ミラノ・デザインウイークのレクサス出展 ~クリエイターたちが捉えたLF-ZCと、ブランドとしての「振る舞い」~

LEXUSは、イタリア・ミラノで開催される世界最大のデザインイベント、「ミラノ・デザインウィーク2024」に出展、インスタレーション「Time」を公開した。家具メーカーやファッションブランドなど、世界中のクリエーションが集結するこのイベントは、トルトーナ地区の中心であるスーパースタジオ・ピュー内アートポイント、アートガーデンにおいて2024年4月21日まで開催された。(report=大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA)

越前和紙とソーラーと・・・ふた組の「Time」

レクサスは2024年4月16日から21日まで開催されたイタリアのミラノ・デザインウィークで、インスタレーション「Time」を公開した。

『Time』は、テクノロジーによる未来の無限の可能性に対するブランドの想いを表している。また、カーボンニュートラルとラグジュアリーが両立される世界に向けて革新を続ける、レクサスの「意志」が感じられる。photo: LEXUS

ミラノ・デザインウィークは家具見本市に連動して毎年催され、さまざまな国・地域の企業や団体が、市内の常設ショールームや仮設会場を舞台に自社ブランドやデザイン・アイデンティティを紹介する。代表的なオーガナイザー「フォーリサローネ」の2024年公式ガイドブックには前年比30%増の1125イベントが掲載され、イベントの盛況ぶりを示した。

レクサスは、前年と同じく市南部トルトーナ地区のイベント用スペース「スーペルストゥディオ・ピュー」を選択。参考までに同地区は19世紀末から1970年代まで工業地帯として賑わったが、近年は各種アーティストの活動拠点として活用され、市内随一のデザイン・ディストリクトとなっている。

「Time」は、2023年ジャパンモビリティショーで公開されたバッテリーEVコンセプト「レクサスLF-ZC」に着想を得たデザイナー2組による作品展のかたちがとられた。ひとつはロンドンを拠点とするデザイナー吉本英樹氏(Tangent)による屋内展示『BEYOND THE HORIZON』、もうひとつは野外に展開されたマーヤン・ファン・オーベル氏による『8分20秒』である。

『BEYOND THE HORIZON』は、ハード&ソフトウェアの相乗効果で無限に進化し続ける次世代モビリティの世界を表現。「LF-ZC」実車の背後には、越前和紙による高さ4m、幅30mの巨大なスクリーンが設けられ、夜明けから日没まで水平線の情景を映し出した。

LF-ZCの背後にある越前和紙スクリーンは、変わりゆく水平線の情景が投影された。和紙の中には「LF-ZC」にも採用された竹が漉き込まれている。photo: Akio Lorenzo OYA

スクリーンと並行して10体並べられた高さ約2mのインタラクティブ・スカルプチャーは、すべて同じ外観でありながら個性の異なる光の表情を放つ。

インタラクティヴ・スカルプチャーとデザイナーの吉本英樹氏(Tangent)。photo: LEXUS

音楽は、2012年に初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を作曲するなど、多方面で活躍する渋谷慶一郎氏が担当。スピーカー31基の間を膨大なサウンドデータからリアルタイムに生成された音像が動き回り無限の変化を繰り返すため、同じ音の瞬間は二度と訪れない。

いっぽう、太陽光&技術を日常生活への融合をライフワークとするオランダ出身のソーラーデザイナー、ファン・オーベル氏の『8分20秒』は「LF-ZC」のシルエットを原寸大で屋外に表現。そのネーミングは、太陽から光が地球に到達するまでの時間にちなんだものだ。

有機薄膜太陽電池(OPV)シートから取り入れたエネルギーを内蔵バッテリーに蓄積。来場者の動きに反応する人感センサーを搭載している。同じく彼女の作品である「Sunne」16個を円形に配置した“太陽”は、竹繊維製のセンサーに来場者が触れることで変色する。竹の揺らめきの自然音がそこに加わる。

マーヤン・ファン・オーベル氏による『8分20秒』。 photo: LEXUS
マーヤン・ファン・オーベル氏。2022年にはダッチ・デザインウイークのアンバサダーにも任命された。photo:LEXUS

レクサス的アプローチから見るミラノ・デザインウィーク

レクサスのミラノ出展は今回で15回に達した。レクサスは、デザインウィークというイベントにどのような変化をもたらしたと考えているのだろうか? 質問に対してレクサスの担当者は、書面で以下の回答を寄せた。

『8分20秒』。photo: LEXUS

「私どもの出展が何か変化をもたらしたかは分かりません。しかしレクサスは、初めてミラノ・デザインウィークに参加をした自動車ブランドといわれております。初出展は2005年に遡りますが、以来一貫してデザインを通じ、ブランドの考えをお伝えしたいと取り組んでまいりました。今では家具以外のブランドも多く出展するようになりましたが、その点においては、ブランド表現の場としてフォーリサローネに光を当てて、同じくデザインの力を信じるブランドの皆さんと共にイベントの価値をお示ししたということはあるかもしれません」

今回のインスタレーションには、前述のように日本の伝統素材や高度な技術が盛り込まれていた。ただし日本人以外の来訪者に、レクサスが「日本を発祥とするブランド」であったり「自動車」であることを確実に意識させることが希薄であったとも筆者はとれた。そうした感想に対しては、次のように答えてくれた。

「今回のインスターションでは、主にレクサスが考える次世代モビリティの未来であるソフトウェアによる無限の可能性と、ソフトウェアがもたらす体験価値の変化というブランドの思想を表現しました。また、伝統的な職人技術と最先端のテクノロジーの融合も、ブランドの姿勢を表すものとして、インスタレーションに織り込んでいますが、お客様には感覚的に空間全体からその想いの一端を感じ取って頂ければと考えておりました」

イタリアを含め欧州におけるレクサスの知名度は、米国と比較すると、いまだ浸透途上である。デザインウィークで欧州系ブランドは市販車を展示したり、女性など未開拓の顧客層を意識した企画を展開する例が少なくない。レクサスは、即座に販売に直結するユーザーを意図したものなのか? それとも今はレクサスが購入できない未来のユーザーに訴求するものなのか知りたい。

それに対しては「先に述べました通り、私共にとってミラノデザインウィークは、皆さまにブランドを体感頂く場であると考えております。現在・未来含め、一人でも多くのお客様にレクサスに関心をお持ち頂き、心の片隅にレクサスを気に留めて頂ければ、これ以上の喜びはございません」との答えが寄せられた。

これらの回答から感じられるのは、レクサスが欧州という市場の特性を心得ているということだ。旺盛な購買欲と進取の気性に溢れた北米と異なり、この地ではブランドの浸透には時間をかけたものが成功する。好例がアウディだ。今日でこそイタリアの2023年ブランド別新車登録台数で9位にランクインし、ドイツ系ではVWに次ぐ。

Cセグメントに絞っていえば、A3が他のあらゆるブランドを抑えて首位に君臨している。だが輸入開始は1966年にさかのぼり、控えめながらも地味なクルマだった時代からひたすら良質なイメージを構築してきた現地法人の努力が背景にある。今回のテーマは奇しくもTimeだが、レクサスの地道な取り組みは、欧州の時間感覚に近いともいえる。

もうひとつ特筆すべきは『BEYOND THE HORIZON』を手掛けた吉本英樹氏(Tangent)は、11年前の2013年にレクサスが主催した第1回デザインアワードのグランプリ受賞者だということである。かつてブランドが見出した人材が新たな創造を実現したかたちだ。欧州では文化を育てる企業が評価される。そうした意味でもレクサスのデザインウィークにおける“振る舞い”は、今後の展開次第で良い結果を示せるだろう。

吉本英樹氏(Tangent)による2013年第1回レクサス・デザインアワードのグランプリ受賞作・照明『INAHO』。管の穴からは稲穂を想像させる光が投影される。また基部のセンサーにより、人が通ると茎が揺れる。photo: Akio Lorenzo OYA
『BEYOND THE HORIZON』とレクサスLF-ZC。photo : Akio Lorenzo OYA

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