【ヴィクトリアM】爆発的な末脚で掴んだ単勝208.6倍の大波乱!GI初制覇の津村騎手「訳がわからなかった」

14番人気テンハッピーローズが優勝 (C)SANKEI

「すごい走り方をしたなぁ......」――テンハッピーローズのヴィクトリアマイル最終追い切りを見た時、筆者はこう思った。

タイム的には決して悪くない。調教師が語るように調子は上向いているのは間違いないだろう。

だが、追い切りのVTRを見ると、首を上げながら坂路を駆け上がってくるテンハッピーローズの姿はお世辞にも走りに集中しているとはいえないもの。

基本的に競走馬は首を下げて走ることでトップスピードに乗るため、この走り方ではどうしてもスピードが出ない。にもかかわらず800mを走って55秒0という時計が出たというところに驚くほかなかった。

「もしかしたら、本当に調子がいいのだろうか?それとも......」レース直前まで悩まされることになった。

15頭のみという歴代最少のエントリー数となった今年のヴィクトリアマイル。昨年のマイルCSを制したナミュール、阪神牝馬Sを制して勢いに乗るマスクトディーヴァらが人気を争っているとはいえ、例年と比べるとやや小粒なメンバー構成になったことは否めない。

それだけにどの馬にも勝つチャンスがある混戦模様というのが今年のヴィクトリアマイルの下馬評だった。

曇り空の中で迎えたパドック。人気を分け合ったナミュール、マスクトディーヴァらがさすがといわんばかりの堂々たる周回を見せていたが、それに負けず劣らずの闊歩を見せたのが、これがGⅠ初挑戦となったテンハッピーローズだった。

曇り空の中でも栗毛の馬体は輝き、左後ろにある黒い斑点もどこかキュートに見えるほど。調教でのタイム、そして陣営の自信にあふれたコメントはこの馬の好調ぶりを裏付けるものだったのだろう。

だが......そうはいってもテンハッピーローズはこれがGⅠ初挑戦で重賞も勝ったことがない。

全5勝中、左回りで3勝を挙げるなどの適性の高さはあるが、マイル戦はここまで勝ったことすらなく、前走の阪神牝馬Sでは特に見せ場を作ることはできず6着と馬券を買う上での強調材料は少なめ。

そのためファンも信頼しきれなかったか、単勝208.6倍、15頭中14番人気という低評価にとどまった。

そうして迎えたレースは序盤、ナミュールが出遅れるという波乱のスタートとなったが、逃げることが予想されていたコンクシェルが順当にハナに立ち、2番手にフィールシンパシーが付けるという中でテンハッピーローズは真ん中から後ろ、15頭中10番手前後という位置取りに。

隣にはGⅠ実績豊富な実力馬ハーパー、その後ろにはナミュールがいるという状況だったが、ライバルたちはテンハッピーローズのことを気にかけている様子は見られない。

それぞれが自分の走りに徹しながら人気に推されたライバルをマークはしているが、14番人気の伏兵には目もくれていなかった。

コンクシェル、フィールシンパシー、そして秋華賞馬スタニングローズらが先団を形成したことで前半の3ハロンは33秒8というここ5年では最も速い流れに。

それだけに後ろにいる馬たちにチャンスが巡ってきたのは間違いないが、多くのファンが注目していたのはマイルCSを制したGⅠ馬ナミュールと1番人気に推されたマスクトディーヴァの2頭。ともに中団で脚を溜めて直線で末脚を爆発させるだろうと思われた。

そして馬群は4コーナーを回り、最後の直線へ入っていく。

ここまで先行していた馬たちが失速していく中、それを見ながらレースを進めていたクリストフ・ルメールが手綱を取るフィアスプライドが先頭に立ち、これを追いかけるようにウンブライル、マスクトディーヴァらが迫っていたが......1頭、まるで何かが爆発したかのように末脚を伸ばしてきた馬がいた。

それが、あのテンハッピーローズだった。

最終追い切りのVTRほどではないが、やや首の高いフォームのままトップスピードに乗り、200mを過ぎたところで外から一気にフィアスプライドを交わして先頭に。完全に抜け出したところで鞍上の津村明秀は左鞭を入れるとさらにもうひと伸び。

追いすがるフィアスプライド、そして馬群を縫うようにして上がってきたマスクトディーヴァ、さらに外から猛追してきたドゥアイズらが懸命にテンハッピーローズを捕らえにかかったが、その差は一向に縮まることはなかった。

気が付けば、テンハッピーローズは2着のフィアスプライドに1馬身1/4という決定的な差を付けて先頭でゴール。

やや外側に顔を向けて走る姿やゴールした瞬間に津村が右手を大きく突き上げるというパフォーマンスを見せて、大波乱の主役になってみせた。

「スタートから4コーナーまで思い描いていた以上にうまくいった。あとは直線でどこまで伸びるかだった。レース前には残り200mの時点で先頭に立っているとは思えなかった。信じられない気持ちがいっぱいで、訳がわからなかった」と、38歳の津村は興奮気味にインタビューでこう答えた。

確かに展開が向いたのは間違いない。そして陣営が戦前から離していたように調子がよかったこともプラスになった。

だが、そうして得たチャンスを全てものにしたからこそ、津村の鞭に応えてテンハッピーローズは直線であの爆発的な末脚を見せた。歴代女王たちに勝るとも劣らない切れ味を誇った末脚は今後の彼女の未来を明るく照らすものだ。

そんな人馬だからこそ、勝利の女神が微笑んだのだろう。初めてのウイニングランをファンの前で見せた時には再び陽が差してきたが、それはまるで大波乱を起こした人馬を祝福しているかのようだった。

■文/福嶌弘

第19回ヴィクトリアマイル(GI)着順
5月12日(日) 2回東京8日 発走時刻:15時40分

着順 枠順 馬名(性齢 騎手名)人気
1着 5-9 テンハッピーローズ(牝6 津村明秀)14
2着 2-2 フィアスプライド(牝6 C.ルメール)4
3着 4-6 マスクトディーヴァ(牝4 J.モレイラ)1
4着 8-15 ドゥアイズ(牝4 鮫島克駿)11
5着 6-11 ルージュリナージュ(牝5 横山和生)13
6着 3-5 ウンブライル(牝4 川田将雅)3
7着 7-13 モリアーナ(牝4 横山典弘)6
8着 6-10 ナミュール(牝5 武豊)2
9着 2-3 スタニングローズ(牝5 西村淳也)5
10着 5-8 サウンドビバーチェ(牝5 松山弘平)12
11着 7-12 キタウイング(牝4 杉原誠人)15
12着 8-14 フィールシンパシー(牝5 横山琉人)10
13着 3-4 コンクシェル(牝4 岩田望来)7
14着 1-1 ライラック(牝5 戸崎圭太)9
15着 4-7 ハーパー(牝4 池添謙一)8

※出馬表・成績・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。

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