『光る君へ』柄本佑が変わらないために変わった第二期の道長に 花山院が意外な形で再登場

『光る君へ』(NHK総合)第19回「放たれた矢」。道長(柄本佑)が右大臣に任命され、公卿の頂点に立った。これを境に先を越された伊周(三浦翔平)との軋れきが高まっていく。一方、まひろ(吉高由里子)は、ききょう(ファーストサマーウイカ)のはからいで、定子(高畑充希)と顔を合わせ、そして思いがけず一条天皇(塩野瑛久)とも対面することになった。

第19回では右大臣となった道長の変化と、権力闘争とは無縁で関心がなかった頃と変わらぬ道長らしさがうかがえる姿が印象に残る。

道長は一条天皇の前で、自分が関白の職を望まないのは、陣の定めで公卿たちが意見を述べ、論じ合う場に加わるためであるとはっきり述べた。一条天皇が「これまでの関白とはずいぶんと異なるのだな」と口にすると、ためらいなく「はい」と答え、こう続けた。

「異なる道を歩みとうございます」

第19回の道長の立ち回りを見ていると、道長は権力闘争に無関心だっただけで、政には積極的だと分かる。それには父・兼家(段田安則)の影響が大きい。政に対する父の姿勢に共感できない部分はあったと思うが、息を引き取った兼家を強く抱きしめる場面で柄本が見せた激情的な面持ちに表れていたように、「政とは家だ」と語った父の生き様に感じ入る部分はあったといえる。

そんな道長は父とは異なる道を歩むことを望み、民を思い、政への意欲を見せる一条天皇の意見を好意的に取り入れた。しかし道長が「帝は、民を思う御心あってこそ帝たりえる」と呟いた時、兼家から醸し出されていた風格が垣間見える。柄本佑の佇まいには公卿のトップの座にふさわしい品格が感じられ、秘められていた道長の政治の才が表れつつあるように思えた。

公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」で柄本は、この場面で明確に自らの意志を述べた道長について「見ている人がどう思うかわからないけど、第18回までの道長から第19回って、自分としてはちょっと第二期に入るというか、見た目と共にちょっとハッキリした感じに、変わったように見えるかもわからないですね」とコメントしている。

道長の変化は、陣定でもうかがえた。政治の表舞台に立つ道隆(井浦新)たちを引いた目線で見つめていた道長だが、その俯瞰の目が右大臣としての立ち居振る舞いに役立っている。民からの税免除の申し入れに伊周が反対した際、道長は他の公卿らに顔を向けると「いまだ疫病に苦しむ民を救うは、上に立つ者の使命と存ずる」と落ち着いた様子で意見を述べた。第18回のききょう(ファーストサマーウイカ)の見立てでは、贅沢を許さない厳しい姿勢から公卿や女官たちに人気がなく、権勢欲もなさそうで関白になることはないとされていた道長。しかし、事を荒立てず、されど自らの意見をはっきりと述べた道長に対して、実資(秋山竜次)がうなづいたり、公任(町田啓太)が口角を上げたりしたことに表されるように、道長の冷静な佇まいは確実に公卿たちの心を掴んでいた。道長には、公卿たちを統率する力がある。

とはいえ、道長が心置きなく話せる相手の前では、これまでと変わらぬ道長らしさが感じられる。柄本は気張らない身のこなしによって、道長と姉・詮子(吉田羊)の関係性、友人との関係性を見せてくれた。伊周一派を封じたいと除目に口を出す詮子に「道隆の兄上のようなことはできませぬ」と道長は断る。詮子と「できませぬ」ときっぱり断る道長のやりとりは面白かった。この時の2人は女院と右大臣ではなく、姉と弟に映る。

公任、斉信(金田哲)、そして行成(渡辺大知)との場面では、道長はのんびりした口調で「偉くなるのは大変だなあ」と呟いた。4人が語らう内容は政治や出世に関することだが、右大臣となっても今まで通りの道長であるからこそ、4人の友情は変わらないのだと感じられる。「俺もそろそろ参議にしてほしいなあ」と口にした斉信への、「ああ~……すまぬ」という返答もまた面白かった。不貞腐れる斉信に「この度は許してくれ」と申し訳なさそうに伝える道長の表情を見れば、道隆のような人選を避けることに努めた道長にとって、俊賢(本田大輔)と斉信のどちらかを選ぶのは難しかったことが分かる。

柄本は「君かたり」にて、道長が政治に向かえる理由について「政とは家だ」と語った父の存在とまひろとの約束をあげている。思いがけず政の頂きに立った道長が真摯に務めを果たす背景には、やはりまひろの存在がある。道長は一条天皇との会話で、まひろが一条天皇と対面し、政への意見を述べたことを知る。まひろの名を耳にした途端、道長は息を呑んだ。目を瞬かせ、息をつく様に、道長がさまざまな感情でまひろを思っていることが想像できる。「お上に対し奉り、畏れ多い事を申す者だと思いまして」という言葉は平常心を取り繕う言葉にも聞こえるが、純粋に好奇心旺盛なまひろを表しているようにも思えた。

「あの者が男であったら、登用してみたいと思った」という一条天皇の言葉を受け、道長は決心したように前を向く。そして道長はまひろの父・為時(岸谷五朗)を従五位下に推挙した。道長は礼を言う為時に向かって「お上の御為に尽力されよ」とだけ言い伝えてその場を立ち去るが、その面持ちはどこか満足げに見えた。

“第二期に入る”と柄本が表現した通り、これから回を重ねるごとに道長は少しずつ変化していくことだろう。けれど、まひろとの約束は色褪せず、またまひろへの思いも変わらないはずだ。公卿の頂点に立った道長とまひろは再び邂逅するのか。政治の場での活躍とともに気になるところだ。

第19回では、伊周と隆家(竜星涼)の場面も印象強かったのではないだろうか。特に物語終盤に伊周が見せた表情は同情を誘われる。先週の「君かたり」で三浦が「すごく今まで由緒正しきというか、非常に優雅で美しい伊周としてやってきたのがどんどん崩れていく序章です」と語っていた通り、これまでの強気な表情が一変、伊周は女に裏切られたと嘆き、鼻をすすって泣いていた。弟・隆家はそんな伊周を強引に女の家へ連れていき、別の男をこらしめてやるつもりで矢を射るが、その相手はなんと花山院(本郷奏多)だった。道隆(井浦新)亡き後の中関白家の更なる転落が待ち受ける。

(文=片山香帆)

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