「受け手にボールだけでなく解決策も与える」CL決勝進出の立役者で“パスの名手”トニ・クロースを複数メディアが称賛!「唯一無二の才能だ」「後継者探しが難しい」

レアル・マドリーのMFトニ・クロースが、例年にも増してまばゆい輝きを放っている。そもそも今シーズンはルカ・モドリッチと同じく控えの立場からのスタートだった。しかし、その長年の相棒がスーパーサブとしての役割にとどまる中、自身はすぐさまポジションを奪還し、これまでと同じく司令塔として中盤に君臨し続けている。

そのクロースが真骨頂を発揮したのが、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝の第1レグだ。

「立ち上がりからホームのバイエルンの勢いに押される中、嵐と静寂の間で完璧にバランスを保ち、常に局面に応じたテンポを作り出す。クロースがタック、タック、タックと惰性で出す多彩なパスは、日常的でロボット的な香りを放ちながら、マドリーの態勢を立て直していった。彼がいるだけですべてが整理され、彼がボールを回すテンポで局面が動く」

スペインメディア『Relevo』に戦術記事を寄稿するアルベルト・ブラジャ氏がそう分析するように、クロースのゲームメークでマドリーが持ちこたえ、その流れの中で生まれたのが、24分のヴィニシウス・ジュニオールの先制点を演出したアシストだった。その相手の懐をえぐるようなスルーパスを見て、「他の選手とは違う目でサッカーを見ている証」と表現したのは、様々なメディアでアナリストとして活躍する元選手のアレックス・デルマス氏だ。
今夏でマドリーに加入して丸10年が経過するクロースは現在34歳。その活躍ぶりを、サッカーを専門としたビッグデータの分析を行なう『Driblab』のアレハンドロ・アロージョ氏は、「CLにおけるレジェンドであり、キャリアを通じて欧州で10本の指に入るほどの影響力をサッカー界に与えてきた選手。唯一無二の才能だ」と評価する。

その唯一無二の才能を、前述のブラジャ氏が「相手がプレスをかけようとしても、クロースが目の前で起こっていることをすべて見切り、無効化する。彼のサッカーに対する解釈と知識の高さは、ボールに触れなくても分かる」と具体的に説明すれば、『ラジオ・マルカ』や『DAZN』で番組のMCを務めるミゲル・キンターナ氏は、「クロースがチームにいれば、サッカーをするのはどんなに楽だろう。劣勢を強いられている場面でも彼にボールを預ければいい。タメが必要なときも、彼が与えてくれる。そして欲しいところに、欲しいタイミングでパスをくれる」と称賛。そのパスの魅力について、解説者のアルベルト・エジョゴ=オウォノ氏は、「クロースのパスの最も素晴らしい点は、受け手にボールだけでなく、解決策も与えるところだ」と評する。 ただ特別な才能の持ち主だからこそ、いまマドリーは後継者探しという難題を突きつけられている。現行の契約は今シーズン限りで満了となっている。ブラジャ氏も、「マドリーは近年偉大な選手を何人か失ったが、クロースほど後継者探しが難しい選手はいないだろう」と指摘する。

クロースが必要以上にキャリアを長引かせる考えの持ち主でないのは周知の事実で、ユニホーム姿が見納めとなる日は刻一刻と近づいている。
「クロースは素晴らしい選手であると同時に、そのプレーは見栄えが良く美しい。チームを統率し、試合のテンポをコントロールする能力とパスワークで見る者を魅了する。このようなプレーを見せる選手が、今シーズンで見納めになるとは考えたくない」

フリージャーナリストのアドリアン・ブランコ氏が『ラジオ・マルカ』で語った懇願は、ファンの総意でもあるだろう。移籍専門記者のファブリツィオ・ロマーノ氏は、「クロースはマドリーと新契約を締結することで合意し、あとはサインをするだけの状態になっている」と報じているが、はたして。

文●下村正幸

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