【特集】シナリオライターが遊ぶ『Fallout』…人は過ちを繰り返す。核の炎に焼かれた大地を巡るポスト・アポカリプスRPG

【特集】シナリオライターが遊ぶ『Fallout』…人は過ちを繰り返す。核の炎に焼かれた大地を巡るポスト・アポカリプスRPG

ゲームを含めた様々なコンテンツで“ストーリー”を深く楽しむユーザーが増え、メーカーやパブリッシャーもそれに応じるべく全力でゲームを開発している現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、真に優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。

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第2回は『Fallout』を取り上げます。

“放射性降下物”を意味する「フォールアウト」という不穏な名前のこのRPGは、1997年にInterplayによって開発されました。中国との全面核戦争により不毛の地となったアメリカを舞台に、核シェルターVaultから飛び出した若者が、変貌した世界を渡り歩く内容になっています。

1991年生まれである筆者は、ちょうど高校生の時分にPlayStation 3で発売された『Fallout 3』を遊び、その自由度の高さや、練り込まれた世界観に衝撃を受けた覚えがあります。それから取り憑かれたようにシリーズ作を遊び倒し、Amazon Primeビデオで配信されたドラマ版も即日全話チェックしましたが、今回改めて一作目を遊んでみると多くの発見がありました。

※本記事で使っているスクリーンショットは、Steam版『Fallout』に有志日本語化MODを導入したもの

大元は1988年に同じくInterplayが生み出したゲーム『Wasteland』に端を発するもので『Fallout』はその精神的続編という位置付けになります(『Fallout 3』以降はベセスダ・ソフトワークスが開発しているので、ちょっとややこしいのですが)。

『Wasteland』も、名前の通り、死せる大地を舞台にレンジャーたちがかつてのアメリカにあった秩序を取り戻すという設定であり『Fallout』と同じポスト・アポカリプスの世界観になります。

RPGといえば、中世ヨーロッパをイメージした世界で剣と魔法でもって戦うというのが常識だった時代に、「マッドマックス2」や「少年と犬」といった作品を下地にして、法も道徳も忘れ去られ、ピストルとドラッグだけを頼りに今日を生き抜いていくというハードな設定を持ち込んできたのですから、その衝撃はとんでもないものがあったでしょう。

第1回で解説したように『ドラクエ』のカウンターとして『FF』が生み出されたという点に照らし合わせると、『Wasteland』や『Fallout』は『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』の轍を踏みしめながらもその先を切り拓いていったという印象が感じられますね。

ストーリーは、Vault 13という核シェルターにある浄水装置「ウォーターチップ」が破損したことから始まります。当該のチップが無ければ、Vault 13はたった150日で水が枯渇してしまいます。主人公は監督官に頼まれ、隣のVaultにウォーターチップを探しに向かいます……。

外に出た主人公を待ち構えていたのは、荒れ果てた大地に適応したモンスター化した野獣たちや、独自の社会を築きつつあるワンダラーたちでした。世界が終わってから始まった新しい世界は、温室育ちのシェルター民には嬉しくない驚きでいっぱいなわけです。

とはいえ、本作は主要なクエストを口先のスキルだけでクリアできるように設計していることもあり、意外と話が通じる相手ばかりです。これは、社会がリセットされてからも、戦前と同じような醜い派閥争いや、近視眼的な物言いで起きる殺し合いを描くための布石であり、だからこそシリーズを通してのエピグラフである“War Never Changes”が効いてくるのでしょうが。

こうしてみるとドラマ版「フォールアウト」のほうがよっぽど物騒ですね!

シナリオのタームポイントは、当初の目的であるウォーターチップを手に入れてからになります。主人公はこの時点で、地域一帯でキャラバンが失踪していることを聞き付けています。まあ、こんなご時世ですからキャラバンの一台や二台くらい消えてもおかしくはないですが、何となく不穏な空気を感じます。

そこで監督官から第二のミッションとして、スーパーミュータントの増加についての調査を依頼されます。

その過程で、戦後に米軍の理念を復活させようとしている(行き過ぎた)正義の組織B.O.Sと協力したり、カテドラルという謎の宗教団体と接触したりしながら、徐々にスーパーミュータントを使った陰謀を巡らしている存在「ザ・マスター」に近付いていきます。

このあたりの綺麗に伏線が回収されていく流れは、正直言って「1997年発売なんて関係なく、ストーリーベースのゲームのなかでも相当出来が良いのでは?」と思うほど美しいです。ロケーションを訪れる順番はある程度自由な割に、一体のボスへ向かうまでに情報が揃っていく点については、多くのオープンワールドゲームが真似できるポイントではないだろうか、とすら感じました。

今週のキーワード:ポスト・アポカリプス

最後に「今週覚えておきたいキーワード」を挙げましょう。“ポスト・アポカリプス”は「終末もの」とも呼ばれるSFのサブジャンルです。災害や疫病や核戦争や隕石の衝突などの天変地異によって世界が終わり、生き残った人類が戦前の技術をサルベージしながら暮らしている姿を描いたフィクションを指します。“post(~後の)”と“apocalypse(黙示録)”を合わせた語ですね。

災害や戦争といった混沌そのものを描くよりも、その後の時代が重点的に描かれる場合がほとんどです。特に冷戦が勃発し、全面核戦争の危機に晒されたアメリカで、SF作家たちがこのテーマを好んで使いました。ネビル・シュート「渚にて」(1957年)などがかなり早い時期から取り入れています(19世紀以前にも書かれていたテーマではありますが、冷戦以降は特にリアリティが増したというわけです)。

日本では「北斗の拳」「風の谷のナウシカ」などが生まれており「新世紀エヴァンゲリオン」でセカイ系というジャンルにスライドしていきますが、この話はまた当連載でいずれ取り上げるでしょう。

視覚的なイメージの源泉としては、チョルノービリ原発事故後に無人となった街プリピャチがかなり影響を与えていると考えていいでしょう。苔生した建物や、時が止まった観覧車などの無常観が漂う風景が、多くの作家にインスピレーションを与えていると思われます。

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