【タイ】チェンマイで食べ放題が活況[サービス] 日本食店、地方に広がり(3)

タイ第2の都市である北部チェンマイで日本食人気が高まりをみせている。観光客に人気のニマンヘミン地区には特に日本食店が集中。同地区でしゃぶしゃぶ店を経営するオーナーは「チェンマイの日本食店業界には勢いがあり、多様化も進んでいる」と語る。首都バンコクほど消費力が高くないことから、値段を気にせずに食べられる「ビュッフェ(食べ放題)」が主流になっている。

日本の街角を再現した「ティンクパーク」。日本食店も複数入居する=4月2日、タイ・チェンマイ(NNA撮影)

しゃれた雑貨店や商業施設の多いニマンヘミン地区を歩いていると、日本食レストランの看板が次から次へと目に留まる。市内で車両交通量の最も多いリンカム交差点の一角には、日本の街角を再現したコミュニティーモール「ティンクパーク(Think Park)」が出現。日本の地下鉄の入り口や信号機を模したモニュメント、「忠犬ハチ公」の像などが置かれ、「まつり」「しゃかりき432”」といった日本食店が入居している。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の調査によると、チェンマイ県で営業する日本食レストランの数は右肩上がりに増えている。2021年には190店舗だったが22年に241店舗まで増え、23年には257店舗となった。

チェンマイで日本式しゃぶしゃぶ店「しゃぶ素(SHABU MOTO)」を3店舗展開するスパティニー氏は「チェンマイの日本食店ビジネスは近年急成長し、多様化が進んでいる」と話す。不景気で閉店を余儀なくされた店も一部あるものの、「市民の間で日本食人気は大幅に高まっている」と指摘する。

■しゃぶ素、2年で3店出店

スパティニー氏は、しゃぶしゃぶ好きが高じてしゃぶ素を開業した。開業前、チェンマイには日本式しゃぶしゃぶ店が2~3軒しかなく、既存店はアラカルト(単品注文)の店で値段が高かった。地元の人に日本のしゃぶしゃぶに親しんでもらえるようにと、食べ放題の店を始めた。

ニマンヘミン地区で2021年に1号店をオープンし、23年にメーヒア地区とルアムチョク地区に1店ずつ追加した。1号店の規模(席数)を上回る旺盛な需要があったため、店舗を増やしたという。現在はバンコクのアーリー地区にも1店舗を設けている。

スパティニー氏は「日本のしゃぶしゃぶを気軽に」との思いから、食べ放題の店「しゃぶ素」を開業した=4月2日、タイ・チェンマイ(NNA撮影)

■価格固定で安心感

しゃぶ素の食べ放題は1人490バーツ(約2,040円)から。主要顧客は地元住民で、常連客が多い。1号店だけは観光スポットである土地柄、約3割を県外からの観光客が占めている。

「チェンマイのお客さんは肉が大好きで、たくさん食べたい気持ちが強い」とスパティニー氏。「チェンマイ住民の消費力はバンコクと比べると低い可能性があり、値段が決まっていることに価値を感じてくれる」といい、あらかじめビュッフェで値段を固定することが、チェンマイで人気店になる第一歩だとの見方を示した。

しゃぶ素の1人当たりの平均消費額は、700バーツ前後。23年には4店舗合計で2,000万バーツを売り上げた。

チェンマイや東北県で総合和食店「おしねい(OSHINEI)」を26店舗展開するソンポーン氏も、購買力がそこまで高くないことから、チェンマイを含む地方では「食べ放題が消費者に受けやすい」と話す。おしねいは290バーツからという手ごろな価格でビュッフェを提供している。

■競争は激化

平日もほぼ満席の人気焼肉店「チェンマイホルモン」=4月2日、タイ・チェンマイ(NNA撮影)

人気の高まりに比例して、日本食店業界の競争は激化している。ソンポーン氏は「バンコクのような激しい競争が、新型コロナウイルス後にチェンマイでも起こり始めた」と指摘。食べ放題を提供する店は多く存在するため、特に厳しい競争環境にさらされているとの見方を示した。

一方、スパティニー氏は「しゃぶしゃぶ業界は需要と供給のバランスがとれているが、焼き肉は競争が激しい」と話す。そんな中、高い人気を得ているのが創業10年の焼肉店「チェンマイホルモン」だ。4月初めの夕食時に同店を訪れると、平日であるにもかかわらず店はほぼ満席だった。「一人焼き肉」客を含め、地元客が多い印象。外国人の姿も見られた。

チェンマイホルモンは食べ放題ではないものの、人気の秘密はやはり安さだ。牛タンは79バーツからなど、1皿100バーツ以下で「日本人も納得のジューシーな焼き肉」を堪能できる。店員によると、客の半数が地元のタイ人。残りが日本人や観光客だという。

チェンマイで勝ち残っていくためには地元住民が受け入れられる価格帯で、独自性や強みを打ち出していく必要がありそうだ。

■若者集う梅酒バーも

チェンマイではバンコク同様、梅酒も市民権を得始めている。旧市街地で5年前に開業した梅酒バー「NUII(ヌイ)」は、平日の夜も若者でにぎわっていた。

店内にはDJが常駐し、しゃれた雰囲気。若者がアフターファイブを楽しむ場になっている。

チェンマイ出身のオーナー、アムさんは「梅酒が好きなので専門のバーを始めた。日本に毎年旅行して梅酒やゆず酒をたくさん飲んで、好きになった」と話す。桃酒やフルーツワインも含めて日本の酒類を約50銘柄そろえる。1杯の平均価格は約150バーツ。「バンコクよりも安く、地元の人にも受け入れてもらえる値段だ」とアムさん。客の半数が地元の常連で、毎週のように通ってくれる客も多いと笑顔を見せた。

アムさんは市内でハイボールバー「FUNG(ファン)」も経営する。梅酒バーはNUIIが開業してから増え始め、現在はチェンマイで3~4店が営業しているという。

梅酒バー「NUII」には、梅酒やゆず酒、桃酒など約50銘柄が並ぶ=4月2日、タイ・チェンマイ(NNA撮影)

© 株式会社NNA