いずれにしても見過ごしにはできない。

 こうした流れの中心にあるのが、日米の軍事を「一体化」する動きではないか。日米首脳会談では、自衛隊と在日米軍の指揮・統制枠組みの「一層の強化」で合意した。

 本来なら国会で徹底的に議論すべき問題ばかりだ。自民党の裏金事件の不始末に視線が集まる陰で、政権のなし崩し的な軍事協力の拡大は容認できない。

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