「ストライカーが務まるのか?」苦難の一年を過ごしてきた上田綺世が“3戦連続ゴール”で本領を発揮!「点を取るリズムみたいなのを作れてきた」【現地発】

オランダリーグ2位が確定しているフェイエノールトは5月12日、敵地でNECと対戦し、激しい点の取り合いの末、3対2で勝利した。この日、フル出場した上田綺世は1ゴール・1アシストを記録したうえ、ドリブル突破後の切り返しからNECディフェンダーの退場を誘うなど、高パフォーマンスを発揮した。

【動画】上田綺世がNEC戦で決めた3戦連続&今季5点目をチェック!

鳴り物入りでフェイエノールトに入団したものの、メキシコ代表ストライカー、サンティアゴ・ヒメネスの存在が壁となり、限られた出場機会のなかでなかなか結果を残すことのできなかった上田。そんな彼のことを前節の試合後会見で、アルネ・スロット監督は「綺世にとってアンラッキーだったのは、ヒメネスが開幕から絶好調だったこと。今季後半戦のヒメネスは調子の波こそあったものの、悪くはなかった。もし綺世がスタメンでプレーし続けたら、ヒメネスと同じくらいゴールを決めたはず。それは間違いない」と断言していた。つまり、上田にはオランダリーグでシーズン23ゴールを決めるだけのポテンシャルがあるということだ。

しかし、いくら指揮官が上田に信頼を寄せても、メディア、ファン、専門家の「フェイエノールトのストライカーが務まるのか?」という疑念の声を黙らせるには自身の活躍あるのみ。4月25日のゴー・アヘッド・イーグル戦(3対1)を皮切りにPECズウォーレ戦(5対0)、そして今回のNEC戦と3戦連続ゴールを決めたことは、来季につながる貴重なものだった。

「少しずつ点を取るリズムみたいなのを作れてきたのかなと思います。でもそれは出場時間あってのもの。このパフォーマンスを維持して、自分で出場時間を勝ち取らないとこういう風にはできないんで、そこがまず一番大事かなと思っています」

3連続弾で上田は今季5ゴール目。本来のゴールを奪う感触を、彼はどのようにして取り戻したのか。

「なんでしょうね。たぶん、そんな大したことじゃないと思います。どこかで自信を持ってプレーをできるキッカケがあったのかなと思いますけれど、自分でも別によく分かりません。でもずっと『こういう風に自分がやりたい』と思うことができるように今シーズン、トライしてきました。本当に最後の最後になっちゃいましたけれど、こうやって自分で出場時間をある程度勝ち取って、自分なりにいいパフォーマンスができているのは、いいことだと思います」

PECズウォーレ戦では強靭なフィジカルで敵の密着マークをいなしながらボールを運び、PKを奪った上田は、NEC戦では相手CBを背負いながら圧をかけて後退りさせ、ターンからシュートを撃とうとした。このシュートはミートしながったが、結果としてミンテのゴールのアシストになった。

「アシストに関してはパスしたつもりなくて、自分で撃ちに行きましたけど、こうやってシーズンを通して背負うことだったり、自分に求められていることをずっと練習してきて、今、できるようになりつつあるのは、自分としてもすごい成長を感じられる。相手を背負うこと、背負って壁になることは、自分があんまり得意としてなかった部分でした。でもそれが自分の選択肢としてひとつ増えるよう、今シーズンずっとトレーナーやコーチとトライしてきたんで、少しずつ身になってきているのかなと思います」
2対2で迎えた87分、CBベーレンの縦パスから右ウイング、ジャジャンバクスが右ポケットを取り、ファーポストで上田がワンタッチシュートで決勝ゴールを決めた。右SBを本職とするニーウコープが奪ったゴール、不振期のヒメネスがPSV戦で難なく決めたゴール、そして今回の上田のゴール...。これだけではなく、スロット監督がAZのコーチを務めていたことから、アルネのチームはポケットを執拗に突いてゴールを奪ってきた。スロット監督に「綺世のゴールは、『アルネ・ゴール』ですね」ということを確認してから、上田にこのゴールを振り返ってもらった。

「(ポケットを突くプレーは)共通理解の中でやっています。僕らはボールを握れるし、やっぱりああいうチャンスメイクが多い。 実際、あのシーンだけじゃなくて、前半からもポケットを取って、『マイナス』なのか、『ゴール前』なのか、シュートなのか、というシーンはたぶん何回も作っていました。(そのパターンを)数多くやって、一発当たった(=上田のゴール)というのが実際のところで、それを(フィニッシュのパターンとして)練習しているというよりも、ポケットの取り方がチーム次第ということ。そこを取ったら選択肢は別にそんな多いわけじゃない。マイナスかシュートかゴール前か――その3択、4択の中でどれが当たるかということだけであって、戦術的にポケットを取りに行く練習はしています」

AZのコーチ時代にスロットは『AZ、5つのゴールパターン』というものをまとめ、それをアップデートしてフェイエノールトでも活かしている。ポケットを執拗に突き続けて、将棋で言うところの『一手詰み』。その戦術自体に目新しさはないが、そのことを実践し続け、現実にゴールを奪い続ける実効性は素晴らしい。

上田のゴールはワンタッチのシンプルなものだが、チームとして個人として、これまでの多くの取り組みが実った結晶だった。

取材・文●中田 徹

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