「大相撲五月場所」開幕! 無礼者?それとも型破り? 漫画に登場する“破天荒すぎる横綱”たち

少年チャンピオン・コミックス『グラップラー刃牙』第22巻(秋田書店)

大相撲五月場所が、本日5月12日に初日を迎える。三月場所は新入幕で優勝を果たした尊富士が話題になったが、今回はどんな力士が台頭するのか、相撲ファンは目が離せない。

さて、そんな大相撲の頂点といえば横綱だが、その立場は実力だけでは務まらない。日本の伝統文化である相撲にふさわしい品格ある言動が求められ、ときに「横綱らしい品格とは何か」と、議論が巻き起こることもしばしばだ。

そんな現実への反動か、相撲漫画ではしばしば横綱らしくない横綱が現れる。乱暴者だったり、ほかの力士を馬鹿にしたり、あるいは大相撲そのものに背くことも! 今回は、漫画だからこその破天荒すぎる横綱キャラを見ていこう。

■協会に内緒で地下トーナメントに参戦『グラップラー刃牙』金竜山

まずは、地上最強をめざす熱い男たちを描く格闘漫画『グラップラー刃牙』(板垣恵介氏)に登場した横綱、金竜山だ。

金竜山は東京ドームの地下闘技場で催された大規模トーナメント「最大トーナメント」に唯一の力士として出場するのだが、参戦は相撲協会には秘密にしていた。国技の頂点たる横綱が非公式の格闘大会に無断で参加するとは、フィクションでしか許されない行動だろう。

だが、金竜山が最強トーナメントに参加した理由は、相撲への強い思いからだ。地下闘技場のオーナー、徳川光成との会談では「相撲は踊りじゃないッスから 格闘技ッスから」と力強く語り、自分の参戦を力強く訴えている。

相撲は立派な格闘技であり、その横綱たる自分は誰よりも強い……。誰よりも相撲を信じているからこそ、彼はトーナメントに参加したのだ。

金竜山は自身の言葉を証明するかのようにトーナメントで活躍。1回戦目の本部以蔵との試合は読者の期待を良い意味で裏切り、大番狂わせで勝利。2回戦でプロレスラーの猪狩完至にわずかな差で敗北するも、横綱の強さを存分に見せつけてくれた。

■すべての奇行は“愛”ゆえに!『火ノ丸相撲』刃皇

『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された熱血相撲漫画『火ノ丸相撲』(川田氏)に登場する外国人横綱、刃皇は型破りなキャラクターで読者を大いに驚かせた。

歴代最強の大横綱とも称えられる刃皇は、第167話で44回目の幕内最高優勝の偉業を達成する。だが、直後の優勝インタビューで号泣しながら、こんな発言をしてしまう。

「次の場所で優勝したら引退します」「お前らは俺がいなくなった土俵で歴代二位争いでもしてればいいよ! バーカ!!」と。

優勝回数記録を上回る前代未聞の“引退宣言”に日本中は騒然。周囲から「即座に引退すべき」との非難すら浴びるも、唯我独尊の態度で次場所に出場し、主人公の潮火ノ丸ら幕内力士が超えるべき壁として立ちはだかる。

これだけでなく、日常生活でも横綱らしからぬ奇行が目立つのが刃皇というキャラだ。しかし、彼はただ横暴なのではない。先の引退宣言も「外国人である自分が勝ち続けても誰も本心から評価しない」「このままでは自分は相撲を嫌いになってしまう」といった失望からきているもので、相撲への限りない“愛”ゆえの行動である。

行動はめちゃくちゃでも、相撲には誰よりも一途。そんな刃皇のアンバランスなキャラクターはとても魅力的で『火ノ丸相撲』屈指の人気キャラなのは間違いない。

■どんな非難も実力で黙らせる!『ああ播磨灘』播磨灘

90年代の『モーニング』(講談社)を盛り上げた痛快相撲漫画『ああ播磨灘』(さだやす圭氏)の主人公「播磨灘」こと播磨灘勲は、伝統にそぐわない横綱の典型といえる。

第1話で横綱昇進を果たした播磨灘は、不気味な兜を着けて入場する奇抜なパフォーマンスをおこない「万が一 わしが負けたなら わしゃその日 限りで引退する!」と高らかに宣言する。

その後の取組では負かした相手の頭をまたぐ、砂をかける、暴言を投げかけるとやりたい放題。瞬く間に日本中の注目と非難の的となった播磨灘は、彼を狙う力士との死闘に挑んでいく。

ここまで書くと悪役が大暴れしているだけに見えるが、実際に本作を読んでみると、むしろ播磨灘を応援したくなるから不思議だ。

播磨灘は「強いからこそ横綱」という信念を持っており、それにふさわしい取組であらゆる批判をねじ伏せる。さらに、死力を尽くした力士を認める意外な一面もある。

伝統や思いこみを徹底的に破壊し、自分だけの横綱道を突き進む播磨灘の姿は、まさに“痛快”のひと言に尽きるだろう。

今回紹介したキャラクターの共通点は、相撲への気持ちに嘘はないところだ。

誰よりも相撲に真摯だからこそ、どんなに行動がぶっとんでいても力士としてブレたりしない。その一本筋が通った生き様は、横綱にふさわしいといえるかもしれない。

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